20100321121149のコピー

その2)京都アニメーション作品の紹介〜土居豊の既出文章を無料公開 #prayforkyouani

第2回 

京都アニメーション作品の紹介〜土居豊の既出文章を無料公開中
#prayforkyouani

京都アニメーション放火事件について、及ばずながら、過去に京アニ作品について書いた文章を無料公開してます。
報道ですでにそのアニメ作品の魅力が伝えられていますが、拙筆で少しでも京アニ作品を視聴したくなる方が増えればいいな、と。(逆もあるかもしれないですが)


第2回も京アニの代表作といえる『涼宮ハルヒの憂鬱』シリーズです。
この作品について、筆者は2010年以来、主に原作のライトノベルと、作者の故郷である阪神間の風景描写に関する研究を続けてきました。


第1回へのリンク

⒈ 映画『涼宮ハルヒの消失』について
(土居豊『ハルキとハルヒ』より引用)
⒉ 「ハルキとハルヒ」刊行イベントでの、珈琲屋ドリームのマスターとの思い出
の2本です。

https://note.mu/doiyutaka/n/ndd22a826dea3#FiXO8




⒊ 「涼宮ハルヒ」の聖地・珈琲屋ドリームに、台湾からツアーが!

『涼宮ハルヒ』聖地巡礼ツアー from 台湾


※アニメ「涼宮ハルヒ」シリーズに登場する、SOS団待ち合わせ場所は、阪急西宮北口駅前の公園。現在は改築されている。


先日、「涼宮ハルヒ」聖地として知られる西宮の喫茶店・珈琲屋ドリームに、台湾からなんと、「聖地巡礼」観光ツアーが来られたようです。
喫茶店にあるハルヒファンの交流ノートに、台湾からのファンの皆さんが書き込みをされていました。
あとでお店のママさんにそのことについてお話を聞いたのですが、
どうやら、2年前に来日してドリームにも聖地巡礼に来た台湾の作家さんが、今回の聖地巡礼ツアーのアドバイザーになって、再び来られたのだとか。
その方の著作も、ドリームのハルヒコーナーに置かれていました。
台湾からのツアーは総勢20人ぐらいで、一週間ほど、日本アニメの聖地巡礼で各地を巡ったのだそうです。


http://prj.gamer.com.tw/travel/2014/


観光バスで来たそうですが、西宮北口周辺は、観光バスが停められないので困ったとか、お店が混んでいたので一度、北高まで行ってまた戻って来たとか、はるばる来られたファンの皆さん、けっこう苦労したようです。
もっとも、大勢の外国人観光客を迎えたお店の側も、大変だったようです。
観光客の方々は、どうやらお店の「ハルヒ」ゆかりのメニューを知らなかったようで、一人ずつバラバラに別々のものを頼まれたのだとか。お店では、「ハルヒ」ゆかりのメニューを出そうと、せっかくグラスを並べてたのに、注文されずじまいだったと、苦笑していました。
思うに、さすがの台湾人ファンたちも、ハルヒ聖地の喫茶店に、ハルヒゆかりのメニューまであるということは、知らなかったのでしょう。
今回の訪問をきっかけに、ハルヒメニューの存在も、台湾のファンの間に広まるといいのですが。


※「ハルヒ」シリーズに登場する「長門有希のメロンクリームソーダ」。ハルヒの聖地として知られる喫茶店・珈琲屋ドリームのマスターが、熱心なファンのアドバイスで実現した「裏メニュー」だった。


このように、「涼宮ハルヒ」ファンは海外にも多く、わざわざ観光ツアーを仕立ててやって来てくれる、ということを、日本の観光会社や、行政も、ちゃんと知っていてほしいものです。
特に、西宮市は最近、阪急西宮北口駅前に、ハルヒゆかりの時計塔を復活させたほどなのですから、この機会に、ハルヒ聖地巡礼の観光誘致を、もっと積極的に展開してほしいと思います。
ちなみに、西宮市が阪急電鉄と組んで、阪急神戸線の西宮北口駅構内に作った、観光案内所があります。そこにも、ぜひ、「涼宮ハルヒ」ゆかりの場所についての紹介をしてほしいと思います。

※西宮北口駅前に復活した「ハルヒ」の時計塔。



⒋   土居豊 著『沿線文学の聖地巡礼 川端康成から涼宮ハルヒまで』より、「涼宮ハルヒ」シリーズの聖地について



土居豊 著『沿線文学の聖地巡礼 川端康成から涼宮ハルヒまで』(関西学院大学出版会 2013年刊)
http://www.kgup.jp/book/b146062.html



【本文引用・アニメ版『涼宮ハルヒ』で描かれた実在の風景】

今回は、阪急神戸線沿線を舞台にした作品として、『涼宮ハルヒ』を取り上げる。まずは、アニメ版の一場面についてである。
アニメ版『涼宮ハルヒ』の中で描かれている風景は、近年のアニメに顕著な特徴である実在の風景トレースを行っている。これは、実在の風景をそのまま背景画にトレースして、アニメの画面にリアリティを出す、という手法だ。
例えば、『涼宮ハルヒ』の主役の一人で、語り手でもあるキョンが通う高校は、山の上にある。その通学風景が第一話から出てくるが、このアニメの背景画が、西宮市内の実在の風景だ、と放映当時からファンの間で話題になった。この実在の風景とは、阪急甲陽線の甲陽園駅から山手に上がっていく道筋で、夙川学院短大の隣りに、兵庫県立西宮北高校というのがある。『涼宮ハルヒ』シリーズで描かれる高校は、ここがモデルになっている、ということだ。主人公の涼宮ハルヒたちは、ここに通学しているのだ。


※西宮市の図書館で開催された「ハルヒ」イベントで、アニメに登場した高校教室が実物大ジオラマとして再現された




そのアニメ版の場面に、西宮だけでなく、阪神間の随所の風景をそのまま描いてあるので、それをみたファンが、同じ風景を写真に撮りに来たりするようになった。これを、いつしか、「聖地巡礼」と呼ぶようになったのだ。
アニメ作品の「聖地巡礼」の場合、この『涼宮ハルヒ』以前にも、数多くの例がある。だが、『涼宮ハルヒ』の場合には、他の例とは異なる特殊な事情がある。それは、小説版の作者の谷川流が、西宮育ちの西宮在住である、という点だ。つまり、小説『涼宮ハルヒ』シリーズの作品中にも、そのままの地名は書いていないが、実在の地名をちょっともじった名前がついていたり、小説の中に描かれた風景描写が、いかにも阪神間を髣髴とさせる。また、アニメ化されるとき、作者公認で阪神間のゆかりの場所をアニメスタッフがロケして、撮影した写真をそのまま背景画に描いていた、ということだ。
物語は、なんでもない高校生活を描くかと思いきや、徐々にSF風の展開をしていく。語り手の男子高校生キョンが、入学式の日に出会った涼宮ハルヒという女子高生は、不思議な事件を起こす力を持っているらしい、ということが、だんだんと明らかになっていく。
この小説の物語は、作者・谷川流自身の学生時代の体験が、色濃く反映された部分が多い、とみられている。だからこそ、小説の舞台は、作者自身が青春を過ごした阪神間の風景でなければならない、というリアリティの一致があるのだ。

さて、『涼宮ハルヒ』の中で、阪急神戸線沿線ゆかりのエピソードの一つとして、主役たちが一種の異次元空間へ紛れ込んでしまう話がある。その場所というのが、阪急梅田と阪神百貨店前の交差点である。
その異次元に入る前段階として、主人公たちは、普段の生活の場所である西宮近辺から、川を越えて大阪に出てくる。川を越えることによって、別の世界に入る、という、よくある手法が、この作品でも使われている。三途の川をイメージすればわかりやすいだろう。川を対岸に渡ると、別の世界である、という手法なのだ。世界共通に、川を越えて死後の世界へ、という神話があるので、川を渡る、というのは別世界へいくことの象徴になる。
『涼宮ハルヒ』でも、普段の生活空間から川を越え、別世界へ移行して、そこで不思議な事件に遭遇する、という描き方がされている。その場面で登場するのが、大阪梅田にある、阪神百貨店から大阪駅へつながる広い横断歩道だ。あの辺りの巨大な交差点が、作品の中で、異次元との境目の役割を果している。
現在は残念ながら、大阪駅のビルが新築されたので、アニメ版の背景とは、風景がかなり変わってしまった。その大阪駅前の風景で、一つ、奇妙なことがある。偶然だろうが、アニメの背景の絵が、現実の風景を予言的に、先取りして描いているのだ。
アニメ『涼宮ハルヒ』では、大阪駅と阪神百貨店の間の横断歩道を、二人の男子高校生が歩いている。その向こうに、本来ならあるはずの建物が、アニメでは描かれていない。描かれていないのは中央郵便局なのだが、アニメの背景画で省かれた理由は、わからない。
おそらくは偶然だろう。このアニメは2006年放映だから、実際はここにあるはずの中央郵便局を、背景で描いていないのは、単に面倒くさかっただけかもしれない。ところが、その後実際に、中央郵便局は移転して、取り壊されてしまった。
中央郵便局の建物は、近代建築の傑作で、保存運動が起きていた。太平洋戦争中、高射砲陣地が屋上にあったという話もあり、歴史的に価値の高い近代建物だった。
けれど、保存運動もむなしく、結局あっけなく解体されてしまった。そうなると、アニメ『涼宮ハルヒ』の背景画は、不思議なことに、中央郵便局が解体されたあとの2013年の風景を、2006年の時点で描いてしまっているということになる。偶然にしても、面白い現象だ。





以下、ちょっと話はそれる。大阪駅の駅前を、再開発したいというのは当然だが、大阪駅ビルを新しく作って、あの変な巨大滑り台みたいな屋根を作ったのは、どうなのだろう。確かに、大勢の人があつまる空間にはなった。さらに大阪駅の北側に広大な土地があるので、そこもグランフロントとして再開発している。元もとは、サッカースタジアムを建てるとか、緑地にするとか、いろいろ案があったらしいが、なんとなく、ありきたりの再開発地区になってしまいそうだ。
一方、取り壊された中央郵便局の建物は、再び今、同じ建築を建てるのは無理、というような、昔のモダニズム建築である。
どうせ再開発するなら、あれを壊して建て替えるのではなく、再利用して、うまく大阪駅前の目玉施設の一つに転用すればよかったのに、と思う。とにかく日本人というのは、壊すのが好きな国民だ、と思う。古いものをどんどん壊してしまうのは、非常にもったいない。



次回は、映画『けいおん!』評などを掲載します!


第1回へのリンク

⒈ 映画『涼宮ハルヒの消失』について
(土居豊『ハルキとハルヒ』より引用)
⒉ 「ハルキとハルヒ」刊行イベントでの、珈琲屋ドリームのマスターとの思い出
の2本です。

https://note.mu/doiyutaka/n/ndd22a826dea3#FiXO8

土居豊:作家・文芸ソムリエ。近刊 『司馬遼太郎『翔ぶが如く』読解 西郷隆盛という虚像』(関西学院大学出版会) https://www.amazon.co.jp/dp/4862832679/