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無償の愛のおもてなし

2023年の年の暮れ。
わたしたちは、10人ほどでわらわらと目指す店に向かっていた。
コロナが5類になって初めての忘年会シーズン。水道橋駅周辺は混んでいる。
一行は店に着く前からどことなく浮かれていて、だれも本気で地図アプリを見ていない。
飲食店ばかり入るビルが軒を連ねる界隈で、目当ての店の周辺に着いたことがわかった。
さて、どのビルだ?
おとな10人が一斉にきょろきょろし始める。
この会のリーダーが、そばにいた若い男性に声をかけた。
「このお店知ってます?」

男性はキャッチだった。別の店の。
彼の仕事は自分のお店に客引きすることである。
別のお店を聴かれたら、営業妨害だ。
「ケンモホロロにされちゃうよ、リーダー・・・」
とわたしは心の中でつぶやいた。
予想に反して、男性は
「あ、すぐそこですよ。わかりにくいんでそこまで連れていきます」
と言って、きびすを返すと頼もしい背中を見せて水道橋の雑踏を泳ぐように進んでいく。
自分のお店のアピールなど、まったくなしだ。
「この地下です」
言うと、にっこり笑って
「じゃあ」
と手を挙げた。
10人のおじさんおばさんを置いて。ちょっとイケメンなお兄さんはただたださわやかに去っていった。
何の得もない、商売敵のための道案内。
なんだこの繁華街に不釣り合いなすがすがしさは。
お兄さんの上に幸あれ。割りと本気でそう本気で思った。

お兄さんが連れてきてくれた肉バル。
肉バルなのにコース料理は海のものばっかりでおもしろかった

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