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「勉強が楽しい」から「成績がいい」のか、「成績がいい」から「勉強が楽しい」のか?ニワトリとタマゴの関係


大学受験予備校の東進が興味深い調査結果を発表しました。

勉強ができる人ほど勉強を楽しく感じる傾向があるとの結果が出たとのことです。

具体的には、東進が実施した模試の成績上位者ほど、勉強を楽しく感じる割合が高かったとのことです。

今回は勉強についてのデータでしたが、勉強以外でも「楽しくてしかも成果が出ている」という状態になった経験がある人もいるかと思います。

成果が出る」という表現は少し抽象的ですが、受験勉強であれば成績が上がる状態や志望校に合格すること、スポーツや部活であれば勝てる、点を取れる、上手くなっていくなどでしょうか。

仕事であればKPIを達成できる、評価が上がるとも言い換えることができます。ゲームにあてはめてもわかりやすそうですね。

成果が出るとは言い換えると期待した結果が出ているとも言えます。

ニワトリとタマゴの関係に似ている

果たして「勉強が楽しいから成績が良くなっていく」、「成績が良くなってきたから勉強が楽しく感じるのか」どちらなのでしょうか。

多くの時間を使いかつ将来にも影響がある大学受験。大学受験のコーチ・トレーナーとして受講生には少しでも良い成果を出して欲しいので、この辺りを分析してみたいと思います。

成績の良さと勉強の楽しさには関係があるのか

受験を始めたばかりの受験生からは勉強がつまらない、大変だと感想を漏らすことが多いです。その一方で、早慶や旧帝大などの難関大学に合格した受験生は「勉強は楽しかった」という人は多いです。

成績の良さ楽しさにはある程度関係がありそうです。

そこで、勉強の楽しさはどのタイミングで訪れるのかを理解するために、勉強の成績と学習時間(学習量)の関係をざっくりグラフにしてみました。

手作り感満載のグラフはぜひ暖かい目で見守っていただければ幸いです。(笑)

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勉強の量と成績の伸びは直線的ではなく、上図のような曲線を描きます。

このグラフは学習曲線やS字成長カーブと呼ばれることもあるようですね。

生き物が生まれてからぐんぐん育つ成長期を経て、徐々に成熟していく過程を描いたものであるという。フラスコ内での微生物の増殖速度から、昆虫やネズミの繁殖プロセスにも当てはまる。
学習曲線、バグ収束率、毒物の投与量と影響の強さ、伝染病による死亡者数、新たに発見される元素の数などもこのカーブで表現できるという。

この学習曲線を使って先生などに「ある程度我慢して勉強したら伸びるよ」と言われたことがある人もいると思います。でもなぜそうなのか分からないとなかなか納得できないもの。かつての私もそうでした。

今回はこのS字カーブを使って「勉強が得意=勉強が楽しい」が大学受験で当てはまるのかを見ていきたいと思います。

難関大学合格者が勉強を楽しめたワケ

結論から入ります。難関大学合格者の多くが勉強は楽しいと感じることが多いのはS字カーブの成長期を経験しているからなんです。後述しますが、特に成長期の後半が重要になってきます。

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ある程度のつまらない期間(STAGE1)を経て、知識や理解が深まってくると成長期(STAGE2)に入りどんどん勉強が楽しくなります。

勉強が楽しくてさらに成績も上がっていく、最高だと思いませんか?

では、STAGE1のつまらない期間とSTAGE2の楽しい期間で具体的に勉強の内容はどう違うのでしょうか。

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STAGE1は基礎の暗記が中心

STAGE1では勉強内容はほとんどがインプットで、新しい知識を覚える作業が中心です。

英語:単語、熟語、文法などの暗記

数学:公式の暗記や解法の理解

国語:漢字、用語、単語などの暗記

理科:公式の暗記や現象のイメージを反復

社会:単語や出来事の暗記

STAGE1では勉強内容のほとんどが分からないことや知らないことなので、知的好奇心がないと自分が今なにをやっているのか分からなくなってしまうことも... 勉強そのものが好きではないと辛い期間になっちゃうかもです。

この期間は勉強ができるようになっていく感覚を掴む機会が少ないので、勉強していること自体にも不安が出てきてしまいます。

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この期間はその科目自体が好きでないと「つまらない期間」なのですが、STAGE1で勉強すべき内容を進めていくとSTAGE2にステップアップすることができます。

ちなみにこのSTAGE分けはスポーツや趣味、仕事にも当てはまるのではないかと思っています。STAGE1は基礎練や体づくり、習慣化、STAGE2は応用や実践、と捉えると他の分野にも適応できそうです。

勉強が辛かったり楽しく感じにくいので、このSTAGEにいる段階で勉強をやめてしまうともったいないです。

STAGE2はSTAGE1で覚えた内容で演習を開始

STAGE2では徐々に勉強が楽しくなってきます。

STAGE2ではSTAGE1身につけた基礎的な知識や理解をもとに実践問題や演習問題を始めます。多くの教科書や参考書でも基礎事項の暗記→演習とステップが分かれているので想像しやすいかもしれませんね。

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STAGE2では演習することによって「問題を解いて正解する」パターンが出てくるので、問題に正解するたびに達成感を感じることができます。

暗記したものを応用して問題に正解することで達成感を感じることもできますし、問題を解くことで暗記内容をさらに定着させることができ、問題のパターンを身につけることができるのでこのステップはぐんぐん成績が伸びています

また勉強したことの結果が目に見えるようになっているので、安心も感じることができるようになっていますね。

勉強が楽しくなってくるのでさらに勉強がはかどり、勉強することで実力が上がっていき、より成績が上がるので達成感を感じて勉強が楽しくなっていく、というポジティブなサイクルに入ることができます。この状態を正のフィードバックループとも言います。

このSTAGE2の成長期に入ることが出来れば、停滞期と違って勉強していること自体を楽しく感じることができるようにもなってきます。

STAGE1で辛くても我慢して勉強を続けていけば、STAGE2では少しずつ報われていきます。

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問題集などを解いて目標の正解率を設定して、それを目指して勉強して、目標の正解率をクリアしたら達成感を感じることができますよね。

ギリギリ達成できるレベルのチャレンジをしている状態はドーパミンが出ている状態で、やる気や達成感に繋がっており脳科学的にも良いとされています。

一方で、演習するたびに分からない問題や新しい知識と出会うのでまだまだ覚えることがあるのも、このSTAGEの特徴です。

STAGE3は再び停滞期。ただ到達できることは稀

勉強がどんどん楽しくなるSTAGE2からステップアップしSTAGE3に入ると再び成長度合いが下がる停滞期に入ります。

ほとんどの知識は覚えてしまっているので新しく覚えることは少なく、また問題を解いても当然のように正解できてしまうので達成感は以前と比べて小さくなっています。

大学受験においては、このSTAGEに入っていれば目標の志望校に対して合格はほぼ間違いない状態です。ただ、実際にはこの状態になることができるのは数百人から数千人に一人くらいだと思います。長年大学受験に関わっていてもこのSTAGEに到達できた人はほぼ見たことがありません。

東大や私大最難関、国公立医学部も余裕なのがSTAGE3

そこでしか学べない専門分野があって、その学部学科だけを目指す場合を除いて大学受験では成績が良くなれば良くなるほどさらに難しい大学に目標を変更することができるので、文系だったら東大文I、理系だったら東大理IIIにも余裕で合格できるという状態がこのSTAGE3だと言い換えると、どれくらい難しいことか想像できるかもしれません。

この状態では大学受験で扱う内容はほとんど理解できているので、勉強しても達成感や刺激を得ることが難しく勉強がつまらなく感じてしまいます。

このステップに到達できたら、どの分野でも神と崇められるような存在です。

例えばワンパンマンの主人公サイタマも、もはや強すぎて戦っても達成感や刺激を得ることが出来ないので、戦闘力をグラフにするとこのSTAGEに到達していそうですよね。


学校の勉強に限ればSTAGE3に到達することも

大学受験と違って学校の勉強だけをしている場合には、ゴールがある程度決まっているのでこの停滞期に入ることもあるかもしれません。

学校の試験では大学受験に比べて範囲が狭いので、定期テストや小テストで満点が比較的取りやすく、自分で勉強している人にとっては学校の勉強は進度が遅いのでつまらない、といった経験をしたことがある人もいそうです。これは学校の勉強というグラフではSTAGE3の停滞期に入っていると言えるでしょう。

大学受験において、自分がどのSTAGEにいるか判断するための基準は?

大学受験の中で自分のいるSTAGEはどこなのか、どれくらい勉強したら勉強が楽しくなるのかを判断する基準は、センター試験レベルの得点率で測ることができます。

今年度からセンター試験ではなくて共通テストへ変更になりました。センター試験と共通テストは難易度はそれほど変わらないと告知されているもののまだ共通テストは実施されていないので、昨年度まで行われていたセンター試験のレベルでの目安としています。

センターレベルの得点率65%を境にSTAGE1とSTAGE2、得点率95%を境にSTAGE2とSTAGE3に分かれます。

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つまりセンターレベルで65%が取れる科目は一気にその科目の勉強自体が楽しくなっていきます。

この点数は私のこれまでの受験指導や数多くの現役大学生と討論してきた中での推測ではあるのですが、センター試験は独立行政法人大学入試センターが平均点が60点になるように作っているものなので、だいたい平均より得点できる=中級者以上程度のレベルになってくればどんどん楽しくなっていくというのは、他の分野での到達レベルから考えてもあながち間違っていないような気もします。

選択科目すべてが65%を超えたら、受験自体が楽しくなる?

それぞれの科目で得点率が65%を超えるとその科目が徐々に楽しくなっていくとご説明してきました。一方で、まだSTAGE2に入っていない科目は、まだ楽しくありません。

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例えば、英語と国語は楽しくなってきたけど数学はつまらない、みたいなパターンもあります。選択科目のすべてが65%を超えてくると受験勉強全体が徐々に楽しくなってくるんですよね。

今受験勉強がつまらないと感じているなら、まず全科目でひとまず65%まで頑張ってみれば徐々に受験勉強が楽しくなっていきますよ!

一番楽しい期間は85~90%

センターレベルで65%あたりでSTGE2に入ってから勉強が徐々に楽しくなり始め、成長期の後期、だいたい85~90%あたりで一番楽しいところに入ってきます。

ある程度の問題でも正解できて達成感があるし、知らない知識もまだ多少残っているので新しいものを学べるという刺激もあって、充実感を感じることができるようになります。

これまで積み上げてきた勉強が結果という形で実感できることも、やってきたことに対する自信として反映されていくのではないでしょうか。

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旧帝大や早慶といった一般的に難関大学と呼ばれている大学に合格するためにはこれくらいの点数を取れるようにならなければならないので、難関大学合格者で勉強が楽しかったと感じている人が多い印象なのは、S字カーブにおける勉強が一番楽しい期間を経験することができているからという仮説はある程度確からしいのではないかと思います。

S字カーブの入れ子構造

ここまで成績はS字カーブのように上がっていき、STAGE2の成長期に入ればどんどん勉強が楽しくなる、とご説明してきました。

実はこの大きなS字カーブは小さなS字カーブの集まりで成り立っています。

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STAGE1で勉強している途中でも、日々の勉強の中で数多くのS字カーブを経ています。

例えば大学受験の英語でご説明すると、STAGE1では英単語、熟語、文法の暗記や理解が中心で、STAGE2の前半では一文読解や簡単な長文読解、STAGE2の後半では難しい長文読解や英作文、英訳和訳が該当します。

この中の例えばSTAGE1の英単語を勉強するときにも、英単語の勉強を始めてから英単語をマスターするまでにたくさんの小さなS字カーブに乗って勉強が進んでいきます。

1冊の単語帳で勉強し始めて、最初は出てくる単語はほとんど知らない状態で勉強するのが辛くなってきますが(STAGE1)、しばらく我慢して勉強していると分かる単語が増えてきて、単語帳の中の小テストや知らない単語につけていた付箋が取れるようになってくるとちょっとずつ達成感を感じることができるようになってきて単語帳で勉強するのが楽しくなってきます(STAGE2)。

体感では、知っている内容が7で知らない内容が3くらいの時が、勉強していて一番充実感を感じることができています。

そしてその単語帳に載っている単語をほとんど全部覚えてしまうとその単語帳で勉強しても達成感や刺激を得ることが出来なくなってくるので、つまらなくなっていきます(STAGE3)。

英語の文法や長文などでも同じ小さなS字カーブがありますし、他の科目の各分野も小さなS字カーブで成り立っています。

STAGE2に入りやすい設計をすることで勉強が続く

毎日長い時間勉強をする必要がある大学受験。少しでも楽しく、成績を伸ばすためには毎日の勉強に楽しみや達成感を感じたいですよね。

志望校合格までの勉強の中で、ここまでご紹介してきたようなSTAGE2の成長期を少しでも多く経験できる勉強法にすれば、達成感や楽しさを感じる機会が増えるので、より勉強に前向きに取り組めるようになります。

自分の実力よりもずっと難しい問題を解き続けていると徐々にメンタルがやられてきます。「こんなにできない自分」「成長できている実感が湧かない」自分へのそんなイメージを持ち続けていると勉強にポジティブなイメージを持てないのは自然なこと。

その日の勉強終わりに以前終わらせた参考書を復習したり、問題集をもう一度解き直してみる、簡単なドリルがついている問題集で勉強を進めてみたりなど、何かをクリアしたり正解したりできる感覚を持てるような環境で勉強を進めることで、少しでもモチベーションを高く保つ工夫になりますよ!

各分野でのS字カーブとSTAGEの境界線を教えてください

今回は大学受験における楽しさと成績の相関をS字カーブとSTAGEを使って説明してみましたが、大学受験以外でもS字カーブを適用できる分野はあると思うので、あなたの詳しい分野でS字カーブとSTAGEの境界線がはっきりしているテーマがあればぜひ教えてください!どんな分野でも嬉しいです!コメント欄かTwitterでもお待ちしています!

参考資料

学習曲線について、過去にもドイツの心理学者エビングハウスも同様の理論を提唱しているようです。



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