ここまでわかった犬たちの内なる世界〜#05イヌの心の理論〜あなたからも “パーティーの招待状 “を送ってみませんか?
雪だ!雪だ!雪だ!
さあ行くぞ!
イヌたちはいっせいに外へ飛び出していく。
雪原を駆け出すと、たちまちイヌたちは大はしゃぎだ。
踊るように、追いかけっこをする若いイヌたちもいる。
マロンが“トロフィーの息子”に肩をぶつけた。
トロフィーの息子は少し面食らった そぶりを見せる。
お互いが相手の顔を見すえたまま、前足で雪面を軽くひっかいた。
これが、かれらの 「さあ、いっしょに遊びましょう」のシグナルだ。
少しだけトロフィーの息子の顔がこわばっている。
「これはマロンの挑戦だ」と受け止めているのかもしれない。
本来、イヌの世界では、お辞儀のしぐさをするのが遊びを始める際のルールだが、かれらはこれを省略する。お辞儀のあいさつは抜きだ。
早速、力試しが始まった。
雄たちの「支配ごっこ」だ。
かれらは、「支配」は遊んでいる間だけと割り切っているようだーー。
誤った信念を見抜く
前回の#04『 イヌは仮説を組み立てる?』では、イヌの他者認識について話題にしました。 今回のテーマは、その続編にあたる「心の理論」です。
心の理論?
聞き慣れない言葉だなと思われる読者の方もいらっしゃることでしょう。それもそのはずです。日本人には一般にあまりなじみのない言葉だと思います。
心の理論については、 欧米では80年代から研究が進んでいたんですが、日本では2000年代に入ってようやく心の理論について書かれた初の著作が出たという状況です。
心の理論とは、
のことで、
この心の理論には、意識の すべての要素が含まれるとも言われており、イヌたちの内なる世界を垣間見る上で1つの鍵になると筆者は確信しています。
“心の理論”という呼び方は、1978年に発表されたプレマックとウッドラフによる論文『チンパンジーには心の理論はあるか?』で初めて使われ、以後、特に発達心理学の分野で研究が進められてきました。
心の理論にまつわる有名なテストがあります。“誤った信念”課題といわれているものです。
ざっくり説明しておきますね。
人形劇を子供に見せながら、次のようなお話を聞かせます。
そこで子供に問いかけます。
「心の理論」を備えている子供であれば、マクシがチョコレートの移された場所を知らないことを正しく理解し、「緑の戸棚」と答えます。
3歳児はこの“誤った信念”課題に正解できず、4歳以上になってから正解できるようになると報告されています。
この研究から、 “誤った信念課題”は4歳にならないと解決できないと信じられてきました (ネット検索すると、少なくとも 検索順位が上位のサイトでは、4、5歳以上でないと心の理論は備えていないと断定的に書かれている)
2005年に発表された研究では、注視時間という“ものさし” が使われました。15カ月齢の幼児56名に、スイカを色の違う箱に移す場面を見せて、それを見る幼児の目の動きを追って他者の“ 誤った信念”を理解できるかどうかを探ったのです。その結果を、先の「マクシとチョコレート」の実験にたとえれば「緑の戸棚」を注視したのと同様の結果になっています。
というわけで、ヒトの場合、生後15カ月の幼児でも、自分の知っていることと、他者が知っていることを区別できるらしいのです。
人間以外の動物におけるこの能力については、科学界での理論的コンセンサスはなく、確かな証拠も未だないとされてきました。
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