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かわうそ物語 #あなたへの手紙コンテスト



 かわうそは、嘘をつくので、かわうそと言うのです。
 かわうそが川べりを歩いておりますと、カメさんたちに出会いました。
 カメさんカメさん。
 その甲羅は重かろう。
 いいものがあるから、取り替えてあげましょう。
 そう言って、かわうそはカメさんたちの甲羅を外すと、プラスチック製のを付けてやりました。
 カメさんたちは、こりゃあ良いと喜びました。
 ところが川へ入って泳ぎ始めたところ、軽過ぎて潜ることができません。
 川には色とりどりのカメさんたちが、ぷかぷか、ぷかぷかと浮いているのでした。

 

 父が亡くなって四十九日が過ぎた。
 直前まで私が負けそうなくらい元気であったので、見事な散り際というよりもあまりの呆気なさに置いてけぼりをくらった。
 その二週間ばかり前、小さい頃寝る前にしてくれた、あのお話をもう一度聞かせて欲しい、とねだった。
 書いて渡そうかと言うのを、いやあの頃のように話して欲しい、録音するからと頼んだ。
 小話を三つばかり。
 荒唐無稽な内容に、父も話しながら笑い出し、私も腹を抱えた。
 その音声もろとも、残った。
 虫の知らせ。

 弟と二人、役所の待ち時間にそんな話をしていると、眼前にプラスチックの甲羅が、赤、青、緑、黄色、白と鮮やかに舞った。
 そうか。
 昭和四十年代の初め、色とりどりのプラスチックというのは、高度成長時代を迎えようとしていた庶民の、希望の象徴だったのかもしれない。
 若い両親と幼い子供。
 ぬいぐるみが破れると中から藁が出てきたあの頃、かわうそが持ってきたのは、豊かな未来。
 希望の物語。


 かわうそが川べりを歩いておりますと、カバさんに出会いました。
 カバさんは大きな身体で、小さな草を食べておりました。
 カバさんカバさん。
 それではお腹が空くでしょう。
 川底には美味しくて、一口では食べられないような大きなご馳走が落ちていますよ。
 カバさんは喜び、どれどれ、と川に沈んでいきました。
 川底には泥がたくさん溜まっています。そこを探してもぞもぞしているうちに、足を取られてひっくり返ってしまいました。
 カバさんの足は上に向いてバタバタ。
 かわうそはそれを見て、
 やあ、カバが逆さになっている。バカだバカだ。
 手を打って笑いました。

 

 九月初旬に今年のイグノーベル賞が発表された。
 輸送賞「サイを空輸するには逆さ吊りがいい」


Radcliffe RW, et al. THE PULMONARY AND METABOLIC EFFECTS OF SUSPENSION BY THE FEET COMPARED WITH LATERAL RECUMBENCY IN IMMOBILIZED BLACK RHINOCEROSES (DICEROS BICORNIS) CAPTURED BY AERIAL DARTING.
J Wildl Dis. 2021 Apr 1;57(2):357-367.



 こうやって運ぶんですね。
 輸送時には逆さまに吊り下げても、呼吸機能に影響しない、ということを調べたのだそう。

 サイとカバは一緒じゃないけど。
 カバさんが逆さになったのは水中だけど。
 カバさん可愛そう、と思ったのだけど、大丈夫だったならいいね。
 父没後約十日でのイグノーベル賞発表。一緒に見たかったね。

 プラスチックの甲羅は今どきの環境問題にそぐわないから、そろそろカメさんたちに本物の甲羅を返してあげたらどうだろうと思って。
 かわうそは、どこに甲羅をしまったのだろう。
 大切なことは全部ここに書いたから、と父が言っていた黒い手帳をめくってみたけど。
 謎のまま残った。


 お父さん。
 こんなもの書いてみたけど、どうかね。
 お母さんと二人、笑いながら読んでおるかね。

 私が読んだり書いたりするのが好きなのは、間違いなくあなたの影響なので。
 大層、感謝しておりますよ。


(約1330字)


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 水野うたさんの企画に参加希望です。企画のおかげで書けるものってありますよね。うたさん、ありがとうございます。


 小話の残りの一つは、こちらの原作となりました。よろしければお越しくださいませ。


お気持ちありがとうございます。お犬に無添加のオヤツを買ってやります。