YouTubeの英語動画に字幕をつけていた

※この記事はボヤきと想い出話になります。ネガティブに終わっていますが、その後いろいろあって、今でも字幕をつけています。最新のkurzgesagt字幕事情を知りたい方は、マガジンか、まとめ記事まで。

Kurzgesagtという科学チャンネル

Kurzgesagt- In a Nutshellという科学系の人気YouTubeチャンネルがある。物理学や生物学、心理学や政治問題など幅広い領域を対象に、興味深いトピックを丁寧に掘り下げ、美麗なアニメーションでわかりやすく解説している。動画投稿頻度が高いほうではないだろうが、一つ一つの動画が入魂のクオリティなこともあり、現時点でチャンネル登録者数は1250万人にまで達している。

動画内容の科学的信頼性も高い。動画の詳細欄には情報源へのリンクがあり、それをクリックすると入念な下調べがなされた痕跡を見ることができる。また、チャンネルでも屈指の再生数を誇っていた2つの動画について、「情報源が限定的だったので消去する」と宣言する動画を投稿し、実際に削除したこともある。

このチャンネルの動画に日本語字幕をつけることが、最近は趣味の一つになっていた。しかし、もうこの趣味は終わりになりそうである。合計20本ほど字幕を投稿してきて、思い入れも強い。経緯をまとめてみたい。

きっかけ

3年ほど前にKurzgesagtの存在を知り、貪るように過去動画を視聴していった。特に遺伝子編集についての動画は衝撃的だった。ハマって程なくして、自分がボチボチ詳しい領域の動画が投稿された。字幕がつくのを待ちきれなかったところ、自分で字幕をつけられることを知った(※1)。

時間がかかる作業だったが、自分の作った字幕が公開されるとなにか重要な知的貢献をしたように錯覚でき、気分が良かった。英語力も向上しそうだし、科学的なトピックに詳しくなれるので、生産的な趣味になりそうだった。


継続的に取り組んだ

それ以降、手が空いていたり、好みの動画だったりしたら、字幕をつけるようになった。Twitterで「Kurzgesagt 字幕」など検索してみると、字幕を心待ちにしている人もポツポツといて、モチベーションが上がった。

Kurzgesagtは日本ではまだ十分に認知されていないようで、字幕をつけようという人は多くないようだった。自分が動かなければ一向に字幕がつかないということも少なくなかった(※2)。

Kurzgesagtの動画で字幕がついていないものがあると気持ち悪く感じ、穴を埋めたいと思うようになった(他の記事にも書いたが自分には妙なコンプリート癖がある)。全く専門性の無い領域の動画も、勉強をしながら字幕をつけるようになった。自分でいうのも何だが、ボチボチ徳を積むことができた気がする。


字幕へのこだわりが形成された

少し慣れてきたころ、遺伝子編集の動画を見返してみて仰天した。字幕が圧倒的に短く、わかりやすかったのである。それはかなり思い切った意訳によって実現されていた。

振り返ってみると、当時の自分の字幕は本来の文意に忠実すぎて、文字数を削りきれていなかった。視聴者は優れたアニメーションを十分に堪能できず、字幕とにらめっこをするはめになっていたのではないだろうか。

以降、その動画を参考にしつつ、以下のような字幕づくりのルールを作ってみた。徐々に自信が持てるようになっていった。

・文字数は可能な限り削る
・文章はなるべく2行までに収める
・主語のweやyouはいちいち訳さない。(日本人の会話において主語が省略されることは珍しくないため、視聴者は特につっかからない)
・素直に訳しても文意が伝わりづらいような文章では、思い切った意訳もやむを得ない。
・科学的な文章なので「だ・である」調で書く。ただし、動画の最後にあるチャンネルから視聴者へのメッセージについては、「です・ます」調とする。

モチベーション低下

先日「気候変動の責任はどの国にあるのか?」というテーマの動画が投稿された。個人的に感心のある内容だったので、張り切って字幕をつけた。なかなかいい出来だったと思う。

程なくしてチャンネル側の承認があり、字幕が公開されたのだが、これをみて唖然とした。字幕が全て「です・ます」調に直されていたのである。ざっとみたところ、訳そのものへの指摘はほとんどなかったようで、「です・ます」調に直すこと自体に取り組んだ人がいたようだった。自分にはこの修正の根拠がわからず、自分の作品が蹂躙されたような感覚を覚えてしまった。

これは酷くひとりよがりな感情だろう。字幕を修正してくれた人は善意でやっているのだろうし、「Kurzgesagtの字幕には自分のこだわりが反映されていてほしい」というのも押し付けがましい話だ。

YouTubeの字幕づくり機能には、修正案に反論するような機能は無い。そういうルールで営まれている場なのだから、自分の流儀と合致しない修正に憤慨するようでは勘違い野郎なのである。字幕づくりからは離れることにした。

そもそも終わりが近づいていた

つい先日知ったのだが、YouTubeはこの「視聴者が字幕をつける」という機能を2020年9月に終了させるとアナウンスしていた。その告知にはこうある。

「クリエイターと視聴者の双方から、視聴者への翻訳依頼機能に関する問題(スパム、嫌がらせ行為、低品質な翻訳)が報告されています。結果的には、この機能はほとんど利用されておらず...」

やはり、匿名で字幕を査読しあうようなシステムには無理があったようだ。ましてや、Kurzgesagtではとてつもない数の言語で字幕がつくため(遺伝子編集の動画の場合、字幕は44通りついている)チャンネル側が字幕のクオリティをチェックすること自体不可能だっただろう。

しかし、字幕がないと理解が難しいという視聴者は今後どうするのだろう。まあ、gigazineが大量のスクリーンショットを貼り付け、全部説明してしまうような記事をアップしてくれるので、それを参照すれば理解できるかな。あれはアニメーションや音楽、効果音までこだわっているKurzgesagtにとしては、不本意な楽しまれ方かもしれないが。

とにかく、これまで十分楽しめたし、英語力の向上にもなったので、この趣味については満足である。また、何かしら「いいことしてる感」を得つつ、スキルアップになりそうな趣味を見つけられればと思う。

※1 Youtubeではチャンネル側の設定次第で、誰でも字幕をつけることができる。字幕を投稿すると他の誰かがチェックに入る。修正が入れば、また他の誰かがチェックをする必要がある。OKが出るとチャンネル側の最終承認待ちとなり、最終的に公開されるという仕組みのようだった。(後に2つ目のステップを飛ばせるような仕様変更があった)

※2 機械翻訳に突っ込んだだけと思しき字幕を多数の言語で投稿する「善意の荒らし」が出たこともあった。「字幕をつける能力はないけど承認だけやります」という人や、「字幕をつけるのがマイブームだ!早くつけさせてくれ!」という人が出てきて、放っておいても良質な字幕がすぐにつく時期もあった。しかし、程なくして活動が確認できなくなってしまった。