コロナウイルスの医学的事実 (7) —船員と船を同時に救うために

人の生命と社会の生命を同時に守らなくてはならない。二つのうちどちらかを優先させるのはダメ。乗組員が元気だとしても、船が沈んだら全員助からない。この難しそうな課題を解決するには、解決法も二刀流にすればいいんじゃ?

この論文、ぜひ読んでください!

「高齢者と非高齢者の2トラック型の新型コロナウイルス対策について」

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サッカーであれ将棋であれ戦争であれ、戦いには戦略戦術が必要だ。戦略とは大局的・中長期的なビジョンのことで、広い視野と、目先の動向に囚われない判断力、そしてそれを支える哲学を必要とする。戦術とは、ある戦略を実践するための、状況に応じた戦い方のことだ。今までずっと感じていたことだが、このコロナ戦において、次々に戦術は繰り出されるが、戦略が欠けている。あるいは、戦略が伝わっていない。監督が何を考え、どんなサッカーをしようとしているのか、よくわからないまま、「走れ!」とか「マークしろ!」とか「マスクだ!一家に二枚だ!」とか、指示だけが飛んでくる。それをずっと続けられるわけがない。走る意味が感じられなければ、90分も走り続けられない。

上記論文「2トラック作戦」はまさに明確な戦略を選手たちと共有しようとするものだ。それは COVID-19 の際立った特徴の一つ、リスクの偏り、つまり重症化リスクが「高齢者」と「基礎疾患を有する人々」とに偏っているという事実から導かれている。もちろん若年者にも重症例があることはたびたび報告されているが、例外と原則をまちがえてはいけない。例外的な事例をクローズアップして原則を崩すのはメディアの悪い癖だ。原則に立脚すれば、リスクグループとそれ以外を区別することこそ、対コロナ戦略の核になる

もう一つ、これは COVID-19 に限らないことだが、感染症の「終息」は、集団の過半数に免疫が成立する(抗体ができる)ことで達成される。特効薬、つまりウイルスそのものを破壊したり阻害したりする薬物は病状を緩解させるが、根本的な終息ということに関しては補助的な役割にすぎない。免疫成立には、ウイルスに感染してしまうか、ワクチンを打つか、二つの方法がある。ワクチンの開発にはまだ1年以上かかるとされる。どうするか。

ここで、2トラック作戦が有効になるのだ。感染抑止はリスクグループに限定する。社会的距離をしっかりとり、STAY HOME を厳しく守ってもらう。一方、非リスクグループにはそこまで厳しく制限をかけない。医療への負荷を慎重にモニターしながら、ある程度の社会活動、経済活動を続行してもらい、「軽めに」罹るのである。そして免疫を獲得してもらう。軽めで済ませるコツを教えるのは感染症の専門家たちの仕事だ。免疫をもつ者の数が集団の過半に達したとき、リスクグループもまた STAY HOME から解放される。こうすれば、船員と船とを同時に守るというミッションを実現する道は必ず開ける。

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