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コロナウイルスの医学的事実 (8) —流行る前から体は知っていた

7月7日付の科学雑誌 nature に COVID-19 に関する興味深い総説が掲載されました(nature reviews immunology)。それを紹介したいんですが、新型コロナウイルス、名前長いし、正式名の SARS-CoV-2 もめっちゃ覚えづらいんで、略称を CoV-2 にします。コブツーと読んでください。前は新コロって呼んでたんですけど、こんだけ世界を震え上がらせましたから、もうちょっとイカツイ感じで呼んでやりましょう。CoV-2。コブツー🔥。泣ぐ子はいねがー。

その記事によると、米国で 2015年から2018年の間に採血され保管されていた血液サンプルの50%から、CoV-2 に反応するT細胞が検出されたそうです。T細胞というのは免疫系のなかで中心的な役割を担う細胞です。

驚くとこです。だって、COVID-19 は 2019 年の暮れに武漢で最初に発生しました。2018年まで CoV-2 は影も形もない。免疫系はやつを知るはずがない。なのになぜ、まるで予期するかのように対 CoV-2 用のT細胞が存在するん?

さらに記事によると、4月から6月にかけて同様の事例が相次いで報告されています。オランダでは非感染者10名中3名の血液からやはり CoV-2 反応性T細胞が発見され、ドイツでは感染の可能性のない被験者の34%から、シンガポールでは50%から。

地理的分布がばらばらですね。もしかしてこれって、地球上の各地で、30–50% の人たちは、CoV-2 出現前から CoV-2 に対する細胞性免疫(抗体による免疫とは別の、T細胞が主役の免疫)を持ってるってこと?コブツーの威力3割5割減?

総説を投稿した二人の科学者アレッサンドロ・セッテとシェーン・クロッティによると、これはおそらく CCC との交差免疫によるものだとしています。CCC (Common Cold Coronaviruses) って、要するにふつうの風邪ウイルスをまとめた名称です。CCC も CoV-2 も、同じコロナファミリーのメンバーです。遺伝子配列も似てるし、形状も似てる。呼吸器を主なターゲットにしているのも同じ。CCC は毎年、世界中で人間たちに風邪をひかせているので、人類の90%以上は CCC に反応するT細胞をもっている。そのT細胞の半分か 1/3 ぐらいは、姿形の似ている CoV-2 にも反応できるんですね。これを交差免疫というんです。

「風邪は万病の元」。昔の人は賢い。免疫学もウイルス学もなかった時代に直観力で交差免疫を知っていたわけですね。これを言い換えれば「万病は風邪の一種」。そこまでは言い過ぎだけど、CoV-2🔥はそのとおり。

なお、CoV-2 に対する交差免疫については、すでに5月半ばに岩堀本一医師がブログに書いています。早い!

nature の記事は、スウェーデンの医師 Ayako Miyakawa さんのツイート @AyakoMiyakawa で知りました。記して感謝します。

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