映画レビュー「バクラウ 地図から消された村」

独特の文法を持つインパクトの強いバイオレンス作品
★4

村が消される・・
という事しか知らずになんとなく見始めましたが、
最初のうちはこれがどういうお話なのかがなかなか掴めません。
なんせブラジル映画なんてあまり普段見ないので、
ブラジルの映画ってみんなこんな風に掴みづらいのかなぁ・・
などと感じながら。

ブラジルの片田舎のとある村。
もちろん架空の村だしなんなら少し未来のお話なんですが、
ほとんどドキュメンタリーみたいなタッチで村の様子が描かれて行き、
この村ではこういうしきたりや約束事の中で住民等は暮らしているんだ
という事をしっかりと見せつけられます。

前半はそんな展開が続いて物語があまり進展しません。
途中から徐々に村に異変が起きて行きますが、
まだその辺りでは一体何が起き始めているのかという事を
明確には理解できないんですよね。

特にUFOが飛んでる辺りでは
???相手はエイリアンなの???
みたいなトンチンカンな事を思ってたりしました。

そしてついに謎の集団が登場。
でも、せっかく物語が展開したのに
その集団がまた何を考えているのか全くわからない・・。

何だ?この映画は?ひょっとして大ハズレなのか?

ずっと「何?」「何?」と思いながら
それでもその謎を知りたくて最後まで見続けてしまいました。

バイオレンス描写が結構エゲツないですし、
バンバン人が死んで行きます。
グロ耐性がない方は厳しいと思います。

そうやって
謎の興味に惹かれたまま最後の最後まで見てみて、
ようやくこの映画の全体像がハッキリと見え、
スッと腑に落ちました。

全体を見た上で言えるのは
案外シンプルなストーリーだったという事ですね。


以下ネタバレ満載です。

このバクラウという架空の村は水に関する権利問題を抱えており、
村を含むエリアの市長である「トニージュニア」はその問題を片付けたくて
表面上は仲良くしましょうと呼びかけてはいるものの
実は懐柔策はもう不可能だと悟っているので、
裏側で非公式に素人銃器マニア達 (?どう見てもプロの殺し屋ではないので)を集めて村民全員消してしまえという指示を出していた
というのが物語の骨格でした。

そして、その市長側の攻撃に対して
自分たちのやり方で徹底抗戦していくバクラウの住民達。
村にある歴史博物館が物語るように、
盗賊文化の中で血みどろの戦いに無縁ではない歴史を持つ村だったのだという事が最後にわかります。

なるほど。
全てが一気に繋がって最後にはカタルシスを味わう事が出来ます。

前半でじっくり丁寧にディティールを積み重ねて描いて来た村の様子が
最後の最後に説得力を持つように作られていたんですよね。
いろんな戦いを経た上で生き延びて存在している村なので
そんな簡単に侵略したり潰したりなんて事は出来ないのさ
という重みを感じる事が出来ます。

いろいろ調べてみると
ブラジルの田舎には奴隷から逃れた人々が集まって形成された
このような村が実際に存在していたようですね。
逃げて来た人々は様々な人たちだったので
結果的にこのような村では現代社会でやたら叫ばれている「多様性」が
最初から許容されていることとなり、
このバクラウでも様々な人達が平等に暮らしている事が描かれています。

また私は西部劇をほとんど見ませんが
映画の文法的には西部劇的手法が使われているそうです。

いろんな映画を見て来ているつもりの私でも
最後までなかなか掴めない展開でしたし、
ディティールたっぷりに描かれる村の様子で
自分もすっかりバクラウにいるような気分になる
独特の文法を持っている作品でした。

でも見終わったらしっかりと「面白かったなぁ」という印象が残っています。
インパクトはなかなか大きかったです。

「優越」と「劣等」。
そんなものは誰にも簡単に決められる権利なんてない。
個人的にはこの作品からそういうメッセージを受け取りました。

「そうは問屋が卸さない!」んですよ。


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