「人工呼吸器の設定・管理が苦手」な人が不安な当直をなくす方法➀【まずは2つのポイントを抑える】
人工呼吸器の本やセミナーはたくさんあります.
それだけ,需要があるということで,多くの医療者が不安を抱えているカテゴリーなんだと思います.
「呼吸が止まったら,人は死ぬ」
これは自明であって,人工呼吸器管理は,その呼吸を機械でコントロールするわけです.
おそらく,若手の医師や看護師にとって,初めて「人の命を握っている感覚」を感じるのは,人工呼吸器管理ではないでしょうか?
人工呼吸器管理に苦手意識があると,若い医師は当直中不安でたまらないのではないでしょうか?
そんな人工呼吸器管理に怯える当直からほぼ解放される方法を,今回は解説します.(全2回の記事で解説)
「人工呼吸器の設定・管理が苦手」な人が当直の不安をなくす方法【まずは2つのポイントを抑える】
まず,当直中の呼吸器管理や設定に不安がある人は,離脱じゃなくて導入・維持に不安があるはずです.(まさか,夜中に抜管なんかしませんよね??)
また,その不安の多くは,2つのポイントから成ると思います.
すなわち,
酸素化(PaO2) と 換気(PaCO2)
です.
繰り返します.
人工呼吸器の設定・管理で大事なポイントは
酸素化(PaO2) と 換気(PaCO2)
です.
この2つのポイントをを抑えた上で
➀PaCO2・PaO2の変化に対する設定変更
➁初期設定
を考えます.
これで,少なくとも夜は乗り切れるはずです.
同調性を考えた細かい換気モードの調整は,日中に上級医や専門医に相談すればいいじゃないですか.
どうにもこうにもファイティングしてしまって,一向に同調しない場合は,夜間だけでも鎮静を深めて強制換気にすればいいじゃないですか.
集中治療の先生が聞いたら怒られそうですけど,上述した➀➁ができてない方がやばいですから.
目指すべきは浅鎮静で同調性が高い管理ですが,➀➁ができることが前提です.
☟ちなみに,換気モードも含めた人工呼吸器管理の解説は,ゆうじICU・ER@ICU_labさんの動画がわかりやすいのでオススメです!
「本を読んでもいまいちピンとこない!」って人は,こんな無料セミナーはなかなかないのでご覧になってみてくだい.
人工呼吸器の設定・管理で大事なポイントは
酸素化能 と 換気能
今回の記事では,➀PaCO2・PaO2の変化に対する設定変更 について解説していきます.
1.人工呼吸器設定のキモ:酸素化(PaO2)と換気(PaCO2)
ヒトの呼吸の役割とは
酸素(O2)を取り込む酸素化
と
二酸化炭素(CO2)を排出する換気
です.
ゆえに,人工呼吸器を管理する上でも,酸素化と換気をそれぞれ考えることが大事なんです.
人工呼吸器管理では,設定で酸素化と換気を調整できます.
このことを知ることが最も大事です.
設定の変更は,実はものすごく単純で,酸素化の規定因子(パラメーター)は2つだけ,換気の規定因子(パラメーター)は1つだけ,です.
これがわかるだけで,呼吸器設定の理解が全然変わります.
では説明していきます.
➀換気の規定因子【1つだけ!】
結論から言うと,換気の規定因子は
分時換気量(VE)
だけです.
PCO2を下げたければ,分時換気量を上げるしかないんです.
PCO2を上げたければ,分時換気量を下げるしかないんです.
それ以外の方法はありません.
そして,分時換気量とは1分間にどれだけ換気するかなので,
分時換気量=1回換気量(TV)× 呼吸回数
になります.
つまり,1回換気量と呼吸回数が一定である限り,換気が変化することはことは,通常ありません.
たまに,PEEPを変更させることで,換気が変わると思っている人がいますが,(直接的には)ありえません.
PEEPは,換気能の規定因子ではありませんから.
稀にありえるのは,PEEPが気道抵抗を下げる場合ですが,狙って行う調整ではないですね.
➁酸素化の規定因子【2つだけ!】
次に酸素化について.
結論から言うと,酸素化の規定因子は
FiO2(酸素濃度) と 平均気道内圧
です.
酸素化が悪い時は,FiO2もしくは平均気道内圧を上げればいいんです.
これだけです.
平均気道内圧が上昇することで,酸素化が改善する仕組みは,肺内シャントの減少と,拡散障害の改善です.
➀虚脱している肺胞が広がることで,肺内シャントが減少
➁肺胞と肺毛細血管間の拡散障害が改善
では,実際に酸素化を改善させたいときの,FiO2の上げ方 と 平均気道内圧の上げ方 を解説します.
i) FiO2の上げ方
これは,設定を変えるだけです.
上限は100%で,下限は(実質)21%です.
空気以下の酸素濃度にする意味はないですからね.
ii) 平均気道内圧の上げ方
「そもそも平均気道内圧って,どんなん?」
ここに,圧―時間曲線の例があります.
このグラフで,気道内圧とは,高さになりますよね?
気道内圧の合計は,高さの合計なので...グラフ下の面積が気道内圧の合計になります.
平均気道内圧は,この面積をならした平均値です.
この面積が大きくなれば,気道内圧の合計が増加,すなわち,平均気道内圧が上昇することになりますね.
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最も単純に,平均気道内圧を上げる方法は,PEEP(呼気終末陽圧)を上げる方法です.
「酸素化の規定因子はFiO2 と PEEP」
と,ニアミスしている人がいるくらいです.
PEEPを上げれば,換気サイクル全体の気道内圧が上がります.
この図でいう,緑の部分の面積が,PEEPによる平均気道内圧と相関するので,PEEPを上げることが平均気道内圧を上げることとわかります.
このPEEPの操作だけでも,酸素化(ないし平均気道内圧)の調整はできますが,平均気道内圧の規定因子は他にもあります.
それは,呼吸回数,1回換気量,吸気時間,吸気流速などです.
例えば,吸気時間や1回換気量(圧)を上げると
この図でいう,黄色の部分の面積が増えるということは,平均気道内圧が上がっていることがわかります.
このように,PEEP以外にも平均気道内圧が上がる因子があることが,視覚的にわかりましたかね?
ただ,これらの(吸気時間や1回換気量などの)設定は,平均気道内圧を上げる目的で調整するものではありません.
考えなしにいじると,Auto-PEEPや,圧損傷,不同調の原因になるので,酸素化改善のために設定変更するのは極力やめましょう.
つまり,実用性を考えたとき
「酸素化改善目的で平均気道内圧を上げたいなら,PEEPを上げる」
で覚えてください.
【余談】
では,「酸素化の規定因子はFiO2 と 平均気道内圧」という見識が無駄かというと,そうではないです.
例えば,
・換気を調整するために,一回換気量を減らします.
・すると,酸素化は少し悪くなります.
・「ん?なんか酸素化悪くなったぞ?」「FiO2もPEEPもいじってないのに?」→「何か悪いことが起きたに違いない!!」
という誤解で捉えてしまうことが防げます.
実際には何も起きてません.
まとめると
・酸素化の規定因子は,FiO2 と 平均気道内圧
・平均気道内圧の規定因子には,や吸気圧,呼吸回数,1回換気量,吸気時間などがある.しかし,PEEP以外の設定は,目的の違う設定であり,下手にいじるとAuto- PEEPや,圧損傷,不同調のリスク.
・ゆえに,平均気道内圧を能動的に変化させたい場合は,PEEPを変更することが本質的で管理しやすい.
2.PaCO2・PaO2の変化に対する設定変更
ここまでの内容を理解した人にとっては,この対応は容易なはずです.
➀PaCO2を下げたいとき
基本的に,PaCO2をあえて上げたいときは少ないと思うので,下げる方法を説明します.
結論は,分時換気量を上げるしかないので,1回換気量か呼吸回数を上げるしかありません.
「どっちを上げればいいの?」
いずれも上限があるので,その猶予次第です.
例えば,1回の換気で10000ml換気したら肺は破裂します.
例えば,1分間に1000回呼吸しても,肺胞まで空気が届かないでしょう.
1回換気量の上限目安は,プラトー圧 ≦ 30 mmH20 かつ 12ml/kg以下
プラトー圧が良くわからない人は,とりあえず
最大気道内圧 ≦ 30 mmH2O
にしてください.
最大気道内圧がプラトー圧以下であることはありえないので,ひとまずこれで平気です.
【プラトー圧】
・”最大気道内圧”は,回路や気道に送り込むための圧力で,”気道にかかる圧”.一方,”プラトー圧”は,気道を越えた後の”肺胞にかかる圧”
・PCVモードでは,吸気圧≒プラトー圧
呼吸回数の上限目安は,30 /分以下
いずれもギリギリを責める必要はないので,バランスよく設定しましょう.
PaCO2を下げたいときは
・分時換気量を上げるしかない=1回換気量か呼吸回数を上げるしかない
・1回換気量の上限は,かつ 12ml/kg以下
・呼吸回数の上限は,30 /分以下
・この上限を意識して設定変更すればok
➁PaO2を上げたいとき
PaO2を下げたいなんて,殺人以外にありえませんので,PaO2を上げる方法を説明します.
前項で解説した通り,FiO2か平均気道内圧を上げるしかありません.
FiO2の上限は100%ですね.純酸素です.
「じゃあ,とりあえずFiO2で調整して,FiO2 100%でもPaO2をもっと上げなきゃいけない時に,PEEPを上げればいい?」
という発想が生まれるかもしれません.
FiO2の設定いじるの簡単ですしね.
ただ,高濃度酸素は肺障害や吸収性無気肺を起こす可能性が指摘されています.
よって,一般的な管理目安として
・遅くとも,48時間以内にFiO2 60%以下が目標
・可能なら,FiO2 50%以下にできるだけ早く下げるべき
としましょう.
【吸収性無気肺】
空気を吸入した場合,肺胞内で酸素が血管内に吸収されても,肺胞内には窒素が残り,肺胞は虚脱しません.
しかし,高濃度酸素では,窒素が酸素に入れ替わっているので,肺胞内の酸素が血管内に吸収されると,肺胞内ガスがなくなって,肺胞が虚脱する.
これを,吸収性無気肺と呼びます.
では,PEEPはどのように調整するか.
まず,PEEPの下限は3~5 cmH2O.
これは酸素化には寄与せず,挿管チューブ抵抗との拮抗や,肺胞がつぶれて無気肺にならないように作用します.
間違ってもPEEPを0 cmH2Oにしないように!
呼吸のたびに,気道や肺胞がつぶれるようなものです!
上限は,先ほど1回換気量の上限でも触れた,プラトー圧 ≦ 30 mmH20,です.
この圧を越えると,有意に圧損傷のリスクが高まることがわかっているからです.
また,PEEPを上げると,胸腔内圧が上昇するので,静脈還流量が減ります.
これは,心臓前負荷が減ることを意味していて,血圧が下がる可能性があります.
PEEPを上げていくときは,血圧にも注意しましょう.
PaO2を上げたいときは
・PEEPを上げる
・FiO2は,一時的なら100%まで上げてもいいが,高濃度酸素による肺障害や吸収性無気肺を避けるため,48時間以内には50-60%以下にする(できるだけ早く下げるに越したことはない)
・PEEPは,プラトー圧 ≦ 30 mmH20 となるように設定する
・PEEPを上げると,血圧が下がることがあるので,注意.
・PEEPの下限は 3~5 cmH2O であり,間違っても 0 cmH2O にはしない
3.PaO2とPaCO2の目標は?
設定の変え方がわかりましたか?
酸素化と換気,2つのポイントに分けたとき,設定変更のパラメータはこんな感じです.
プラトー圧は,酸素化,換気,いずれの調整でも変動するので,要注意です.
では,この知識を生かした設定変更の目標はというと
➀PaO2 ≧ 60
➁7.36 ≦ pH ≦ 7.44
です.
ここを目指して調整しましょう.
大事なこととしては,PaCO2の調整は,それ自体をある値に留めておくというよりは,pHが正常範囲に留まるように呼吸器設定することです.
以上,今回の話をまとめると
こんなお話でした.
次回は,「【初心者向け】「人工呼吸器の設定・管理が苦手」な人が不安な当直をなくす方法➁【一晩眠れる初期設定】(仮)」で,初期設定の仕方について解説していきます.
本日もお疲れ様でした.
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