【エビデンスや歴史のまとめ】PCI後のDAPT必要期間の考え方

以前の記事で,PCI後にDAPT:dual anti-platelet therapy,すなわち2剤抗血小板療法にする理由を解説しました.

このDAPTがあったから,ステント治療の弱点であったステント血栓症の予防が可能になり,現在のようにPCIが発展できたといっても過言ではありません.

また,別の記事では,現行ガイドラインによるPCI後DAPT期間の推奨もまとめています.

このDAPTの必要期間に関しては,これまで色々な試行錯誤が繰り広げられてきました.

今回は,至適DAPT期間を理論的に考えるためのエビデンスを整理しておきます.


1.極論で考える:PCI後に永久にDAPT使ったらどうなる?

2014年にDAPT試験の結果が発表され,長期間 DAPT を継続することは,アスピリン単独療法と比較してステント血栓症のリスクを減らすことを 示しました.

では,永久にDAPTを続ければいいかというと,そうではありません.

長期間の DAPT は,出血リスクの増大と死亡率の上昇に関連していたんです.

DAPT試験
ステント留置後のDAPT期間を,12カ月と30カ月で比較.
薬剤溶出ステント(DES)もしくはベアメタルステントを留置された1万例弱を対象とし,アスピリン+チエノピリジン(クロピドグレルもしくはプラスグレル)を使用.
結果,30カ月DAPT群は12カ月群に比してステント血栓症と心筋梗塞が少なかった.しかし,非心臓関連死亡の増加をうけて,全死亡は30か月群で多かった

このように,DAPT 継続は出血性合併症を増やすというリスクがあり,全死亡まで増えているので,避けられるな避けるべきであることは,火を見るより明らかです.

至適なDAPT 期間「血栓症リスク」と「出血性合併症発生リスク」のトレードオフで検討するべき問題ということです.

「血栓症リスク」と「出血性合併症発生リスク」のトレードオフ


2.至適DAPT期間≒ステント血栓症のリスクはいつまでか

ということで,至適DAPTの期間とは,すなわち,ステント血栓症のリスクがいつまで続くか,が重要であり,それがすべてといっても過言ではありません

i) DESとベアメタルステントで違う

ステント血栓症は,むき出しになった金属と血液の反応(血小板が付着しやすい)で血栓が形成されます.

(薬剤がついていない)ベアメタルステントは,2~3カ月で新生内膜と内皮がステント表面を完全に被覆し,血栓形成を惹起しにくくなるとされます.

実臨床のデータ的には,完全に被覆されていなくとも,留置後2週間以降でもステント血栓症は稀であり,推奨DAPT期間は4週間(1ヶ月)でした.

ベアメタルステントのDAPT推奨期間は1ヶ月
※ただし,現在,ベアメタルステントが使われることは滅多にありません

一方,DESは薬剤が塗布されており,新生内膜の増生を抑えるので,ステントの被覆が遅れました.その結果,ステント血栓症のリスクにさらされる期間が延長されてしまいました.

具体的には,DES発売当初は

BMSでは,推奨1ヶ月だったDAPT期間
DESでは,最低12カ月で,禁忌がなければ最悪永続

となっていました.

「禁忌がなければ永続」って...

これではさすがにDESのイメージが悪く,DESの改良が始まりました.

ii)DES改良によるステント血栓症リスク期間の短縮

登場初期のDESを第一世代DESと呼びますが,この第一世代DESがステント血栓症リスクを長引かせる原因は

内皮化の遅れ(delayed healing)によりステントが長期間むき出し
➁ポリマーが残存:過敏性反応 ⇒主に好酸球性の炎症遷延

の2点とされました.

ここを意識して作られた第二世代DESは,ポリマーの生体適合性を高めたり,薬剤量を適正化することで,この問題を解決しました.

実際に,第一世代DESと異なり,第二世代DESは一定期間経過後はステント血栓症は経時的に増加しないとされます.

画像2

☝Tada T, et al. JACC Cardiovasc Interv. 2013; 6: 1267

以上から,第二世代以降のDESであれば,12カ月以上のDAPTは基本的に必要ない,というコンセンサスが得られました.

iii)時代逆行:ベアメタルステント時代のDAPT期間に挑戦

この後,DESの改良が進み,第三世代DESというものが登場しました.

「ポリマーの生体適合性を高め,薬剤量を適正化」したのが第二世代DESでしたが,

第三世代DESは,「ポリマーが生体に吸収され,ベアメタルステントになる」というものでした.

つまり,ベアメタルステントの弱点であった,新生内膜増生の時期だけ,薬剤で細胞の増殖を抑え,その時期を終えたら,血栓性の低いベアメタルステントに変身する,というものでした.

このステントの登場により,「ベアメタルステントの時代のように,DAPTの期間はもっと短縮できるんじゃないか?」という考えが起こり,各ステント会社が競って盛んにトライアルしました

6カ月?
いや,3カ月もいける?
いやいや,ベアメタルステントと同じ1ヶ月も試しちゃおう!

こんな感じです.

代表的な試験をピックアップすると,2016年のSTOPDAPT試験にて3ヵ月DAPTの安全性,2019年のSTOPDAPT-2試験1ヶ月DAPTの安全性が,それぞれ示されています.

これらのトライアルの結果を受け,現行ガイドラインでは

➀血栓リスクが高い場合は3-12ヵ月
➁血栓リスクが高くない場合は1-3ヵ月

までDAPTの推奨期間が短くなりました.(ただし,第二世代以降のDESに限ります)

画像3

※2020JCSガイドラインをオリジナルに改訂.詳しい説明はこちらの記事

 

つまり,DES留置後の最短DAPT期間ベアメタルステントと同じ1ヵ月

DAPTの効果が示されたSTARS試験が発表されたのは1998年なので,DAPT期間に関しては20年近く時代を逆行したことになります.

もちろん,いい意味で

 

3.今後のDAPTはどうなっていくか

もう既に最短1ヶ月まで短縮できているDAPT期間

今後は,それをさらに短くするというよりは,「SAPTだけでできる治療」「そもそも治療をしない(適応をもっと限定する)」といったことを推進していく活動や研究が多くなりそうです.

例えば,薬剤溶出性バルーンDEBなどを用いたステントレス治療

現行ガイドラインでは,DEB後のDAPT期間は1-3ヵ月となっていますが,ステントを入れないわけなので,理論的にはステント血栓症予防は不要です.
今後のトライアルなどが気になりますね.

一方で,ISCHEMIA試験の結果から,安定狭心症や無症候性心筋虚血(要は急性冠症候群以外)は,PCI適応の敷居が高くなってきています

ISCHEMIA試験
AHA2019で発表され,2020年4月のNew England Journal に結果が掲載.
中等度以上の虚血が証明された安定狭心症例を対象に
侵襲的治療(PCI or 冠動脈バイパス術(CABG))VS  薬物療法
で比較したところ,なんと長期予後に有意差なしという結果でした.

「安全に,可能な限りリスクを抑えて治療する時代」から「そもそも不要な治療はしない時代,適応をより正確に見定めていく時代」への返還も進んでいくかもしれませんね.







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