【異常値は?】SpO2とPaO2はどっちが大事?【高すぎもダメ?】
SpO2,PaO2,どちらも酸素化の指標ですよね?
敷居が低いのはSpO2なのではないでしょうか?
クリニックから病院まで,外来から入院,もっと言えば,最近は新型コロナの影響もあり,一般の方がSpO2モニターを購入したりしますよね.
一方,PaO2は,動脈採血が必要です.
敷居がうんと上がります.
そこで浮かぶ考えがこう.
「わざわざ侵襲的な検査をしているので,PaO2の方が重要に違いない」
って思いませんか?(私は研修医のとき,このように思ってました)
でも,本当にそうですか?
今回は,SpO2とPaO2の違い・使い分けから,そこから見える管理のポイントも少しお話します.
■そもそも,酸素はなぜ必要か:生きるのに必要
もったいぶってもしょうがないので,結論から言うと
細胞が活動するのに必要だから
ですよね.
細胞の活動とは,すなわち,生きていくことなので,「生きていくのには酸素が必要」,という単純明快な理由です.
また,酸素はただそこにあっても意味がありません(利用されません).
すなわち
酸素が細胞まで届かなければ意味がない
ということを覚えておいてください.
■酸素の運搬量を決める因子は?:SpO2の方が大事
では,生きていくために必要な酸素の運搬量はどのように決まるのでしょうか.
数式があります.
酸素運搬量DO2 = 心拍出量CO × 動脈血酸素含量
です.
「血液に溶けている酸素の量(酸素含量)」に「血液を送り出す量(CO)」をかけたもの,ということですね.
まだ,SpO2とPaO2は出てきませんね.
心拍出量はスワンガンツカテーテルで計測したり,心エコーなどで推測したりできますが,本記事ではその話はおいておきましょう.
次に,動脈血の酸素含量ってのはどれくらいなのか.
これも式があります.
動脈血酸素含量(ml/dL) = 1.34×Hb×SaO2 + 0.003×PaO2
です.(注意:SaO2は100%のとき"1"です)
本記事内では,基本的にSpO2はSaO2を反映するものと考えてください.
(例外の話はまた後でします)
出ましたね.SpO2とPaO2です.
では,大事な大事な酸素運搬量DO2に,SpO2とPaO2がどのように寄与するのか,上の2つの式をまとめてみましょう.
DO2(ml/min) = 心拍出量CO × (1.34×Hb×SaO2 + 0.003×PaO2)×10
となります.
※最後の「×10」は,CO(min/L)と動脈血酸素含量(ml/dL) の単位を合わせるため.
「ふむふむ.全身の酸素の循環に,SpO2とPaO2はこのように関与するのか!......で??」
ってなりますよね.
注目してほしいのは,係数の存在です.
SaO2の係数は「1.34×Hb」
PaO2の係数は「0.003」
やばくないですか?
Hbはたいてい10前後ありますよね?
仮にHb=10としたら,13.4と0.003ですよ?
係数の大きさは,SaO2が,PaO2の4千倍以上です.
ちなみに,すんごい貧血でHb=3と仮定しても,千倍
仮に,Hb=10で,「SpO2=100%(1),PaO2=100mmHg」のときのこの式は
DO2 = 心拍出量CO × (1.34×10×1 + 0.003×100)×10
⇩
DO2 = 心拍出量CO × (134 + 3)
これ,PaO2の項,意味あります?
そう
PaO2は酸素運搬にとってほとんど意味がないんです.
PaO2の値は,酸素運搬量にほぼほぼ寄与しないんです.
このことから,さきほどの式のPaO2の項を消して
DO2 ≒ 心拍出量CO × 13.4×Hb×SaO2
と考えて,基本的には問題ありません.
酸素運搬に大事なのは,SpO2(で推測しているSaO2)の方だったんですね.
➤組織への酸素運搬量に寄与するのは,PaO2ではなくSpO2の値
■じゃあ,PaO2は要らない子なの?:PaO2の出番
冒頭でお話ししましたが,非侵襲的に計測できるSpO2と異なり,PaO2の測定には動脈血採血が必要です.
ひどくないですか?
侵襲性が高いくせに,酸素運搬の指標としてはSpO2の方が優れているんですよ?
ちなみに,PaO2とSaO2は,酸素解離曲線をもとに"リンク"しているので,そもそも無関係ではありません.
ここでの話題は,「管理上,"PaO2の数値"は気にしなくていいのか?」ということだと考えてください.
では,PaO2値測定の意義を考えます.
PaO2の出番➀人工呼吸器管理
呼吸器の設定を調整する時,SpO2では調整しないと思います.
これは,SpO2の最大値100%は,人工呼吸器という究極の呼吸補助デバイスの前では,容易に振り切ってしまうためというのが理由の1つ.
例.SpO2=100%のとき,PaO2=300である可能性も,PaO2=100の可能性もある.前者は酸素化の設定を下げられるが,後者はそんなに余裕がない.
また,肺の状態と平均気道内圧(PEEPなどの設定)が同じであれば,PaO2とFiO2の比(P/F比)は一定になります.
よって,FiO2の設定をいじる際に,PaO2は動きが予測しやすいんです.
例.FiO2 100%でPaO2 300 ⇒FiO2を50%に下げたら,PaO2は150程度になるはず
よって,呼吸器設定の調整に関してはPaO2を指標に調整するのが基本となります.
PaO2の出番➁SpO2モニターがあてにならないとき
先ほどから「PaO2よりSpO2が大事」と言っています.
しかし,正確には,SpO2で推測しているSaO2が大事なんです.
SpO2があてにならないときはどうしましょうか.
例えば,循環不全で末梢血管が締まってしまっているときや,マニキュアやペディキュアをしているときなどです.
そういう時は,耳たぶや額にSpO2モニターをつけるなどの対策もありますが,動脈血ガスのPaO2からSaO2を推測するのが確実です.
「推測する」といっても,血液ガスの機械が,理論的酸素解離曲線から,勝手に計算してくれるだけ.
つまり,血液ガス分析の結果に出ているSaO2を管理の指標にするということです.
(正確には"PaO2の出番"とはいえませんが,このSaO2はPaO2から計算されているので組み入れました.)
【発熱時は注意】
発熱時は酸素解離曲線が右方に偏移します.
すると,PaO2の割にSaO2が低い,という現象が起きます.
血液ガス分析の機械の設定は"37℃"設定がキホンです.
体温を入力することもできるのですが,入力できないときは,右方移動していることも念頭に入れてSaO2の値を解釈しましょう.
PaO2の出番➂高圧酸素療法
これは,循環器内科医の私が出会うことはほぼないのですが,一酸化炭素中毒などで適応となる治療であり,気圧をあげることによって,PaO2の値を2000mmHgすることが可能です.
係数の小さいPaO2も,さすがに値が2000を越えてくるとDO2に寄与することができます.
そんな高圧酸素療法の管理には,当たり前ですが,PaO2が必要となります.
■SpO2とPaO2の違いを意識した管理:無駄な酸素投与を避けよう
DO2の式によれば,PaO2は係数が小さいので,必要以上に高くする必要はありません.
一方で,SaO2はできるだけ高くした方がいいです.
「37℃,1気圧,ph7.4」のとき,PaO2 100mmHgあればSaO2は100%となります.
つまり
PaO2を100mmHg以上に上げる意味はほぼありません.
一方で,過量の酸素投与は
・活性酸素の増加による細胞障害
・吸収性無気肺
・換気応答の低下(CO2ナルコーシス)
・血管収縮による臓器血流の減少
など,さまざまな有害事象が報告されており,"酸素毒性"と呼ばれます.
PaO2とSpO2を合わせて管理することで,不必要な酸素を避け,酸素毒性を低減できます.
■SpO2はいくつあればいい?➀:安全域をとってSpO2≧90%
SpO2<90%なら,(CO2ナルコーシスリスクなどでなければ)酸素投与しませんか?
実際に,急性呼吸不全の定義は,PaO2<60mmHgであり,これは健常状態の酸素解離曲線では,SpO2<90%です.
でも,(上述したように)DO2はおおよそ「13.4×Hb×SaO2」だと考えると,「SaO2=90あれば,まぁそこそこ酸素化は保てている」と思いませんか?
「SpO2が100→90」をHbでいうなら,Hb10の人がHb9になっただけですよ?
Hb=9で,輸血はまだしませんよね?
なぜこの値なんでしょうか?
結論から言うと,「SpO2<90%」は”前兆”です.
「どれくらいのPaO2なら,どれくらいのSaO2になるか」,を示した酸素解離曲線を見てみます.
これは健常時(37℃,1気圧,ph7.4など)の酸素解離曲線です.
これを見てわかることは,SaO2は90を下回ると急降下するということです.
だから,「SpO2<90は酸素投与した方がいい」「SpO2<90は原因をただいに検索した方がいい」となるんです.
これから一気にSpO2が下がることの"前兆"であり,”事前の対策”のおこりです.
極論,呼吸不全の原因がわかっており,SpO2=90%を保てるのであれば,焦る必要はありません.
ここで見えてくるのは,SpO2<90%のときに最も大事なのは
対症的な対応=酸素投与
ではなく
なぜ下がったのかを考えること=原因検索
の方ですよね.
これから急降下する可能性のあるSpO2に対して酸素投与することは別にいいんですが,そこで終わっていてはダメですよ.
それ以上下がらないように,原因を考えなければいけません.
まとめると,「SpO2は90以上ないとやばい!死んじゃう!」ではないんです.
SpO2<90%は,
「これ以上下がっていったらヤバイ!なんで下がってんの!?」
という”前兆”としての意味合いで捉えましょう.
大事なのは原因検索です.
■SpO2はいくつあればいい?➁:SpO2低下の限界とは
ただ,実際は酸素解離曲線も右に行ったり左に行ったりします.
また,酸素の利用を抑える代償機構もあるので,意外に許容できる状態もあります.
逆に,貧血だったり,低心機能だったりすると,意外に許容できない状態もあります.
ということで,安全域をとったSpO2の目標値は≧90%でしたが,重症管理下などの極限状態では,SpO2低下の限界をどう考えればいいのでしょうか?
それは,結果を見てしまえばいいです.
SvO2というものがあります.
スワンガンツカテーテルで肺動脈から採取した混合静脈血の酸素飽和度です.
肺動脈の静脈血は,身体のなかで,もっとも酸素を利用つくされた静脈血ですよね.(今からまさに酸素化されようとしている)
スワンガンツカテーテルがない時は,CVから採取したScvO2で代用することもあります.真の混合静脈血ではないので,あくまで代用ですが(10%程度のずれあり).
ここで知っていてほしい事実として,
・通常時,ヒトの身体は運搬された酸素を20-30%程度しか利用できません
また,
・酸素供給が減ることで,代償的に40-60%まで酸素の利用効率が上昇する
と考えられています.
例えば,組織に与えているSaO2が90%のとき,酸素を利用されて戻ってきたSvO2が70%なら,(90-70)/90=22%しか利用されていないので,酸素供給には余裕があるかな?と思います.
一方で,組織に与えているSaO2が90%のとき,酸素を利用されて戻ってきたSvO2が40%なら,(90-40)/90=55%も利用しているので,「組織はもっと酸素を欲しがっている」考えます.
つまり,SvO2の低下は,酸素運搬量DO2のアラートです.
SaO2 100%で酸素利用効率40%(☜人によってはこれが限界)のときのSvO2が60%なので,SvO2<60%を低下と考えることが一般的です.
SvO2が低下しているとき(<60%)は,SpO2や,Hb,心拍出量COを上げるように努めなければなりません.
なにも,SpO2だけの話ではないことがポイント
輸血によるHb上昇や強心薬などによるCOの上昇も大事
言い方をかえれば,SvO2が保てている(>60%)のであれば,SpO2はそれ以上高くする必要は低くなります.
■まとめ
では,まとめます.
今回は,酸素化の指標の解説でしたが
➤そもそも,生きていくのに必要なのは酸素運搬量DO2
これが大前提でしたね.以下の式が重要です
・動脈血酸素含量(ml/dL) = 1.34×Hb×SaO2 + 0.003×PaO2
・酸素運搬量DO2(ml/min) = 心拍出量CO × (1.34×Hb×SaO2 + 0.003×PaO2)×10
➤DO2に大きく寄与するのは,PaO2ではなくSpO2(で推測しているSaO2)の値
侵襲性が低いのに,実はSPO2の方が大事なんです.
➤PaO2の出番は
・人工呼吸器管理
・SpO2モニターがあてにならないとき(末梢循環不全,マニキュアなど)
・高圧酸素療法のとき
状況を考えれば,一般床や外来は,SpO2でたいてい十分でしょうね.
集中治療室や救急室での管理は,PaO2が必要かも.
PaO2は肺の状態(酸素交換能)を詳細にチェックするのが目的
対して,SPO2は,あくまでも(その先にある)循環の指標であると考えるといいと思います.
➤酸素毒性を抑えるため
・SpO2は可能な限り高くしつつ
・一方で,PaO2は無駄に高くしない(100mmHg以上は不要)
高けりゃいいというものでもありません.
➤SpO2でまず保つべきは≧90%
・これは,健常時の酸素解離曲線が,SpO2<90で急降下するため
・SpO2=90%自体は大きな問題となる値ではなく,安全域をとっている
・ゆえに,大事なのは,"それ以上下がらないようにするため"の原因検索
➤安全域をとったSpO2の目標値は≧90%だが,SpO2の極限の値は,SvO2(もしくはScvO2)で考える
・SvO2<60%(もしくはScvO2<70%)のとき,SpO2,Hb,COのいずれかを上昇させねばならない(SpO2に限った話ではない)
・逆に,SvO2>60%であれば,SpO2を躍起になって上昇させる必要はない(余裕はあってもいいが)
今回の話は以上です.
お疲れ様でした!
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