ACE阻害薬/ARBの禁忌

高血圧治療に携わる医師で,ACE阻害薬/ARBを処方したことない人はいないと思います.

最新の2019年改訂高血圧治療ガイドラインでも第一選択薬の1つになっています.
≫降圧薬の第一選択薬の選び方のまとめ記事はこちら

余談
その他の降圧薬第一選択薬は,Ca拮抗薬と利尿薬

さらにガイドラインでは,慢性腎臓病,糖尿病,(心筋梗塞の既往や心肥大を含む)慢性心不全,脳卒中などの既往があれば,他の降圧薬より優先すべき,となっているため,使用頻度の高い降圧薬です.

そんなACE阻害薬/ARBだからこそ,禁忌は知っておくべきです.

「第一選択だからARBにしました!」

と言いながら,禁忌を踏んでしまったら,元も子もありませんからね

循環器内科医の私が解説します.

 

ACE阻害薬/ARBの禁忌一覧

まずは一覧を見てしまいましょう.

■ACE阻害薬/ARBの禁忌
・妊娠
・高K血症
・両側腎動脈狭窄
*血管神経性浮腫の既往
*LDLアフェレーシス

(*はACE阻害薬のみの禁忌)

1つずつ解説していきます.

 

1.ACE阻害薬/ARBの禁忌➀:妊娠

胎児奇形の報告があるからです.

火を見るよりも明らかな禁忌ですね.

具体的には「妊婦や授乳婦等」となっており,授乳もダメです.

 

2.ACE阻害薬/ARBの禁忌➁:高K血症

レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系を阻害した結果,腎臓からのK排泄が抑制されるためです.

具体的なカリウム値の明示はありませんが,徐脈などの循環への悪影響が出現している場合や,K≧6.0mEq/Lの場合は,使用はやめた方がいいでしょう.

また,Kが上昇しやすい腎機能障害例ミネラルコルチコイド拮抗薬併用例では,特に注意して使用しましょう.

 

3.ACE阻害薬/ARBの禁忌➂:両側腎動脈狭窄

ACE阻害薬/ARBは,糸球体輸出細動脈を(輸入細動脈からみて相対的に)拡張させます.

これは,糸球体からみると,「入口が狭い割に,出口が大きくひらけている状態」

この効果で,糸球体にかかる圧力,すなわち糸球体内圧は低下するんですが,イメージは湧きますかね?

この効果自体は,糸球体の負荷をとることで腎保護に働くため,いい効果です.

ただし,腎動脈狭窄の症例では,糸球体内圧が低下すると,腎血流が低下してしまうことがあるんです.

実際に,片側性腎動脈狭窄の症例にACE阻害薬を使用したところ,狭窄している側の腎だけが委縮することが報告されています.

このため,両側腎動脈狭窄は禁忌となっています.

この現象が両側の腎臓で起きたら危険ですからね.

ちなみに,腎動脈狭窄による腎血管性高血圧の診断をする際,「ACE阻害薬またはARB開始後の血清クレアチニン値の上昇」は手がかりの1つとされます.
なんとなしにACE阻害薬/ARBを開始した後に,急激に腎機能が増悪した場合は,腎動脈狭窄(特に両側性)を疑って,いったんACE阻害薬/ARBを中止し,腹部血管雑音や腹部エコー,レニン活性などを調べましょう.

また,急性腎障害(片側の)腎動脈狭窄症例でも,糸球体内圧を下げることが悪く働いてしまうことはあるので,(禁忌ではありませんが)慎重に使用した方がいいと考えてください.

 

4.ACE阻害薬のみの禁忌➀:血管神経性浮腫の既往

黒人に多く,女性に多い副作用です.

発症すると急激に進行することがあり,口腔内・舌・咽頭などに浮腫を起こすと致命的な気道閉塞となりかねないため,既往がある症例では禁忌となっています.

 

5.ACE阻害薬のみの禁忌➁:LDLアフェレーシス

まず,薬剤うんぬんの前に,前提として,陰性に荷電した吸着器や膜を使用すると,生体ではブラジキニン産生が刺激されます.

ACE阻害薬を使用していると,ブラジキニンの分解が阻害・蓄積されるため,この反応が重篤化し,アナフィラキシーショック(ブラジキニンショック)となることもあります

LDLアフェレーシスで用いる膜でも,同様にブラジキニン産生が刺激されることがわかっているため,LDLアフェレーシス時のACE阻害薬使用は禁忌となっており,前後数日間はACE阻害薬を休薬することが推奨されます.

私は以前,カテ後にコレステロール塞栓症を起こした人にLDLアフェレーシスをやったときに,ACE阻害薬を中止指示をし忘れたところ,ブラジキニンショックになったことがあります.

昇圧剤対応などで事なきを得ましたが,アフェレーシスをお願いしていた腎臓内科の先生に「先生,気をつけてください...」とたしなめられたことを,強く覚えています.

皆さんは,私と同じ轍(てつ)を踏まないようにご用心ください.

 

余談:ACE阻害薬とDPP4阻害薬の併用
咳嗽・血管浮腫など,ACE阻害薬特有の副作用は概ね,ブラジキニンやサブスタンスPの蓄積が関係しているとされます.
これは,分解酵素であるACEの役割のひとつに,ブラジキニンやサブスタンスPの不活化が含まれるからです.
しかし,実は,DPP4阻害薬でおなじみのDPP4も,ブラジキニンやサブスタンスPの分解・不活化に関わっています.

このことから,DPP4阻害薬の併用で,ACE阻害薬の血管浮腫などの副作用が増えることの懸念があります.
ただし,現状,DPP4阻害薬の併用が,ACE阻害薬の副作用を増やしたという明確な報告はなく,併用禁忌とはなってはいません.

もし,この2剤を併用時にACE阻害薬の副作用が発現した場合,このことを頭の片隅に入れておき,DPP4阻害薬をやめてみるのも選択肢かもしれません.

まとめ

いかがでしたでしょうか?

まあ,妊婦に容易に薬剤を使用しないとは思いますが,高Kなどは良く出会う状況なのでご注意を.

上述しましたが,”ACE阻害薬/ARB開始後に急激に腎機能が悪くなった場合”は,(両側)腎動脈狭窄を疑って,精密検査してください.

急性腎障害の時は,禁忌ではないですが,ACE阻害薬/ARBの開始は慎重にすべきで,可能なら,腎機能が落ち着いてからの導入にしましょう.


ACE阻害薬は,副作用・禁忌がARBより多くなりますが,それでも第一選択薬なのは,有用な薬剤だからです.

血管浮腫の既往がないかだけ確認をし,出会う機会は少ないでしょうけれど,LDLアフェレーシスの時は,ACE阻害薬の中止を忘れないようにしてください.

☟参考記事


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