神経調節性失神(neurally mediated syncope : NMS)

commonな失神の原因,NMS.

多くの方は,この診断病名を下したことがると思います.

ひとえに,NMSといっても種類があることをご存知でしょうか.

今回は,NMSの中でも,血管迷走神経性失神(VVS),頸動脈洞症候群(CSS)の説明,比較した内容を,循環器内科の私が過去にまとめた資料からご紹介します.

頸動脈洞症候群(carotid sinus syndrome: CSS)

■神経調節性失神のうちの13%に認められ,原因不明の失神患者における検討では,頸動脈洞マッサージにより診断される頸動脈洞症候群は全体の25%以上に認められる.

■頸動脈洞マッサージにより,3秒以上続く心室停止もしくは50mmHg以上の収縮期血圧低下を認めることは頸動脈洞過敏症と定義され,それが失神を誘発する疾患を,頸動脈洞症候群とよぶ.

■頸部の回旋,ネクタイを巻く動作,髭剃りなどで誘発される.

■失神の原因が複数共存することは.高齢者で多く,特にCSSとVVSは頻繁にある

■中高年の男性に好発することから,加齢に伴う動脈硬化との関係が指摘されている.

Benditt DG et al: PACE1997; 20:573-84.

■薬物治療の有効性の報告は少なく,本邦やAHAのガイドラインでは,心臓抑制型(頸動脈圧迫で3秒以上のpause)に対するペースメーカー治療,頸動脈洞を圧排する頸部腫瘤などによる二次性CSSに対する外科的治療,をそれぞれ推奨している.

■頸動脈過敏症を有する症例は咳嗽失神(状況失神の一種)も呈することが報告されている.

Wenger TL, et al: Pacing Clin Electrophysiol980; 3:332-339.

血管迷走神経性失神(VVS)とCSS

■診断のため両者の鑑別が重要とされ,以下の様な臨床的な特徴が言われている.

画像1

井上 博,ほか:Circ J 71(suppl IV):1049-1114,2007

■しかし,65歳以上の高齢者においては,VVSとCSSが合併することも少なくない.

Rafanelli M, et al.ClinIntervAging2014;9:333–338

VVSの治療

①β遮断薬(classⅡb,日循ガイドライン)
‣VVSの発症機序にカテコラミン増加が関与すると仮定した治療.
‣大規模臨床試験でThe Prevention of Syncope Trial(POST)では,1年間の失神再発率に有意差を認めなかったが,42歳以上の群では43%再発リスクを低減させていたことから,高齢かつ高血圧症を合併している症例では検討しうる.
②鉱質コルチコイド(classⅡa,日循ガイドライン)
‣血管内容積を増加させることを期待して使用される.
‣POSTⅡにおいて,26%失神再発率を低下させたが,治療前血圧の制限から平均年齢が30歳と若年の群であり,比較的若年者での有効性として解釈されている.
②α刺激薬(classⅡa,日循ガイドライン)
‣末梢血管を収縮させ静脈還流量の減少を防ぎ,反射性血管拡張に拮抗して血圧低下を予防する.
‣ミドドリンが有効とする報告は多く,低用量であれば副作用も少ないので,重大な高血圧のない症例では選択肢となる.

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