薬剤誘発性リンパ球刺激試験DLST

薬物治療中に皮疹が出ると,「うわぁ,最悪...」ってなりませんか?

薬疹は,スティーヴンス・ジョンソン症候群アナフィラキシーショックなど,ときに生命に関わるほど重篤な病態に繋がりかねないので,決して無視できない所見です.

今回は,薬疹の検査の1つであるDLSTについて,内科医9年目のわたしが解説します.

■薬剤誘発性リンパ球刺激試験DLST(Drug-induced lymphocyte stimulation test) 

薬剤誘発性リンパ球刺激試験DLSTは,血液を介した検査なので,(パッチテストのように)患者さん自身の生体反応に頼る必要がない,安全な薬剤アレルギーの検査です.

実際には,患者さんの末梢血の単核球に薬剤を添加し,リンパ球の増殖反応を観察します.この反応を指標に薬剤アレルギーの有無を判断する,という検査内容です.

具体的には,薬剤無添加状態を1とし,何倍DNAが合成されたかをカウントする形で,定量評価します.

■DLSTの利点

DLSTの利点は,なんといってもその安全性です.

アレルギー検査の多くは,実際に「小さいアレルギー反応」を起こさせるようなものが多く,万が一,想定していたより強いアレルギー反応(例えば,アナフィラキシー)が出た場合,生命の危険すらあるということです.

DLSTでは,アレルゲンたる薬剤は,患者さん自身には触れないので,アナフィラキシーが起こる可能性は100%ありません

検査自体も,採血をするだけなので簡便です.

 

■DLSTの欠点

本邦の医療者であれば,DLSTのことは聞いたことくらいあると思いますが,実は,世界的にはあまり評価されていない検査です.

それは,偽陽性が多いからです.

例えば,リウマトレックス®は,DLSTの偽陽性が高率に起こるとされています.

また,特定の薬剤でなくとも,ウイルス感染時など,リンパ球が増加している状態だと,使用したことのない薬剤ですらDLST陽性と出る可能性があります

ウイルス感染やMycoplasma感染時のリンパ球の反応
制御性T細胞(regulatory T cell:Treg)の機能が低下することにより,アレルギーが誘発されやすいとされる

ゆえに,例えば,”DLST陽性”と”パッチテスト陽性”は相関するものではないですし,また,DLST 陰性だからといって,その薬剤が原因薬ではないとは完全には言い切れません

■DLSTの実用性は?

ということで,決して完璧な検査ではないですが,安全かつ簡便なDLSTを,有用に生かす方法はないか考えます.

➀偽陽性を避けるために

i)偽陽性が起きやすい薬剤を把握

報告によると以下などがあります.

DLST偽陽性の報告が多い薬剤
・リウマトレックス®(77%)
・TS-1®(75%)
・ウコン(71%)
[日本内科学会雑誌2007;96(9)]

その他にも,偽陽性の報告があるかもしれないので,疑った薬剤は,一度PubMedなどで,偽陽性の報告がないか検索してみてもいいかもしれません.

ii)感染がある,もしくは感染が疑われる状況では,施行しない

先ほど言いましたが,ウイルスやマイコプラズマ感染などで,リンパ球機能に異常がある場合,偽陽性がでやすくなってしまいます.

感染が疑われる状況では,極力DLSTの施行は控えましょう.(要らぬ混乱を招く可能性があります.)

➁感度を高める:薬疹のタイプによる陽性になる時期の違い

薬疹の原因と疑われた薬剤は,基本的に二度と使用できなくなります

原疾患の治療のキードラッグが被疑薬になってしまうと,治療の弊害って結構大きいんですよね.

私は,DLSTを,免罪符にしたいと思って施行することが多いです.

要は,「薬疹発症→被偽薬になる→DLST施行→陰性→無罪放免」という流れです.

そのためには検査の感度が高い時期を把握しておくことが,エチケットです

感度の低い時期の「陰性」は「偽陰性」かもしれませんからね

i)発症初期から1週間以内が陽性に出やすい薬疹のタイプ

・播種状紅斑丘疹型のほとんど:最も頻度が高い薬疹のタイプ
・スティーブンス・ジョンソン症候群SJS/中毒性表皮壊死融解症 (TEN:重症型

これらの薬疹に関しては,DLSTは感度が高いとされるので,被疑薬のDLSTが陰性だった場合は,無罪放免の可能性が高いです.

ii)発症から8週以降に陽性となりやすいタイプ

・薬剤性過敏症症候群DIHS
・播種状紅斑丘疹型の一部

これらは,発症から時間が経って,やっとDLSTが陽性になるといわれています.

発症初期に陰性になったからと言って,薬疹は否定はできないわけですね.

DIHSの場合はもちろんですが,播種状紅斑丘疹も,DLSTが陰性の時は,数週間空けて複数回DLSTを行うことを検討しましょう.

陽性率を上げることができるので,よりしっかりした免罪符にできます.

■DLSTの実際

以上,DLSTについてのまとめでしたが,DLSTに固執しないことが重要です.

安全で簡便な検査ではありますが,上述したようなデメリットもあるので.

基本的には,被疑薬否定のための免罪符だと思ってください.

積極的に被疑薬を探し当てる際は,パッチテスト内服誘発試験など,より陽性率が高い検査も検討しましょう.(新たな感作や症状再燃のリスクがあるので,適応は慎重に)

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