【The利尿薬】ループ利尿薬【特徴から種類や使い分けも解説】
今回は,最強の利尿薬,ループ利尿薬の解説です.
1.ループ利尿薬の作用機序と特徴
ヘンレのループ上行脚にあるNa-K-2Cl共輸送体を阻害します.
これの何がすごいって?
(他のナトリウム利尿薬同様の)単純なナトリウム再吸収抑制による利尿効果は当然あります.
重要なのは,それに加え,ヘンレのループの濃縮機構を阻害することです.
ヘンレのループの濃縮機構を阻害すると,腎髄質の浸透圧勾配が低減され,集合管における水の再吸収が抑制されるんです
これは他のナトリウム利尿薬にはない作用であり,どちらかと言うと(集合管に作用する)トルバプタンに近い作用です.
(≫ヘンレのループの機能など,詳細はこちらの記事で解説.)
ゆえに,他のナトリウム利尿薬(サイアザイドやK保持性利尿薬)とは一線を画す利尿効果となっています.
また,ループ利尿薬はマクラデンサのNa-K-2Cl共輸送体も阻害することで,尿細管ー糸球体フィードバックを起こしにくく,他のナトリウム利尿薬に比してGFRの低下を来たしにくいとされます.
■マクラデンサ(緻密斑)
マクラデンサは,遠位尿細管に存在し,尿細管管腔液のNaCl濃度を検知して,メザンギウム細胞を介し,輸入細動脈の収縮拡張(糸球体血流の調整)やレニン分泌量の調節をします.
循環血漿量を腎臓で感知しているセンサーだと思ってください.
■尿細管ー糸球体フィードバック
遠位尿細管管腔内へNa+, Cl-の流入が増加すると,マクラデンサを介したRAA系が抑制され,輸入細動脈の収縮.糸球体濾過量が抑制されます.
この一連の反応を尿細管ー糸球体TGフィードバックと言います.
要は,「尿が多そう→糸球体に入る血液減らしちゃお」という反応.
2.ループ利尿薬の注意すべき副作用・禁忌
・低K血症
・高尿酸血症
・脱水
・代謝性アルカローシス ☜肝性脳症を増悪させるので注意
この辺りが,ループ利尿薬の副作用として知られています.
ただ,他の利尿薬でもみられるものが多く,今回の記事では割愛します.
(利尿剤に伴う電解質異常などに関しては,後日別の記事として公開する予定)
注意すべき副作用として,聴覚障害があります.
ループ利尿薬による聴覚障害
内耳には,Na-K-2Cl共輸送体のisoformがあり,ループ利尿薬には聴覚毒性があります.
具体的には,聴力低下や耳鳴りを起こす可能性があります.
大量投与をしなければ稀な副作用ですが,を多くは非可逆性なので注意が必要.
また,意外に気をつけるべきは,水溶性ビタミンの欠乏です.
利尿作用の強いループ利尿薬は,尿量増加によって,水溶性ビタミンを欠乏させます.
電解質と異なり,ルーチンで計測しないと思うので,(特にビタミンB1などの)水溶性ビタミン欠乏には注意しましょう.
3.各薬剤の違い
フロセミド,トラセミド,アゾセミドに関して解説します.
(ブメタニド(ルネトロン®)は私自身一度も使ったことがないことと,特別な特徴もわからなかったので,割愛.)
➀フロセミド(ラシックス®)
経口薬,静注薬ともにあり,「ループ利尿薬といえばラシックスでしょ!」というポジション.
多くの先生が使用経験豊富で,用量の感覚も共有されやすいので,さまざまな”利尿薬議論”の軸となるThe利尿薬.(”フロセミドなら...”とか”フロセミドと比較して....”みないな)
そんななじみの深いフロセミドですが,生物学的吸収率・効果発現の個体差がとても大きいとされます.
その幅が10-100%(とんでもない)とされており,平均して50%ということで,「静注20mgと同様の作用を期待するなら経口40mgが必要」とよく言われますが,人によります.
経口薬への切り替えは,尿の反応性を見て適宜増減しましょう.
経口薬の作用時間は,6時間であり(「ラ・シックス(6)」という名の由来),ループ利尿薬の中で最も短い作用時間.
➁トラセミド(ルプラック®)
・ループ利尿薬の作用+アルドステロン受容体拮抗作用
・作用時間がフロセミドより長い:8時間
ということで,「ちょっと作用時間の長いフロセミド+ごく少量のスピロノラクトン(K保持性利尿薬)」みたいな薬.
作用的に当然ですが,他のループ利尿薬に比し低K血症を起こしにくいのが強み.
-----------------------------------------------------------
TORIC 試験(Eur J Heart Fail. 2002 Aug;4(4):507-13.)
・対象:NYHAⅡ‐Ⅲの慢性心不全1377例
既存の心不全治療に加え
トラセミド10㎎/day vs フロセミド40mg/day +その他の利尿薬
※その他の利尿薬(スピロノラクトン、アミロリド、ヒドロクロロチアジド、インダパミド、トリアムテレン、アルチジド、ムブチジド、クロルタリドン、キシパミド、ピレタニド)
・結果:トラセミドが,総死亡率,心原性死亡率,NYHA class,全て有意に改善.低K血症も少なかった.
----------------------------------------------------------
とのことですが,私的にはこの比較自体は,実用性に関係ないと考えています.
なぜなら,抗アルドステロン作用が心不全患者の予後や再入院を減らすことは,スピロノラクトンのデータなどからわかっているので,ある意味当然の結果なのかな?と思っているからです.
実用する上で,むしろ重要なことは
➀腎機能や血清K値的に,抗アルドステロン作用を付加するか否か
➁抗アルドステロン作用を付加する場合,フロセミド+少量スピロノラクトンでいくか,トラセミド単剤でいくか
の2点です.
「フロセミドにするか,トラセミドにするか」
の区別はこの2点しかないと,個人的には思っています.
➂アゾセミド(ダイアート®)
・効果が緩徐で(トラセミドよりさらに)持続的:12時間以上
※ちなみにサイアザイドの作用時間は
ヒドロクロロチアジド 12時間程度
トリクロルメチアジド(フルイトラン®) 24時間程度
インダパミド(ナトリックス®) 24時間程度
-----------------------------------------------------------------------------
J-MELODIC試験
・対象:NYHAⅡ-Ⅲの慢性心不全320例
標準治療薬に加えて
アゾセミド vs フロセミド
・1次エンドポイント:心血管死 or うっ血性心不全による予期せぬ入院
・結果:アゾセミドで有意に改善(45%リスク低減)
--------------------------------------------------------------------------------
この試験の結果,「アゾセミドすごくない?」と注目を浴びた有名なStudy.
なぜこのような良いアウトカムになったかは,「長時間作用型だから,反射性に起こるRAA系の亢進が減ったのでは?」などと考えられています.
改善させたのはあくまで複合エンドポイントであり,(RAA系のことをすごい気にしているはずの)心不全ガイドラインなどでも特別な推奨はほとんどされていません.
■「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)」における”長時間作用型ループ利尿薬”の扱い
J-MELODIC試験の対象患者の過半数がLVEF≧50%だったため,HFpEFへの治療薬推奨でのみ”長時間作用型を選択する(ClassⅡbC)”という表現が登場しています.
エビデンスレベルCなんで,そんなに気にしなくていいと思いますが...
どこまで臨床に反映させるかは好みの範疇ですかね.
ただ,個人的には(フロセミドより)アゾセミドを選択しています.
理由は単純で,「(アゾセミドに利益があったらそれはそれで良しとして)フロセミドにするメリットもあまりないかな?」と思うからです.
薬価もそんなに変わりませんし,「夜間頻尿が増えるのでは?」と懸念する人もいるかもしれませんが,作用時間は12時間なので.朝飲めば,ふつう大丈夫です.
(後述しますが)フロセミドと違って生物学的吸収率も安定してますしね.
私見です.
➃3剤の比較
■作用時間(経口薬)
アゾセミド(ダイアート®)12時間
>トラセミド(ルプラック®)8時間
>フロセミド(ラシックス®)6時間
■経口薬の生物学的吸収率
フロセミド:10-100%(幅が広い)
トラセミド,アゾセミドほぼ:100%
■力価(諸説あり)
フロセミド40mg≧アゾセミド60mg>トラセミド8mg
フロセミド20mg≧アゾセミド30mg>トラセミド4mg
※とにかくフロセミドの力価にばらつきがある
■剤型
静注薬があるのはフロセミドのみ
➾急性期はフロセミド一択
➄使い分け(案)
i) HFpEFなどで長時間作用型を使用したい ⇒アゾセミド
ii) 抗アルドステロン作用を上乗せしたい,かつ,(アドヒアランスなどの問題で)単剤で済ませたい ⇒トラセミド
iii) [私見] 他のループ利尿薬を使うとカリウムが低下してしまって,かといって,腎機能に余裕がないからスピロノラクトンを上乗せする気も起きない ⇒トラセミド
iii) 急性期 ⇒静注薬がいいのでフロセミド
iv) [私見] 特に選ばない理由がない ⇒アゾセミド
まとめ
今回は,ループ利尿薬の作用機序,そこから生まれる特徴,特殊な副作用を解説し,その後,各薬剤の特徴と使い分け(案)の話をしました.
今回の話は以上です.
本日もお疲れ様でした.
■おまけ:ループ利尿薬を降圧薬として使用するか否か
同じくナトリウム利尿薬のサイアザイド系利尿薬は,降圧薬として第一選択薬になっています.
ループ利尿薬は降圧薬の選択肢に入らないのでしょうか?
【結論】
個人的な意見だが,明確にover volumeが高血圧の原因なら良いが,直接血圧を下げる目的では使用することはない.
理由1
・循環血漿量が減ることに対して,RAA系などの代償機構が働き,血圧は下がりにくいため,降圧薬として不適(これはある意味良い点でもある)
理由2
・基本的に作用時間が短い.高血圧治療の基本として,血圧変動を抑えることが大事になるので,理にかなっていない.
以上,まとめると,血管内over volumeを疑わない症例でループ利尿薬を,降圧薬として選択することは,基本的にありません.
末梢血管拡張作用があり,作用時間が長いサイアザイド利尿薬の方が,降圧薬としては理にかなっています.
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?