【CKD合併高血圧】腎不全と高血圧の関係【薬の選択など,治療のポイントは?】
※2021/2/3加筆修正
高血圧は,腎臓に対して機能的な変化,器質的な変化をもたらします.
腎障害は,さまざまな機序を介して高血圧の原因となります.
今回は,そんなCKDと高血圧の関係を解説します.
■高血圧の時,腎臓で何が起こるのか:輸入細動脈による糸球体の保護
体血圧は,正常でも収縮期で100-120mmHgです.
一方,糸球体内圧は,輸入細動脈の圧調節機構によって,50mmHg程度に保たれています.
体血圧がそのまま糸球体内に伝わったら,糸球体は壊れてしまいます.
この圧調節機構は,収縮期血圧130mmHg以上の高血圧となったときも,輸入細動脈を収縮させることで,糸球体内圧を保とうとします.
輸入細動脈は,糸球体の入口です.
入口を狭くしたら,糸球体内は入れる血流は少なくなり,内部の圧力は下がりますよね?
それが輸入細動脈の収縮による糸球体内圧の維持です.
おかげさまで,糸球体は保護されます.
しかし,輸入細動脈が収縮するということは,この代償として腎血流は低下します.
腎血流の低下は,RAA系や交感神経系を亢進させ,高血圧を悪化させてしまいます.
負のループの始まりです.
■腎障害の始まり:高血圧の持続と肥満や代謝障害の併存
この負のループを断ち切らないと何が起こるか.
それは圧調節機構の破綻です.
糸球体内圧が上がってしまいます.
糸球体内圧の上昇は,糸球体硬化を起こし,糸球体障害を起こすとともに,さらなる糸球体内圧の上昇を起こします.
また,糸球体内圧が上昇することで,糸球体濾過は過剰になり,蛋白尿が出現します.
蛋白尿の出現は,糸球体内圧上昇のマーカーとされます.
蛋白尿は,さまざまな機序で尿細管間質障害を起こします.
蛋白尿は,再吸収によるエネルギー不足,サイトカイン産生,尿中補体の活性化などを介して,尿細管間質を障害すると推測されています.
さらに,肥満や糖尿病の合併は,この圧調節機構の破綻を助長するとされています.
■そもそもなぜCKDは起きるか【腎慢性低酸素仮説】
輸出細動脈の下流に,尿細管周囲毛細血管(PTC)というものがあり,腎臓への酸素供給を行っています.
糸球体血流の低下や糸球体硬化,尿細管間質の障害は,PTCの減少や酸素の拡散障害を起こすと考えられており,腎臓の低酸素を起こす可能性が示唆されています.
腎臓の低酸素は,さらなる間質障害(間質の線維化)や尿細管再吸収障害を介した糸球体血流低下を起こすので,ここでも負のループが起きます.
また,すこし別口としては,腎性貧血があると,酸素運搬障害になるので,CKDの病態構築には一役を買っています.
■CKDの高血圧に対する影響
一方で,CKDがあることによる高血圧への影響はどうでしょう.
腎障害は,腎求心性交感神経経路の活性化を介して,交感神経中枢を活性化することがわかっています.
その結果,血管抵抗増大,RAA系の活性化が起き,ナトリウム排泄障害,体液量増加なども介して,高血圧を増悪させます.
このような病態を,腎実質性高血圧と呼びます.
また,CKDによるナトリウム排泄障害は,食塩感受性の増大にもつながることも重要です.
(≫食塩感受性に関する解説はこちら.)
■ここまでの内容から何が言えるか
➀CKDになる前にさっさと血圧を治療しよう
そもそも,(糖尿病でもないかぎり)高血圧を放っておくからCKDになるんです.
糸球体内圧が保たれているうちに治療するのがいいに決まっています.
➁CKDを意識した降圧薬の選択はACE阻害薬/ARB優先
ACE阻害薬/ARBは,輸出細動脈を拡張させます.
輸出細動脈は糸球体の出口であり,出口が広がれば糸球体内圧は下がります.
つまり,ACE阻害薬/ARBは糸球体内圧の上昇を抑制する降圧薬なんです.
「高血圧⇒CKD」の病態は上述した通りなので,糸球体内圧の上昇抑制は腎保護的に働くことに納得できると思います.
(≫降圧薬の選択に関しては,こちらの記事などで解説しています.)
実際に,CKD症例において,ACE阻害薬/ARBによる治療が,それらを用いない治療と比べて,有意に腎疾患の進行を遅らせたという報告は多数存在します.(Nephron. 2019;143(2):100-107.)
ちなみに
CKDに対する有効性に関して,ACE阻害薬とARBは同等とされます.
対照的に
冠動脈疾患においては,基本的に(ARBより)ACE阻害薬を優先すべきである
ということを合わせて覚えておきましょう.
■CKD合併高血圧の治療原則:厳格な降圧目標の達成
血圧を下げることは単純かつ明確な解決です.
ゆえに,CKD合併高血圧でも降圧目標の達成は絶対です.
糸球体内圧を上げなければいいわけですから.
また,上述した通り,糖尿病の合併は,圧調節機構の破綻を助長します.
よって,糖尿病合併高血圧の場合,降圧目標が厳格になるわけです.
また,蛋白尿の存在は,糸球体内圧上昇を示唆するので,上述したように「高血圧とCKDの関係」に重要な意味合いを持ちます.
ゆえに,蛋白尿があるときも降圧目標が厳格になります.
■CKD合併高血圧の治療の注意点・ポイント
➀過度な降圧は避ける
実は,気にする人は多いと思いますが,過降圧による腎障害の悪化の可能性は示されていません.
しかし,腎血流の低下がみられた場合は話が別です.
高齢者や動脈硬化が強い例では,緩徐に降圧することが安全であることには違いないです.
➁食塩制限(減塩)がとても大事
前述の通り,CKDによって食塩感受性が増している可能性があります.
ゆえに,減塩による降圧効果が大きく望めます.
また,(CKD合併高血圧の第一選択である)ACE阻害薬/ARBは食塩感受性を増大させます.(≫詳細はこちらで解説しています.)
このことから,CKD合併高血圧では,減塩がとても大事になります.
➂減量
肥満ないしメタボリックシンドロームは,CKD発症のリスク因子とされます.
上述したように,圧調節機構の破綻を助長させることもあるので,しっかり減量指導をしましょう.
➃第一選択薬の優先度
➃-i)蛋白尿の有無
この記事内でも何度か言及しましたが,(微量アルブミン尿を含めた)蛋白尿は,糸球体内圧の上昇のマーカーです.
「腎障害ね!GFR確認!」
とはなりやすいと思いますが,この”蛋白尿の有無”も,GFRと双璧をなす腎障害のマーカーです.
この蛋白尿の有無は,降圧薬の選択を左右します.
高血圧治療ガイドラインによると
・蛋白尿陽性:ACE阻害薬/ARB優先
・蛋白尿陰性:第一選択薬(ACE阻害薬/ARB,Ca拮抗薬,利尿薬)のなかで優劣無し
です.
背景として,CKDに対するACE阻害薬/ARBの優位性を検証したRCTのメタ解析において,蛋白尿を有さないCKDでは,ACE阻害薬/ARBの優位性が示されなかったことが影響しています.
➃-ii)糖尿病の有無
2019年改訂の高血圧治療ガイドラインによると
糖尿病があろうがなかろうが
”蛋白尿があれば,ACE阻害薬/ARBを優先”
”蛋白尿がなければ,一般的な第一選択薬(ACE阻害薬/ARB,Ca拮抗薬,利尿薬)のなかに優劣無し”
となっています.
それ以前の2014年改訂高血圧治療ガイドラインまでは
”糖尿病合併であれば,蛋白尿の有無にかかわらず,ACE阻害薬/ARBを優先とする”
という内容でした.
「蛋白尿の有無」を重んじる傾向は,糖尿病性腎症DMNから糖尿病性腎臓病DKDへと,糖尿病症例の腎障害の見方が変わってきたことが影響しているのだと思います.
(≫DKDの疾患概念については,この記事で解説しています.)
つまり,降圧薬の選択に関しては,糖尿病の有無は,大事ではありません.
【余談】
(上述しましたが)糖尿病の有無で,(薬剤選択は変わらないが)降圧目標は変わります.
すなわち
蛋白尿陰性のCKDでも,糖尿病を有する場合は130/80mmHg未満が目標となります.(蛋白尿陰性かつ糖尿病なしのCKD:140/90mmHgが目標)
【余談】
国際腎臓病ガイドライン機構であるKDIGO(Kidney Disease Improving Global Outcome)による「慢性腎臓病患者の血圧管理のためのKDIGO診療ガイドライン」では,降圧目標値に関しても”蛋白尿の有無が全てを決める”というスタイルです.☟
「日本のガイドラインに従うなら,糖尿病の有無で降圧目標を変える」
「世界的なCKDガイドラインに従うなら,糖尿病の有無はどうでもよくて,蛋白尿の有無こそが,(降圧目標と薬剤選択に関しても)降圧療法のキモ」
という認識でしょう.
➄その他
禁煙,運動習慣,アルコール制限,短時間睡眠など様々な因子がCKD合併高血圧に影響がありますが,これは動脈硬化疾患一般にいえることなので,今回は割愛します.
■まとめ
今回は,高血圧とCKDの関係を解説しました.
・高血圧⇔腎血流の低下の負のループ
・糸球体内圧上昇⇒糸球体硬化⇒糸球体内圧上昇⇒...の負のループ
・高血圧⇔CKDの負のループ
放っておけば放っておくほど,これらの負のループが発生するので,早めの治療介入をしましょう.
CKDを合併してしまった高血圧は,
・(基本的には)ACE阻害薬/ARBを用いて
・(糖尿病や蛋白尿の存在を意識しながら)厳格に降圧し
・減塩/減量もしっかり指導
がポイントです.
今回の話は以上です.
本日もお疲れ様でした.
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