【要確認】β遮断薬を降圧薬として選択するとき【第一選択薬じゃないのにあえて使うのはどんな時?】

心不全や心筋梗塞に対する確立したエビデンスがある一方,β遮断薬は,2014年のガイドライン改訂で,降圧薬の第一選択から外れました.

それでも,(心不全歴・心筋梗塞歴がないにもかかわらず)β遮断薬が選択されているときも,ありますよね?

どういったときに,β遮断薬は降圧薬として選択されているのでしょうか?

解説していきます.

1.心疾患合併高血圧

兎にも角にもこれ.

心不全心筋梗塞はもちろん,(心筋梗塞に至ってはいない)狭心症や無症候性心筋虚血に対しても,β遮断薬は心負荷を軽減させるため,降圧薬としてあえて選ぶ意味はあります.
(≫虚血性心疾患に対するβ遮断薬の使用はこちらの記事で解説しています.)

また,心房細動のような頻脈性不整脈を合併している際のRate controlにもしようする薬剤なので,心房細動合併の高血圧などでは「Rate controlがてら一石二鳥で」なんて使用のしかたもあります.

ただし,心疾患なら何でもいいというわけでなく,冠攣縮性狭心症や徐脈性不整脈などでは,慎重に選択しましょう.

実際に使用する場合は,予後改善エビデンスのある,ビソプロロールかカルベジロールを選択したほうがbetterです.

 

2.急性大動脈解離

大動脈解離の急性期には,β遮断薬による降圧が第一選択となります.

β遮断薬使用下で血圧コントロール(収縮期血圧≦120mmHg)が達成できない場合に,カルシウム拮抗薬などの併用を検討するのが基本です.

なぜ,一般的な降圧薬の第一選択薬を抑えて,β遮断薬が第一選択になるいかというと,理由は,大動脈壁のストレス軽減のためです.

大動脈解離では,大動脈が裂けているわけで,大動脈壁へのストレスが問題になることはわかると思いますが,どういうしくみで大動脈壁のストレスを軽減するのか.

もちろん,➀動脈圧を下げることも大事ですが,それに加えて,➁心室の収縮性を抑えることで血流速度を落とすこと,➂脈拍数を下げることで単位時間当たりの血圧変化を少なくすること,などができます.

急性大動脈解離では,収縮期血圧だけでなく,脈拍数を下げることも重要な内科的管理です(”鎮痛””降圧””レートコントロール”の3本柱).
脈拍数の目標値にコンセンサスはありませんが,最低でも80bpm未満
報告によっては60bpm未満の管理で予後を良くしたというものもあります(Circulation. 2008 Sep 30;118(14 Suppl):S167-70.).

これらの作用によって,大動脈壁のストレスを下げるため,大動脈解離の急性期の降圧は,β遮断薬が第一選択となります.

実際に使用する場合は,β1選択性が高い方が好ましいため,ランジオロール(オノアクト®)の静注や,ビソプロロールの貼付剤などを私は使用しています.

ただし,オノアクト®には,高血圧の適応病名はないので注意してください.
その辺りに厳しい施設では,β1選択性は高くないですが,プロプラノロール(インデラル®)の静注でも問題はありません.

内服薬は,腸管吸収が安定しないので,急性期に使用すべきではないです.

■むしろ,なんでCa拮抗薬(CCB)や硝酸薬が第一選択ではダメなのか
「動脈圧を下げるという目的だけであれば,別にCCBなどを先に使っても悪いことはなくない?」と,思うかもしれませんよね.
しかし,基本的にはダメなんです
これは,反射性の交感神経緊張が起きると,頻脈などを誘発し,大動脈壁のストレスが増大してしまう可能性があるからです.
ジルチアゼムのような非ジヒドロピリジン系CCBであれば,心抑制効果もあるのでまだ安全ですが,ニカルジピンのようなジヒドロピリジン系のCa拮抗薬は,血管選択性が高く,切れ味のいい血管拡張作用を有するので,反射性の交感神経緊張が起こりやすく,注意が必要です.

 

3.治療抵抗性の高血圧

降圧薬の作用機序は大きく分けて,血管拡張作用心拍出量減少作用の2つがあります.

また,心拍出量を減少させるしくみとしても,大きく分けて前負荷の軽減心収縮力の低下心拍数の低下の3つに分けられます.

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降圧薬の第一選択薬である,Ca拮抗薬,ACE阻害薬/ARB,利尿薬(特にサイアザイド系利尿薬)には,血管拡張作用,前負荷軽減作用はありますが,心収縮力低下や心拍数低下作用は期待できません

β遮断薬,とくにβ1遮断作用による心収縮力低下と心拍数の低下は,他の降圧薬にないユニークな機序ということになります.

ゆえに,第一選択薬を複数併用しても降圧目標を達成できない時,そんなときの多剤併用療法の際に,β遮断薬を追加することがあります.

 

4.早朝高血圧(とくにモーニングサージや閉塞性睡眠時無呼吸症候群の合併)

早朝高血圧の原因は,Non-dipper型の血圧変動モーニングサージなどが言われています.

これら2つの原因に共通する病態として,夜間交感神経活性の増大がいわれています.

閉塞性睡眠時無呼吸症候群(O-SAS)は,夜間交感神経活性を増大させる代表的な病態です.

O-SASを合併する高血圧患者において,β1選択性のβ遮断薬のアテノロールを早朝に内服した場合,Ca拮抗薬,ACE阻害薬/ARB,サイアザイド系利尿薬に比して,夜間血圧の降圧効果に優れていた,という報告があります(Am J Respir Crit Care Med. 2000 May;161(5):1423-8.).

裏を返せば,夜間交感神経活性の増大が成因となっている早朝高血圧に,β遮断薬は有効ということです.

ただし

「よーし,それなら”早朝高血圧⇒β遮断薬”だ!」

となるのはちょっと待ってください

基本的には,「早朝高血圧であるならば,なんでもかんでもβ遮断薬を第一選択薬にした方がoutcomeが良かった」とする報告はありません.

やはり,早朝高血圧とはいえ,まずは高血圧の第一選択薬である,Ca拮抗薬,ACE阻害薬/ARB,サイアザイド系利尿薬から薬剤を選択するべきです.

とくに,早朝高血圧のなかでも,Non-dipper型高血圧は,夜間交感神経活性の増大以外にも,循環血液量増加が成因となります.

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ゆえに,早朝高血圧の対応をする時,明らかなO-SASの合併や,24時間血圧測定(ABPM)によるモーニングサージの確認がなければ,降圧薬の第一選択薬であるサイアザイド系利尿薬をまずは検討した方がいいです.

言い方を変えるならば

・(サイアザイド系利尿薬などの)第一選択薬が著効しない早朝高血圧
・O-SAS合併のある早朝高血圧
・明らかなモーニングサージを認める早朝高血圧

などで,β遮断薬を検討していきましょう.

具体的な薬剤選択に関して,コンセンサスは得られていないですが,α遮断作用を有するカルベジロールの方が(メトプロロールコハク酸に比して)有意に早朝高血圧を降圧できたという報告(Am J Hypertens. 2005 Mar;18(3):308-18. )があるので,カルベジロールを優先して選択してみてもいいと思います.

また,モーニングサージに対応する際のβ遮断薬の内服タイミングは,就寝前内服が有効とされます(J Am Soc Hypertens. Jan-Feb 2012;6(1):66-72.).

(≫早朝高血圧の解説はこちらの記事でしています.)

 

5.その他

その他,本態性振戦片頭痛の合併している高血圧では,それぞれβ遮断薬の使用が推奨されることがあります.

ただし,個人的には,「それだけの目的使用するほどβ遮断薬の敷居は低くない」と思っているので,このあたりは個々の判断でお願いします.

 

■そもそもなんでβ遮断薬は,降圧薬の第一選択薬から降ろされたの?

2014年のガイドライン改訂があるまで,β遮断薬も降圧薬の第一選択薬でした.

第一選択薬から外れることになった背景には,LIFE(Losartan Intervention for Endpoint Reduction in Hypertension)ASCOT-BPLA(Anglo-Scandinavian Cardiac Outcomes Trial-Blood Pressure Lowering Arm)などの結果が根拠になっています.

これらの試験では,他の降圧薬の第一選択薬(Ca拮抗薬,ACE阻害薬/ARB,サイアザイド系利尿薬)に比して,β遮断薬で有意に心血管イベントの抑制効果が少なかったという結果になっています.

この原因として,降圧目標の達成率が50%と低かったこと,心拍数低下の悪影響,中心血圧を下げない偽性降圧効果,さまざまな副作用などが言われています.

ただ,裏を返せば,他剤を併用するなどして降圧目標をしっかり達成し,徐拍化が循環に悪影響を及ぼす症例は避けるなど,各種副作用の対応をしっかりすれば,β遮断薬にも有効性がないわけではありません.

実際,この研究で用いられたβ遮断薬は,水溶性β1選択性β遮断薬のアテノロールでしたが,その後に発売されたカルベジロールビソプロロールでは,(降圧効果とは独立して)心血管イベントの抑制効果が認められています.

β遮断薬がダメ

というわけではなく,使い方の問題であり,「第一選択薬でない薬なんぞ,使う必要はない」と邪険にするのは,治療の選択肢を狭くしているだけなので注意いしましょう.

 

■まとめ

単純な降圧薬として優先的に使用されることはないβ遮断薬ですが,状況によっては優先すべき場面もあります.

降圧目標の達成副作用への留意を前提にはしますが,β遮断薬は有用な降圧薬のひとつではあるので,特徴をちゃんとに理解しておきましょう.

高血圧症だけをとっても,実際の患者さんは多種多様です.

選択肢はひとつでも多い方がいいですよね

 

今回の話は以上です.

本日もお疲れ様でした.


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