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7/28【ドコモベンチャーズセミナー】未来を変える?量子コンピュータ/暗号周辺動向特集~専門家トレンド概説+スタートアップ2社紹介~レポート後半

皆さんこんにちは!ドコモ・ベンチャーズです。
今回は、2022年7月28日(木)に行ったイベント、

7/28【ドコモベンチャーズセミナー】未来を変える?量子コンピュータ/暗号周辺動向特集~専門家トレンド概説+スタートアップ2社紹介~

の後半レポートをお届けします。

本イベントでは、量子コンピュータの専門家であるNTTデータ株式会社 技術開発本部 イノベーションセンタ課長 矢実氏にご登壇いただき、分野の概況やトレンドのセミナーを行っていただいた後、量子コンピュータに関連する事業を展開し、新しい事業に取り組まれている注目のスタートアップを2社にピッチをしていただきました。

・量子コンピュータおよび関連技術に興味のある方
・スタートアップへの投資や事業連携をご検討されている方
・新規事業、オープンイノベーション等をご検討されている方
・最新のサービストレンド、テクノロジートレンドに興味のある方

にぜひお読みいただきたい内容となっております!

各スタートアップにピッチをしていただいた内容をご紹介します。

■1社目:LQUOM株式会社

1社目は、LQUOM 吉田 様にご登壇いただきました!

<株式会社LQUOM COO 吉田 まほろ 様>

株式会社LQUOM 吉田 まほろ 様

・LQUOM社の事業内容


LQUOM社は、絶対安全な次世代ネットワークである量子インターネットの実用化をゴールに設定し、長距離量子通信技術を開発している企業です。
社名は、Long-distance Quantum Communication(長距離量子通信)の開発と社会実装を目指す、というところに由来しています。
横浜国立大学の堀切智之准教授の開発した技術をもとに2020年に設立されました。

LQUOM社は、量子コンピュータ時代の”安心”、”便利”を支える長距離量子通信の実現を目指しています。
この”安心”、”便利”には具体的な技術が対応しています。

“安心”=量子暗号通信:”量子もつれ”を利用し、国際的な長距離通信を可能にする

“便利”=分散量子計算:量子コンピュータ同士を繋いで、性能を向上させる

量子通信分野の中でもLQUOM社は特にハードウェアの開発に注力しています。

量子と量子もつれ

量子とは、「これ以上分割できない最小単位」のことです。
具体的には、原子や電子、光子として現れ、身の回りのほとんどは、この小さな量子が集まって作られたものです。
LQUOM社は、既存の通信ファイバーである光ファイバーの活用を目指しているため、量子としては特に光子に注目しています。

量子には、多体系において現れる「量子もつれ」という相関関係があります。
これは、量子の双子のような関係性で、相関関係にある2つの量子の一方が上向きスピン(0とする)ならばもう一方は必ず下向きスピン(1となる)というものです。

現在、コンピュータや通信で使われているものは全て”疑似乱数”と呼ばれるもので、時間をかければ全て解読できてしまいます。しかし、”量子もつれ”は「真正乱数」であり、規則性や再現性がなく、自然発生するため予想が不可能となります。

また、量子もつれは宇宙の果てまで離れても、相関性を保つ「非局在性」を持ちます。これは、空間や光の概念がないような摩訶不思議な特性であり、量子テレポーテーションでの活用が期待されています。

量子もつれを活用した長距離量子通信

では、量子もつれをどのように長距離量子通信に活用することができるのでしょうか?

長距離量子通信のメカニズム

地点A(Osaka)と地点B(Miyagi)の長距離通信を例に説明します。
中継地点をC(Kanagawa)として、AとC、BとCがそれぞれ光ファイバーで繋がれた状態を考えます。なお、LQUOM社では、量子情報として「偏光」をやりとりすることで通信を行っています。

1.A、Bそれぞれの地点で量子もつれによって、対となる量子のペアを生成

2.それぞれで生成した片割れを光ファイバーを経由してC地点に送る

3.C地点で「ベル測定」を行うことで、それぞれの片割れが量子もつれ(=ペア)となる

4.A、B地点に残された量子にも干渉が起こり、それを計測することで量子状態の共有が可能となる

LQUOM社は将来的にはグローバルスケールでの長距離量子通信を目指しています。

このように量子もつれは、安全に長距離通信を行うことができるとても興味深い現象ですが、弱点も存在します。

  • 光に弱く、強い/太い幅の光には耐えられない

  • 外乱に弱く、外界の環境に影響を受けてしまう

  • 保持力が弱く、もつれ情報は長時間持続しない

このような弱点があるため、量子通信技術は大変困難なものだとされてきました。

LQUOM社の展開するソリューション

LQUOM社が開発している製品は次の3つです。

  • 量子もつれ光源
    狭窄スペクトル幅、微弱光子で量子もつれを作り出します。

  • 量子メモリ
    外乱に弱い量子もつれ情報を記録します。

  • 量子中継器
    量子もつれを外乱から守り、弱った量子性を増幅します。

そして、これらの技術をインテグレーションで展開できることこそがLQUOM社の最大の強みです。
長距離量子通信技術についてはプロトタイプタイプを開発中ですが、短距離通信システムについてはすでに完成しています。

LQUOM社のプロダクト


吉田様は、『“誰も解読できない最強のセキュリティ”を、「長距離通信」ひいては「量子インターネット」として、私たちは実現することが可能』、とおっしゃられ、今後様々な業界で必要不可欠な技術であると確信し、開発を進めているそうです。

長距離量子通信の市場

マーケットとしては、”絶対安全な通信がしたい”という業界や、量子ビット数増強に困難を抱えている業界となります。具体的には、金融・医療・創薬、そして安全保障・防衛分野がこれに当てはまります。

量子暗号通信の市場規模としては、2020年に1226億円となっています。さらに、2035年には、約2.1兆円になると予測されています。量子インターネットの市場規模としては、現行のインターネット市場規模数百兆円からの類推で、ゆくゆく数百兆円になるとの予測もあります。

出典:量子鍵配送(QKD)の世界市場規模、現状、予測 2022-2028年

Market Research.com
 

出典:2020年10月19日「量子暗号通信システム事業を開始」

東芝, ニュースリリース

量子インターネット市場において、量子光源として主に「レーザー光」を使っている企業が多いため、「量子もつれ」を用いた光源はLQUOM社の大きな差別化ポイントとなっています。そのため、他社と競合関係ではなく、自社の機器を供給していくポジションを確立しています。

なお、バリューチェーンについては、経済安保や調達安定性の観点から純国産化を検討しているそうです。

「量子もつれ」を活用した全く新しい通信方法にとてもワクワクしました。長距離通信の社会実装まで目が離せませんね!!

■2社目:blueqat株式会社

2社目は、blueqat 湊 様にご登壇いただきました!

<株式会社blueqat CEO 湊 雄一郎 様>

株式会社blueqat 湊 雄一郎 様

・blueqat社の事業内容


blueqat株式会社は、「人類の解けない問題を解く」をミッションに掲げ、量子コンピュータのアプリケーション・ミドルウェア・ハードウェアを一貫して開発している企業です。
具体的なサービス/製品は以下の通りです。

  • 東京大学量子ソフトウェア寄付講座
    東京大学と企業連合で量子コンピュータの社会実装

  • 機械学習受託
    CPU/GPUベース機械学習・深層学習受託

  • blueqat SDK
    OSS量子コンピュータソフトウェア開発キット

  • blueqat cloud
    量子コンピュータ&機械学習クラウドシステム

  • blueqat AutoQML
    ノーコード量子機械学習ツール、クローズドベータ運用

また、バックエンドは以下の通りとなっており、それぞれを利用することができます。

  • Amazon Braket
    フルマネージド量子コンピューティングサービス

  • NVIDIA cuQuantum
    新型量子コンピュータシミュレータ

  • オープンシリコンクオンタム
    次世代シリコン量子ビットハードウェア開発

量子コンピュータの市場規模

量子コンピュータの市場規模は、2020年までは5500億円程度でした。この時代は、エラーの多い小規模なマシンであるNISQという量子コンピュータと既存コンピュータのハイブリッド利用がされていたため、NISQ時代と呼ばれます。
2021年からは、量子コンピュータの性能がスパコンを凌駕し、市場も5兆5000億円に大きく膨らみました(=量子超越時代)。
そして、2040年頃には、量子コンピュータが完成し、市場が爆発的に拡大すると予想されています。市場規模が約93兆円の汎用マシン時代の到来が予測されています。

出典:Where Will Quantum Computers Create Value—and When? 

2019年5月13日,  BCG

コンピュータの進化とハイブリッド技術

2021年のGorden Bell賞は、絶対的に優位だと思われていた量子コンピュータとスーパーコンピュータの性能の差を縮めた中国チームの研究が受賞しました。

具体的には、53qubitのGoogleのSycamreプロセッサをシミュレートするには従来のコンピュータでは10000年かかると見積もられていました。しかし、新しいスーパーコンピュータ「神威」で計算すると、304秒で計算できてしまうことが発表されました。
この計算は、量子コンピュータでも200秒かかり、量子コンピュータに迫る勢いでスーパーコンピュータの性能が向上していることを示す結果となりました。これは、ソフトウェア・シミュレーション分野で技術革新があったためです。

GPUを活用した最新技術を用いることで、これまで解けなかった数万量子ビットの量子ゲート計算を可能にしています。

この技術は、従来の性能をはるかに超える量子コンピュータ計算を実現する可能性を示唆しており、量子コンピュータの世界を広げることに貢献しました。

出典:2021年のGordon Bell賞は中国チームが受賞、日本チームはGordon Bell特別賞を受賞 

2021年11月24日, マイナビニュース, TECH

また、IBM社は量子コンピュータの開発を順調に進めており、2025年に4000量子ビット超を持つ量子プロセッサーの実現を目指している、とロードマップで発表しました。量子コンピュータのビット数は今後も増えていくことが予測されます。

出典:2025年に4000量子ビット超を目指す--日本IBMが示す量子プロセッサーの行程表と意義

2022年7月1日, ZDNet Japan 

最新の動向では、量子コンピュータとGPUのそれぞれの得意分野をハイブリットで使用する技術が開発されています。たとえばAI技術に関しては、学習はGPUの方が断然早く、サンプルへの適応は量子コンピュータの方が断然早いです。

量子コンピュータとGPUを高度に利用するハイブリッドAI技術


blueqat社は、blueqat SDKにこのハイブリッド技術を一部実装しており、今後国内外に販売予定です。

今後の展望

  • 小型シリコン半導体量子コンピュータ
    既存の半導体製造プロセスを利用した新型の小型量子コンピュータを開発中です。産総研、住友重機械工業と共同で、量子チップ・冷凍機・制御系を含めて開発しています。

blueqat社の開発した小型シリコン半導体量子コンピュータ
  • blueqat AutoQML
    近年、プログラミングも大変複雑になってきているため、ノーコードの需要が増しています。blueqat AutoQMLはプログラミング不要でアプリを作れるプラットフォームであり、実機にも投げることができます。将来的には、プログラミングが一切不要で量子コンピュータを扱えるようにしていく予定です。

blueqat AutoQML―プログラミング不要でアプリを作れるプラットフォーム

アルゴリズム次第では、既存のスーパーコンピュータも量子コンピュータに劣らないんですね・・・とても興味深いです!
ノーコードで量子コンピュータが使える未来も大変ワクワクします!!

まとめ

いかがでしたか。
今回は、量子コンピュータ関連の代表的な2社のお話をお聞きしました。イベントレポート前半「量子コンピュータセミナー」も読んでいただくとさらに内容が理解しやすくなると思います。

量子技術が人類に与えるインパクトは凄まじく、今後の発展から目が離せませんね。社会実装に向けてまだまだ課題は多いですが、着実に盛り上がっていく領域であることは間違いないと感じました!!

今後もドコモ・ベンチャーズでは毎週1回以上のペースで定期的にイベントを実施し、その内容を本noteでレポートしていきます!

引き続きイベントレポートを配信していきますので、乞うご期待ください!!

>>イベント前半 量子コンピュータのトレンドレポートはこちら

>>今後のドコモ・ベンチャーズのイベントはこちら


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