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他作品disをしないとage感想を書けなくなった愚かな地球人の『閃光のハサウェイ』感想文

ほぼほぼネタバレないですけど、若干本編に触れてるので気にする人は見ない方がいいと思います。観るか悩んでる人にちょうどいいくらいを目指しています。

序論

発達段階の初期にガンダムを享受した子供は言語発達に問題抱えてしまう。好きでモノを語れなくなるという症状もまたその傾向の一つだ。とりわけ対処療法として「ジブリ叩き」や「エヴァ叩き」によって自己実現を果たさせるメソッドが取られていた為に、図1のコラ画像が普及して以降「エヴァ叩き」にとって変わる新たな対処法が要請されていることは言うまでもない。

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図1 「エヴァ叩き」をするガンダムオタクを戒めるモンキー・D・ルフィ氏

最も簡単な方法は「他ガンダム叩き」である。エヴァは大筋合意できるエンディングを迎え、宮崎駿は新作を作らなくなり、新海誠・細田守が圧倒的メインストリームを勝ち得た。ニチアサがコンスタントなブームを継続しており、Disney+は絶好調、ゴジラ映画すら復活している昨今、同族殺しを続けたガンダムファンはかつて以上にカルチャーの隅に追いやられてしまった。

富野以外のガンダム絶対認めないおじさん

ユニコーン蛇足論者

ガンプラ制作スキルマウンティング選手権

私の周りには世代的に『00』が好きだったが他ガンダムを観ていない人が何人かいる。彼らは“ガンダム好き”とは名乗らない。当然だろう。そのような行為は自殺行為である。無用な戦争は良く無いと『00』から学んでいるのだ。

実は2018年の『NT』以降新作ガンダムの供給が途切れている。テレビシリーズは2017年の『鉄血』がラスト。そのため古き他ガンダム叩き民族達は血に飢えていた。『鉄血』のラストは彼らが手を出すまでもなく大ブーイング、『NT』は『UC』の文脈で描かれている為にとうの昔に叩き切っており、味のしない骨をしゃぶり続けていた。

“『閃光のハサウェイ』映画化”の懸念

戦いの狼煙であった。かの民族達は戦争の準備を着々と始めた。

脚本の改悪、作画崩れ、動かないMS、キャラクターの捏造、エピソードのカット等等…この戦場には予想される火種が膨大にあるのだ。今にもこの無謀な映画を叩き潰さんと両手を振りかざった。

・『逆襲のシャア』における映画版と小説版の相違点

『閃光のハサウェイ』は”小説版“の続編である。主人公ハサウェイの動機に関わる部分でもある為に、こじつけが発生すると予想される。

・Ξガンダム、ペーネロペーの作画

非常に線が多くアニメで動かすことを想定していないデザインのため、戦闘シーンに見応えがないと予想される。特にかつてのロボットアニメにおいて「線の多いメカが動かない戦闘シーン」が多かったことによる経験則からも予想。

・キャラクターデザインの改悪やキャラクター追加・削除

古い作品である為に、現代のアニメに合わせたキャラクターデザインの改悪や、原作には無かったキャラクターの追加(『UC』キャラクターの追加など)や削除が予想される。

これについては実際キャラクターデザインと声優陣が発表された際にボヤ騒ぎになった。ギギの大幅なデザイン変更はもちろん、ハサウェイ・ノアの声優が変更になったことは『逆襲のシャア』や各ゲーム媒体等で慣れ親しんだファンからかなりの反発があった。

おそらく多くのガンダムファンがこの程度の事はあり得るだろうと予想していたに違いない。受け入れる準備をする者、フルボッコにする準備をする者、個人差はあるだろう。

講和

しかし公開から2週間経った現在、戦争状態はどこにも観測されていない。

文句一つなく観劇させる圧倒的クオリティが我々を黙らせたのだ。

全ガンダムオタクが称賛していると言う現象があまりに奇妙かもしれない。信じられないことかもしれないが、それだけ面白かったということ以外説明がつかないのだ。

・絵がめちゃくちゃに綺麗

全カット隙なく絵が上手い。背景も綺麗。パンフによるとキービジュアルを作り込んでから制作に移る手法を取ったそうだ。構図や色彩の美観に吸い込まれる。全カットが絵画のようでありながら連続的に接続されており、滑らかにストーリーが展開される。

人物の表情描写がとにかく丁寧で、無駄なセリフもなければ無駄な演技もない。一流役者の演技を見ているのと同じように、キャラクターの内面への理解が理屈を抜きにして己の感覚や感情で処理される。

富野由悠季先生の持つストーリーの独特な滑らかさと心地よさが、「絵がめちゃくちゃに綺麗」という圧倒的暴力を持って襲いかかってくる。観ている人間の波長がストーリーと完全に同期し、感情が揺さぶられながらも、観終わった後に心地よさしか残らない。

・カメラワーク

アクションシーン(特に人物の動き)でのカメラワークと、焦点切り替えによる視点誘導が非常に多い。

実写映画ではよく使われる基本的な演出テクニックであるが、旧来のアニメでは作画が難しい為に避けられてきたため、あまりに多用されるものだから驚いてしまった。これらはYouTubeでも公開された冒頭15分でもその片鱗が感じられる。

今見返したらこれ劇場とだいぶ違うな…

・モビルスーツ戦かっこよすぎ

量産型モビルスーツによる戦闘は勿論の事、ペーネロペーとΞガンダムは当然のようにカッコ良かった。いやもう舐めてました。あんなに動くなんて思って無かったですもの。どこまでcgでどこまで描いてるんですかこれ。もうパニックです。脱帽。

余計なSF設定説明セリフもない。ミノフスキー粒子がレーダーを遮ることを説明するセリフはないが、レーダーの検知能力低下・無線通信の距離感を演出することで説明している。「ミノフスキーフライト」という単語が登場するが、これも直後の出撃シーンによってその性能が説明される。

「戦闘シーン」という舞台装置が持ち得る性能、すなわち「心理描写」と「SF描写」の両方を、これもまた圧倒的ビジュアルクオリティを持ってして表現されている。

ハサウェイの心情変化、それを演出するストーリー展開、これらを完全再現するビジュアル構築

本作でハサウェイ・ノアは殆ど感情を吐露しない。しかしその感情変化が場面展開と状況変化によって演出されているのが本作の醍醐味である。

それをアニメーション化する上で、不要なセリフや露骨な心理描写を追加するのではなく、ポイントとなるシーンのキービジュアルを突き詰め、視線誘導と表情や声優の演技で示唆する。

その為にストーリーが自然と感覚的に理解される。無意味に意味深なセリフがない為わからないポイントが発生しない。(強いて言えば謎の緑髪の女が出てくるのと突然ゼロの執行人の声がする)それでいて重厚な展開が感情を揺さぶる。

今のサンライズはこんなアニメが作れるのか。

昨今の映画に於けるワンマン監督の作家性主義やそれによる成功・失敗に辟易していた私は、チームプロジェクトとして技術を結集し完遂された本作と、それを遂行したサンライズに驚嘆した。

‘20年代アニメの幕開けを、是非日本中のアニメオタク諸君に目撃してほしい。

ついでの追いエヴァdis

時間経過の演出かっこよすぎて、ヤシマ作戦の時に字幕で時間出してるのカッコいい!とか言ってたの恥ずかしくなった。



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