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回らない寿司を食べに行った話

人生ではじめて、カウンタータイプの寿司屋に行ってきました。当方普段は記念日といえば銀の皿の宅配寿司か、回転寿司で喜んでいる庶民です。今回は「ちょっと行ってみようか〜」くらいの気持ちでのれんを潜ったが最後、もう戻れなくなりそうな人生体験が待っていました。

まず、カウンターの上部におかれた奇っ怪な黒い天板に「ああ、何もわからない」と早くも挙動不審になる私。醤油と醤油皿がある世界しか経験してこなかったので勝手がわかりません。あれは寿司下駄というらしいことを後で知りました。

寿司下駄の上に載せられていく宝石のようなネタの数々。カツオは艷やかでつるんと口の中に滑り込んで溶けてなくなるし、スミイカはねっとりと濃厚で水っぽさのかけらもありません。(ちなみにこのスミイカ、下駄の隅に置かれました。大将おちゃめ)そして海苔の上にこぼれ落ちるウニ。もともと味付してあるのか、それとも本当においしいネタは味付しなくても良いのか、わからなくなるくらい素材の味が生き生きしていました。

店内は想像より賑やかで、店員さんの掛け声が行き交っている雰囲気でした。店用語って面白いですね。例えば水=雫、ビール=麦酒のように、そのままの言葉では言わないようでした。置き換えた言葉を使うことによって、客との間で世界の線引ができているのかもしれないですね。

回らないお寿司は経験したことのなかった奥深い世界でした。カウンターを通じて大将からときに手渡され、ときに下駄に置かれていく寿司ネタは、どれも丁寧で贅沢でした。大将は寿司ネタを置くときに、「奥房総の〇〇」などと産地を教えてくれたのできっと産地もこの時期に一番美味しい産地を選んでくれているのでしょう。私はどこ産の何が美味しいかなど全くわかりませんが、今まで食べたお寿司のなかで一番美味しいことは分かります。

今後宅配寿司や回るお寿司を食べたときに、今までと同じように満足できるか心配です。やっぱり普段は自炊して、大切な日に多少お金をかけてでも本当に美味しいものを食べるのが幸せなのかもしれない、と考えてしまいました。

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