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MOIW2023でラブ・ボナペティートの歌詞が気になったので作ってみようと思う【①解釈編】

登場人物

とぼすP
洋菓子の本を読むのが好きな志希P。技術はないが知識はあるのでパティシエの父親から「何だこいつ…」みたいな扱いを受けている。
MOIW2023でラブ・ボナペティートを初めて聴いた。
この記事を書くためだけにnoteを触り始めたnote初心者。
ツナ缶
今まで私にラブ・ボナペティートを隠していた戦犯。この記事の校正・資料作りをしてくれた親切な友人でもある。千雪さんのファン。星輝子、九十九一希、カフェパレードも好き。現地経験が少ない中、アリーナでアルストロメリアとカフェパレードのラブ・ボナペティートを浴びた。

事の発端

志希Pである私は、担当目当てで現地参戦したMOIW2023 day2でラブ・ボナペティートを浴び、歌詞もあまり聞き取れていない状態で「かわいくて素晴らしい曲だ…!そして『おもてなし』とカフェパレードの相性最高!」と無邪気にはしゃいでいました。
しかしその後アーカイブを見ると、どうやら「シュクル」等のワードが聞こえてくるではありませんか。私はそこでようやく、「今お菓子作る話してなかった?」と歌詞が気になり始めました。

そのような経緯で検索して出てきた歌詞を見ると、私が本でよく読むような製菓専門用語がズラリと並んでいるではありませんか!
そして一つの疑問が浮かんできました。「普通のPさん、この用語分かるのだろうか」と…。

今までの人生経験から、自分の感覚は参考になりません。一般の方はパティスリーという用語すら通じないのです。ウィーン菓子過激派オタクをグッと抑えてコンディトライではなくフランス語由来の一般名詞を使ったつもりだったのですが…。

そこで高校からの友人であり千雪ファンでもあるツナ缶に相談したところ、以下のような返事が返ってきました。

どうやら別に意味がわかる必要はないらしい


意味は分からない方が浪漫があっていいのかもしれないなあ、などと思いつつ、それはそれとして、「せっかく呪文のほとんどの意味が分かる訳だし、再現してみたい!」という気持ちは否定できません。
そこで、まず、【①解釈編】で歌詞を解釈し、【②構成編】で実際の構成を考え、【③実践編】で最終的に作っていこうと思います。

既存の解釈記事と重なる部分も多いと思いますが、経験則上こういった記事は何本あっても良いので解釈から始めます。何卒お付き合いください。

まずは用語から


まず、ラブ・ボナペティートの歌詞を解釈する上で引くべきはフランス語の辞書ではありません。なぜなら、ここに書かれているフランス語は製菓用語として日本で流通しているものがほとんどと思われるからです。
また、海外系ジャンルあるある「外国語を日本語のカタカナで表記する以上の表記ブレ」が発生します。(どぼすの名前の由来であるドボストルテもウィーン菓子狂故のドイツ語読みで、ハンガリー語由来のドボシュトルタと呼ばれることもあります)

こんな時に役立つのが、吉田菊次郎さんが出された最高傑作、洋菓子百科事典と、吉田菊次郎さんに千石玲子さん、千石禎子さんが加わった仏英独=和[新]洋菓子辞典です。(これらの本の素晴らしさについてどぼすは永遠に話せますが、ラブ・ボナペティートの話からは脱線してしまうので割愛します)

これらの参考文献を駆使すると、以下のようなことがわかります。↓
(※歌詞の意味からして1番の菓子と2番の菓子は別の品であることが想定されますので、パート毎に区切って話していきます)
(また、読みやすいよう、正確なフランス語表記等は記事の本文中に沢山は書きません。最後にまとめて掲載します)

Aメロ部分

・ウフ→ 卵
・シュクル→ 砂糖
・ファリーヌ→ 小麦粉
・ブール→ 要解釈(後述)
・ミエル→ 蜂蜜
・エピス→ スパイス
・ドレッセ→ 要解釈(後述)



[ブール]
歌詞掲載サイト毎にプールだったりブールだったりして混乱したのですが、フォロワーさんに物理歌詞カードを見せてもらったところブール表記だったため、ここではブールを採用します(プールだったとしても表記揺れの範囲だとは思います)。

まず、このワードから、日本語においてカタカナでブールと書かれることの多い①boule(円形のフランスパン)と②beurre(バター)が候補として浮かんできます。
しかし、ウフ(卵)を割り、シュクル(砂糖)を溶かし(歌の中で明確に溶かしていることから共立て法の基本である卵と砂糖の湯煎に思い至ります)、ファリーヌ(小麦粉)を舞わせているとなると、これらの材料から作るもので考えられる最有力候補はスポンジケーキです。
パンの一種でしかない①bouleよりはバター、つまり②のbeurre と考えるのが自然でしょう。

スポンジの製法が共立て法(卵白と卵黄を区別せず、全卵をまとめて泡立てる製法)であると考えた根拠は、卵を卵黄と卵白に分けず、まとめてウフと呼んでいたためです。
ファリーヌ(小麦粉)をふるって舞わせた後でブール(バター)の話をしていたことから、最初からバターを使うタイプの作り方(シュガーバッター法、フラワーバッター法等。パウンドケーキ生地によく用いられる)ではなく、最後に溶かしバターを加えるタイプの製法でしょう。
つまりここで香っているブールは普通のブールではなく、ブール・フォンデュ、溶かしバターである可能性が高いです。

卵+砂糖→小麦粉→溶かしバター、といった製法は、辻調理専門学校のスポンジケーキの作り方として掲載されているぐらいには基本的な製法です。
ラブ・ボナペティートの元ネタっぽいスポンジケーキを作りたい方は、まずはこちらから入るのが良いでしょう。

[ドレッセ](dresser)
①組み立てる、②盛り付ける、③絞り出すといった意味合いがあります。建築にも使うみたいですね。
洋菓子用語としてのドレッセは③絞り出すの意味合いが一般的ですが、今回の場合は、扱うのがスパイスですから、②盛り付ける、という意味を採用するのが良いでしょう。
歌詞の順番を遵守するのであれば、皿の上に飾るのが良いのではないかと思います。蜂蜜の中で踊るようなサイズ感のスパイスを、共立てのスポンジ生地に飾るのは難しいでしょう。(パウンドケーキの飾りならあり得ますが)

サビ部分

・ポッシュ→ 絞り袋
・クレーム→ クリーム
・グラセ→ 糖衣をかけること

[クレーム]
我々は普段何気なく食していますが、クリームには様々な種類があります。クレームの一言では確定させることができません。
ポッシュ(絞ること)のできるクレームだけ並べるとしても、クレーム・オ・ブール(バタークリーム)なのか、クレーム・シャンティ(加糖生クリーム)なのか、クレーム・ディプロマット(加糖生クリーム+カスタードクリーム)なのか………。
クレームとしか書かれていない以上、クレームの種類を解釈で絞ることは不可能に近いので、私の制作における事情とも照らし合わせながら【②構成編】で確定させます。

[グラセ]
グラセは動詞であるため、ここでは一連の歌詞を「糖衣をかけて仕上げ」と解釈します。
しかし、糖衣といっても幅広いものがあります。その中でも、ケーキの仕上げに使う、しかも「つやつやの」グラセと言えば、真っ先に頭に浮かぶのはグラサージュ・ショコラ、もしくはナパージュ(いちごのケーキの上のジェル状の部分と言うと伝わるでしょうか?)です。ナパージュもグラサージュとして売られることがあるため、ナパージュを指してグラセと言っている可能性がありますね。近年はカラフルなグラサージュも珍しくありませんので、ここは工夫のしがいがありそうです。
糖衣といえばアイシングも思い浮かびますが、アイシングの場合はそこまで「つやつや」でもないため、グラサージュ・ショコラ等の方がより適切かと思われます。

Bメロ部分

・ノワ→クルミ、ナッツ
・シェール→果肉(後述)
・アンフュゼ モア→要解釈(後述)(最難関)
・ショコラ→チョコレート
・フロマージュ→チーズ
・ルッシュ→おたま、レードル
・ヴェセル→器、食器

[シェール]
こちらも少し悩みましたが、洋菓子用語、かつガトーに「並べる」もの、と考えれば、果肉(chair)が1番妥当でしょう。
chairには肉という意味もあるため、皮に対しての果肉として捉えるのが良いでしょう。つまり、ピールではない、果肉部分を使った方がより歌詞の意味に合うと思われます。

苦戦パート

[アンフュゼ モア]
ここが1番苦戦しました。周囲の菓子オタ達とも知恵を出し合ったのですが、この部分だけどうしても曖昧なままでした。
「アンフュゼ」はともかく、「モア」がどうしても分からないのです。

「アンフュゼ」自体も煮出す、煎じる、注ぐといった複数の意味があって曖昧な言葉です。何をアンフュゼするかが分からないとどうにもなりません。

挫折しそうな私と記事を求めるツナ缶

苦戦した私は、約3週間ほどかけて無理矢理以下のような案を絞り出しました。

・moi(フランス語)説→私の香りを移す、等
・more(英語)説→もっと煮出す、等
・ボウモア等の〇〇モア系ウイスキー説

しかしこれらの案はどれも懸念事項があり、自信を持って「これが妥当である」とは言えないものばかりでした。
この部分だけで3週間ほど悩んで渋々消去法で選ぼうとしたその時、この歌に出てくるのに検討していない言語があったことに気付きました。

そうです、歌詞の中に出てくる英語とフランス語にばかり目がいって、

タイトルに使われている、イタリア語の可能性を考慮していなかったのです。

(※フランス語にもBon appétitがありますが、こちらは読みがボナペティなので、イタリア語のBuon appettitoである可能性が高いと判断しました)

ブラックベリー説と
桑の実、クロイチゴの実説に辿り着きました



フランス語がしっくり来ない時点でイタリア語で調べれば良かった…………!

more説とmora説がありますが、moreがイタリア語読みだとモーレといった音になるため、よりモアに近い発音であるmoraがさらに妥当であると思われます。
正直どれも木苺系のつぶつぶした黒っぽいベリーであることに変わりはないような気もします

文末の方に置いたツナ缶製資料を見る限り、イタリア語よりもスペイン語のmora、桑の実が1番発音的に「モア」に近いようです。
いずれにしても、ラテン系言語における桑の実やラズベリー等のつぶつぶしたベリー類はモア的な発音なのでしょう。
ツナ缶から送られてきた以下のような解釈も、モア=桑の実説を補強するのではないでしょうか。

天才の発想

そして、「モア」の意味が(暫定的に)分かったということは、芋づる式に「アンフュゼ」の意味も分かってくるということです。
ベリーであれば、おそらく「煮出す」という意味が妥当でしょう。香りを抽出するという趣旨から考えれば水やクリームで果物を煮るイメージが妥当なのでしょうが、チーズケーキと組み合わせるのであればコンポートの方が合う気がするので、ここではジャムやコンポート説を推します。

こうして、「アンフュゼ モア」や歌詞の表記揺れ、細部のニュアンスに苦しめられながらも、一通りの暫定的な解釈が終わりました。

次の記事ではこの解釈を元に、作るガトー(ケーキ)を具体化させていこうと思います。

→ ②構成編へ続く

[お願い]
どぼすは日本語の菓子本を読んでいるうちに用語に少し詳しくなっただけであって、真面目にフランス語(とイタリア語)を学んでいるわけではありません。
もし真面目に製菓専門用語として勉強されている方がこの記事を読んで、「これはこうだと思う」等ありましたら、是非ともご連絡ください!
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マシュマロ←えすてるという別垢宛ですが、どぼすにも届きます

おまけ 

モアについて話していたところツナ缶がいきなり桑の実と絡めて千雪さんの名前の話を始めたのですが、あまりにも長すぎてカットしました。
お時間のある方はどうぞ。

許可したら思ったより長文が送られてきました
突然の長文に面食らいましたが、ラズベリーやブラックベリー等というよりは「桑」の実を使うことに意味があるらしいということだけは伝わりました。使いましょう。


参考文献

※記事本文中に関わる本のみ
・吉田菊次郎著『洋菓子百科事典』(白水社、2016年)
・千石玲子・千石禎子・吉田菊次郎編『仏英独=和[新]洋菓子辞典』(白水社、2012年)

用語のスペル等一覧

エージェント・ツナ缶が作ってくれました。
ご自分で辞書を引きたい方向け


「モア」一覧

こちらもエージェント・ツナ缶製です。モアの解釈を練りたい方向け

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