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『おかずのクッキング』終了によせて

大好きな番組とテキストでした。いや、大好きというより、食卓の運営におけるインフラのような存在になっているといっていい。この番組のおかげで、我が家の食卓にはいつも新鮮な季節の風が吹き抜けている。

2021年3月に行った結婚式でゲストに配った小冊子に、おかずのクッキングにまつわるエッセイを書きました。番組終了によせて、以下に転載します。

「習慣」
二人で暮らし始めて半年くらい経った頃から、土井善晴監修の料理雑誌『おかずのクッキング』(隔月刊)を定期購読している。現在計10冊が居間の本棚の一角に収まっており、これは余談だけどあと13年買い続けると本棚1段の端から端まで『おかクキ』で埋まる計算になる。意外となかなか埋まらない。
 毎号買っている理由はもちろん日々の献立を決めるためだ。週末の朝、掃除を済ませコーヒーを飲みながら一息ついて『おかクキ』をぱらぱらめくり、気分と冷蔵庫の在庫と多少の栄養バランスを勘案して次の週に作るレシピを3品ピックアップする。我が家は土井善晴さんによる一汁一菜でよいという提案を真正面から受け入れ、さらに2日に1回・2日分作るルーティーンが定着しているので、週に主菜3品でいいのだ。週7日-(3品×各2日分)=1で一週間のうち1日余るが、これはレトルトか冷凍餃子か外食で済ませる「手抜き日」である。これにアドリブ(食材の在庫消化)味噌汁を加えて1週間の献立ができあがる。ちなみに晩御飯は僕と妻で先に取り掛かれる方が作る。
 『おかクキ』は掲載レシピのほとんどが日々の献立に織り込みやすい「おかず」なのがまず良い。かといって時短・簡単に寄りすぎることもなく、ほどほどの手間で家庭料理の楽しさを感じることができる。各レシピには「しっかり焼き色をつけるとそれが旨味になる」「沸騰させずに茹でると固くならない」等、ポイントとなる調理工程に注釈が添えられていて、理屈バカの僕にはありがたい。こうしたらこう美味くなる、というtipsの積み重ねが料理上手への道なのだろう。
 何より気に入っているのは、毎号必ず季節に応じたレシピで構成されているところ。例えば2019年6/7月号のタイトルは『土井式家庭の炒めもの揚げもの』。炒めものなんて季節を問わないのではと思われるかもしれないが、みずみずしい夏野菜はさっと炒めて食べるのがいちばんウマいのだ。旬の野菜を美味しく食べるレシピ、というわけである。続く8/9月号は『夏のちょっと辛いもん』。夏はキリッと辛いものが食べたくなりますからね。こんな風に食材と味覚、二つの視点で旬をプレゼンしてくれる。この2年で、スーパーの野菜コーナーで季節の移り変わりを楽しむのがすっかり習慣になった。
 うまいめしを作って食卓を囲むのがこんなに幸せとはね(でも、一緒に食べてくれる人がいなかったらたぶんこんなに習慣的に作らない。妻もきっとそうだろう)。これから家族が増えたり仕事の環境が変わったりしたら、その度にまた新しい習慣を作り直せばいい。そうやって幸せな食卓を守ってゆくことに決めた。

本棚がテキストでもっともっと埋まっていく予定だったけど……「また新しい習慣を作り直す」タイミングがこんなに早く訪れるとは。

土井善晴さん、お疲れ様でした。

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