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音楽で繋がったキセキ - 奏みみ 1stリアルワンマンライブ『アンダーパスドリーマー』 現地ライブレポート -

2023年4月22日。池袋のharevutaiにて、奏みみの1stリアルワンマンライブ『Underpass Dreamer(アンダーパスドリーマー)』が開催された。
本稿では、活動5年目を迎えた彼女のキャリア初となる現地ライブの様子を振り返っていく。

※こちらは配信サイトSPWNにて、4月29日までアーカイブチケットが購入可能だ。

■笑顔で高まる開演前


電子チケットを提示してロビーに入ると、今回のライブTシャツや過去のグッズなどを身に付けたファン(通称:みみっこ隊)の姿が視界いっぱいに広がる。5年目にして初の現地ということで、ライブへの期待感は元より、ファン同士の交流もそこかしこに見られ、マスク越しではあるが全員の笑顔が印象的だった。

また、ロビーには有志が企画した記念のフラワースタンドが3基も寄贈されていた。中心にはイメージカラーを基調とした元気いっぱいなものが目を引き、左右には今までの新衣装のデザインを模した赤と青の2基が寄り添う形で設置されている。そのどれもが、ファンなら思わず反応してしまうような愛情に溢れた装飾が散りばめられており、開演ギリギリまで撮影の列は途絶えなかった。


めちゃくちゃ良い

会場に入ると、奏みみ本人の声でのナレーションが聞こえてきた。たどたどしくも読み進める声に、それぞれが耳を傾ける。途中で原稿を噛んでしまうが、それが会場全体の緊張をふっと和らげて笑顔にさせた。ここで改めて「あぁ、奏みみのライブが始まるんだな」と実感したところで、ゆっくりと照明が落ちていった。

■今までの全てを込めて


喧騒から離れた都会の夜を思わせるピアノの音と共に、オープニングムービーが流れる。スクリーンにはオリジナル曲の歌詞やアレンジされた一部が、ぽつり、ぽつりと映し出される。

「私は もっと君のそばで歌いたい」
「うまくいかないEveryday」
「後悔も吸い込んで 舞い上がるの」
「刻もう 同じ時とリズムを」
「あなたに届きますように」
「半径1mの精一杯が」
「今いるこの場所から もっともっとたくさんの君へ」
「あの場所に立てたならば」

これらの歌詞は全て、奏みみ自身が生み出したものだ。思いの結晶とも言えるそれらを目にし、会場のボルテージは静かに熱を帯びてゆく。メロディアスな旋律が終わり、ライブのロゴを背負った奏みみのシルエットが大きく映し出される。

拍手で湧く会場

■開幕からフルスロットル


ステージは円形で上部にミラーボールと無数のスポットライトを冠し、背後にはLEDの大型スクリーンが設置されていた。それらをぐるりと取り囲むのは、七色にきらめく星座や夜空の星々を描いた、幻想とスタイリッシュさが融合した背景だ。

開幕は初期の衣装を着た奏みみが放つ、キラーチューンの1つである『ナニサマ?』からスタートした。ハイテンポなイントロをものともせず、全身で踊りながら会場を煽る奏みみ。harevutaiの特設スピーカーから響くサウンドは、全身で浴びる体験型の音楽だ。高低音の入り乱れるラップパートも雰囲気を壊さないまま難なく歌いこなし、今日の本番に向けての自信のほどが見て取れた。

MCが入るかと思いきや、すぐに2曲目の『こと勿れ』が始まった。「スタートからぶち上げていくよ!」という声が聞こえてきそうなセットリストだ。会場からも「そう来たか」「乗った!」という思いを乗せたコールアンドレスポンスが飛び交う。今回はマスク着用の上で発声可能なライブということもあり、至る所から男女関係なく声援が聞こえてきた。力強く「これが私」と歌い上げる姿に、歓声は更に増していく。

間髪入れずに『MiMi the Super Cat』のイントロが鳴り響く。影山ヒロノブ・渡部チェルの両氏がタッグを組んだこの曲は、日曜朝のアニメに起用されそうなノリノリの曲調で、リリース当初からリアルライブでの登場を切望されていた。「そうだよ あの夢のステージまで 君と一緒にTAKE OFF!」そう歌いながら笑顔で客席の一人一人を指差す奏みみは、間違いなく今日の主役だった。

■奏MiMi、harevutaiに立つ


曲の途中で往年のファンには嬉しいサプライズが起こる。なんと間奏中に奏みみが光に包まれ、子猫の姿に戻ったのだ。もともと奏みみは2018年に小猫の姿(奏MiMi)でデビューをしていた。ちんまり可愛らしい姿で一定の支持を得るも、合同ライブイベントでは、せっかくのダンスパフォーマンスも十全には発揮できないでいた。そんな悩ましい中「長い手足でパフォーマンスをしたい」という決意から、2020年に人型(奏みみ)へと変身した経緯がある。その際のテーマソングとして歌われたのが、他ならぬ『MiMi the Super Cat』だ。

人型に変身した奏みみは持ち前の歌唱力に更に磨きを加え、幼い頃から励んできたダンスパフォーマンスで様々な音楽イベントに呼ばれるようになった。YouTube Shortsでも人気を博し、少しずつファンの輪を広げながら、本日のライブという晴れ舞台を迎えている。
『MiMi the Super Cat』の歌詞には、短い手足のためライブハウスで門前払いを受ける子猫の姿が描かれている。それが今、大観衆の前で堂々と歌って踊っている。奏みみのこれまでを見てきたファンにとっては、願って止まなかった胸に迫る演出だ。事実、何人ものファンが涙を流しながらも、笑顔でサイリウムを振る姿がそこにあった。


大歓声に包まれて曲が終わり、ここで初めてMCが入った。子猫のままの奏みみは元気な声で挨拶をし、この姿でステージに立てることに「胸がいっぱいです」と語る。続けて、ゆっくりではあるけれど、自分で決心した道を、自分らしく進んで来られたことを少し照れくさそうに、だけど誇らしげに話した。

「私だけじゃなく、みんなも自分の色で進めますように」
MCをそう締めると、『君色』の優しいピアノのイントロが流れる。『奏みみ』として踏み出した始まりの曲であり、『奏MiMi』としばしのお別れを意味していたこの一曲。今回のライブで歌うことにより、「恐れないで踏み出そう。大丈夫、大丈夫だから」と、先の見えないまま飛び出し、それでも歌い続けることを選んだかつての奏MiMi自身を、優しく抱きしめるアンサーソングのようにも聴こえてくる。会場は、思い思いのサイリウムが七色に揺らめいていた。


温かい拍手に包まれた会場は、そのままスローテンポのバラード『sugao』へと移る。スポットライトも細やかに光量が調節され、曲の持つ世界観への没入を手助けする。「どんな表情でも、それが私だから」と、『君色』とはまた異なる視点で、ありのままの自分を受け容れる姿をメロディーに乗せてゆく。曲の後半で、奏みみは子猫から人型に戻った。どのような姿になっても、大切なものや、心の在り方は変わらない。そんなメッセージを受け取ったような、一連のステージだった。


■ダンス!ダンス!ダンス!


人型に戻った奏みみはMCで「今日の一瞬一瞬を、心に刻みこみます」と噛み締めるように話したところで、わざとらしく肩をぐるぐる回しながら「そろそろ踊りたくなってきたなぁ~!」と宣言。そこからはアメリカンポップなダンスナンバー『SING-ALONG』の出番だ。今回はライブ限定仕様のようで、2番を飛ばして間奏へと突入する。軽快なサックスに合わせて踊る奏みみを、大きなミラーボールがゴージャスに照らしている。

アウトロの途中から流れるような繋ぎで『I LOVE ME!!』が始まる。弾けるアップテンポなメロディーは、奏みみの華麗なステップとハンドクラップや歓声と相まって、スポーツ観戦ハーフタイムのチアリーディングショーのような盛り上がりを見せる。 真っ直ぐで可愛くポジティブなこの曲は、いつだって自分自身と戦う女の子の味方だ。

明るい曲調から一変、クールダウン系のBGMと共に奏みみのオリジナルダンスパートが挟まる。しばしそのパフォーマンスに目を奪われていると、大型スピーカーからフロアが震えるほどの重低音が放たれる。危険な香り漂うクラブのEDM『Wannna Know Me??』のイントロだ。男女の大人な駆け引きを歌うこの曲は、奏みみの格好良さとセクシーさが存分に発揮されている。指先まで神経の通った緩急あるダンスと甘く囁きかける歌声が、会場全体を妖しく包み込む。
曲の終わり際、奏みみが光に包まれた。そこから出てきた彼女は、ドレス衣装に身を包んでいた。熱狂と拍手の渦の中で、奏みみのスペシャルダンスステージが幕を閉じた。


■渾身のカバーソング


自身の作詞した楽曲でメドレーをしてみたかった。そうMCで話す奏みみの口調は、目標をひとつ叶えられた達成感で溢れていた。こういう特別な場面に立ち会い、想いを共有することも、ライブに参加する醍醐味なのだと感じる。

一呼吸ついた奏みみは、クラウドファンディングで仕立てたタイトなドレス衣装に手を当てながら、これまでの歩みが交わる今日のステージを改めて噛み締めているようだった。
そうして、自身が作詞した曲たちに思いを馳せていく。「みみの歌が生活の一部になっていたり、誰かを元気づけたり、誰かの癒しになったりしていたら嬉しいです」。そう話す彼女には、もう一つやってみたいことがあるそうで、目の前にスタンドマイクが登場した。

スタンドマイクを前にドレス姿でスポットライトを浴びる奏みみ。会場はライブハウスから一転、コンサートホールやジャズバーのような様相を呈していた。歌う曲はカバー曲から『シャルル』のジャズピアノバージョンだ。自身初のボカロ楽曲カバーで、数々のイベントやコラボで披露してきた大切な一曲。活動初期から長く寄り添ってきた思い出の曲を、奏みみは晴れ舞台にて、最高のパフォーマンスで誇らしげに歌い上げた。

続けて歌うのはMISIAの代表曲『Everything』。幼い頃に歌いこなせず悔し涙を流し、その度に何度も挑戦し続けた一曲。歌うことが幸せだった少女を、シンガーの世界へと導いてくれた存在だ。奏みみの節目に披露されることが多く、その度に表現や歌唱力の成長に驚かされていたが、その中でも今回は格別も格別だった。絹糸のように繊細なピアニッシモと、どこまでも広がる豊かで力強い歌声。それらが全身を使って一音一音、情感たっぷりにマイクを通じて伝わってくる。間違いなく、奏みみ史上で最高の『Everything』だった。拍手喝采の会場は、雪を思わせる白色のサイリウムがいつまでも揺れていた。


■筋書きを決めるのは


深々とお辞儀を終えた奏みみが、感無量といった面持ちでカバー2曲への想いと、それらをこうしてファンを前にして歌えたことの喜びを語る。彼女は続けて、今日のような特別な日があると同時に、そうじゃない日もいっぱいあるよねと、会場に向かって投げかける。上手くいかない日々、伝わらない痛み、理解されない願い。それでも、私の人生の主人公は、他の誰でもない私自身。誰かの脚本ではなく、筋書きは私自身が決めていい。あなただって、そうなんだよ。

そんな想いを込めた『ドラマチックじゃなきゃいけませんか?』の歌い出し。様々な感情が溢れそうになった、奏みみの歌声が少し震えていることに気が付く。イントロの途中、そっと右手で頬をなぞる仕草が見えた。
アーティストとしての矜恃なのだろう。彼女は歌うことを決して止めはしない。
思い通りにならない喉を、1小節ごとに、少しずつ立て直していく。この歌を何度も心に刻んできた会場は、歌いながら必死にもがく奏みみの姿を、ありのまま受け入れる。長めの間奏が終わり、いよいよ落ちサビが迫る。スポットライトは消え、逆光でシルエット姿となった奏みみの声に、全員が自然と集中する。
そこには、アーティスト奏みみの姿があった。声の震えはとっくに止み、十分に開いた喉からは、紡いだ言葉が音楽となって流れる。

このドラマの主人公は私だ
私が 筋書きを決めるの

リアルライブこそ初開催だが、奏みみはこれまで数多くのオンラインライブを開催してきた。その度に大小さまざまなトラブルがあり、その度に足掻いて、乗り越えてきた経験がある。沢山の格好つかない過去が、今この一瞬を眩いばかりに輝かせていた。

■さあ、その向こうへ


最後のポーズまで完璧に決めた奏みみを、巨大な光の柱が包み込む。今度はアイドルさながらの赤いドレス姿での登場だ。すかさずライブ表題曲『アンダーパスドリーマー』が始まる。完全復活した彼女は拳を高く掲げ、会場の外まで聞こえるほどの大声で「いくぞー!」と叫ぶと、呼応するようにステージから火柱が上がった。会場も次々と、赤いサイリウムで埋め尽くされてゆく。途中の歌詞で「赤信号を青に」とあるが、そこで青いサイリウムがちらほら上がった。それぞれが思い思いの形でライブ空間を盛り上げようとしている。「定番」や「お約束」の無い、最初のライブならではの風景だ。赤と青、二つの炎を宿して奏みみは歌う。

「さあ、その向こうへ」


そのまま背後のLEDスクリーン以外の照明が消え、奏みみのシルエットが浮かび上がる。MCは挟まず次の曲が始まるようだ。イントロが流れた瞬間、隣の人と顔を見合わせる。初めて聴くメロディだった。先ほどカバー曲は終わったと言っていたので残る可能性は一つ。瞬間でのアイコンタクトで答え合わせを終えて前を向くと同時に、奏みみが歌い出す。初披露の新曲『Crazy Crew (クレイジークルー)』のお披露目だ。「弱虫な私だけど、キミと一緒ならどこまでだって行けるよ」。そんなメッセージが込められた、爽やかでアップテンポな、思わず顔を上げて笑顔になってしまう楽曲だった。

曲が終わると大きな拍手と歓声が会場を包む。ここでMCとなり、奏みみが「みんなと約束していた、新曲を歌わせていただきましたー!いえーい!」と叫ぶと、会場からも割れんばかりの喝采が飛び交う。

タイトルは奏みみの運営チーム「KANADE CREW」の名前の一部から取ったそうだ。ただし、サポートチームだけに向けた歌ではないことを、奏みみは客席に居る一人一人の目を見ながら、心を込めて伝える。「みみっこ隊のみんなと、今はこうやって向かい合ってライブをしているけどさ、いつもの活動って本当にみみの横にみんなが居て、手を繋いで一緒に歩んでくれているような、そんなファンのみんなで。だから、みんなもひっくるめてKANADE CREWだから!そんな、みんなのことを書いた曲になります!」
優しく、大きな拍手が会場を包む。みんな笑顔だった。

そして神妙な雰囲気で「実は……次の曲が最後になります」という宣告を受けた会場から「えええええええ!!」「いま来たばっかーーー!!」という声が上がると、奏みみは腕をぶんぶん振りながら「やったー!生で聞けたー!」と嬉しそうに笑う。そんな姿を見ると、こちらまで胸が温かくなってしまうものだ。喜びを噛み締めながら、奏みみはかつての自分を振り返る。

周囲の人が次々と華々しいステージに立つ影で、引き立て役となっている自分自身。「この気持ちとどう向き合って、どう変わっていけばいいのか、すごく、すごく、考えました。」その先に辿り着いた答えは、現実から目を背けたり、無いものねだりをすることではなかった。「たとえ脇役でも、それでも、貰った役割を、頂いた人生を、まずは精一杯やってみようって思いました。」それを彼女は、自身の言葉で「半径1mの精一杯」と言い直し、「これが出来る人はかっこいいんだ!」そう力強く語りかける。「みんな、大きく手を振って!一緒に歌おう!」そう呼びかけると、ライブの最後を締めくくる『バイプレイヤー・スター』のイントロが流れる。

迷って 焦って 滑って 転んで
空回っても
ダサいなんてことは ないんだ
だって こんなもんじゃない

もがいて あがいて 探し回って
やっと 見つけたんだ
授かった役を 磨くしかない
それしかないんだって
半径1mの精一杯から はじめよう

自身を磨き続けて生まれた、自分だけの輝きを放ってステージに立つ奏みみ。円形のステージで歌って踊る姿は、沢山のスポットライトとサイリウムに囲まれ、とてもキラキラしていた。

■まさかのサプライズ


全力で歌いきった奏みみが笑顔で手を振りステージが暗転する。大きな拍手と歓声は、次第にアンコールを求める声へと変わっていく。しばらくの後、シルエット姿の奏みみがステージに映し出された。『ごろごろ -GROW GROW-』の歌い出しでライトアップされた彼女は、ライブTシャツを着たパンツスタイルの新衣装での登場だった。会場から驚きと感動の声が上がると、少し後に笑いが起こった。振り向いた奏みみは、バカンスに来たハリウッド女優のような、丸い大きなサングラスを掛けていたのだ。めちゃくちゃ浮かれているように見えて、思わず私も笑ってしまった。

YouTubeで事前に紹介された振り付けをしながら、ゆったりとした雰囲気で曲が進む。今日このライブ会場に来ている人の多くは、アーティストとして歌と真摯に向き合い、自身の物語を一歩ずつ進む奏みみを応援しているはずだ。その一方で、超がつくほどのインドア派で、夜更かし三昧の寝ぼすけで、暇さえあればテレビにかじりついてる奏みみの生き方に共感したり、日々の癒しを受け取っている者も多い。『ごろごろ -GROW GROW-』は、奏みみの後者の姿を歌ったものだ。テーマやメッセージ性を大切に組んだであろう本日のセットリストの中で、ある意味では浮いてしまうかもしれないこの曲。これをアンコール1曲目に、サプライズ付きの新衣装とともに繰り出してきたライブ制作陣の発想に、心の中で大きな拍手を送った。

■あの場所に、立てたならば


歌い終えた奏みみはMCになると、はしゃいだ様子で新衣装のオススメポイントなどをポーズ付きで紹介していく。サングラスを取ると、会場からは改めて「かっこいいー!」「かわいいー!」との声が何度も上がっていた。

「この新衣装を着られたのも、本当にみんなのおかげです」。ファンと同じライブTシャツを着ている奏みみは、とても嬉しそうだった。今回のワンマンライブは、クラウドファンディングで集まった金額を元に開催されたものだ。そしてこの新衣装は、目標金額を100%達成した際の最終ゴールとして、新曲とともに掲げられたトロフィーのような、特別な意味を持つものだった。それを身にまといながら、「まだ終わりたくないなぁ」と、迫る時間を惜しむ。

今回のライブは、目標金額が未達成の場合でも、不足分は奏みみや運営チームの先々の活動費から捻出して、納得いくクオリティを維持するつもりだったそうだ。(「同情のような気持ちで参加はして欲しくない」との思いから、このことはクラウドファンディングの最終盤に、静かに語られていた。)

「この活動を始めてから、少しずつお友達が増えて、仲間が増えて、応援してくれる方々が増えて。一歩ずつ階段を登っていって、段々と景色が広がって、明るくなっていくのを、みみは体験しました。今も、ずっとそうです」そう話す奏みみは、めいっぱい両手を広げて「みんなのおかげです」と最後に添える。

そうして次に歌う曲『CATSTREET』の紹介に移る。
「この曲が無ければ、ここに立てていないなって思います」

『CATSTREET』は奏みみが初めて作ったオリジナル曲だ。子猫時代の活動初期、コンポーザーやスタジオ環境なども一切無い中、会議室の片隅で録音した声をフリートラックに乗せ、全くの手探りでミックス作業を行った。それまではカバー曲をYouTubeに上げていたが、今後ライブイベント等に参加するならばオリジナル曲は必須だ。そして何より、自身の歌と音楽を、もっと多くの人に知ってもらいたい。いつになるかは予想もつかないが、その先に待つ、大きなステージのために。そんな願いが、歌詞の『あの場所に立てたならば』や『あなたに届きますように』等に、切実なまでに詰まっている。

そんな始まりの1曲のイントロが、メロディアスなピアノのアレンジで始まる。たった一人で生み出した曲が、プロの音響と照明、舞台演出に支えられて、harevutaiのステージに刻み込まれる。熟練のカメラワークは現地の熱気そのままに、世界中の視聴者へと送り出される。涙でぼやける視界の先で、無数のサイリウムがフロアに揺れる。『声上げな 手上げな』の歌詞に観客が応える。ずっとずっと夢見ていた景色が、そこにあった。



曲が終わり、一呼吸。感無量といった様子の奏みみが、「まだ夢の中にいるみたい」と呟く。初めての感情に、ゆっくりと、一つ一つ言葉を探しながら話していく。ここまで応援してくれたファンへの感謝を述べると、次は視線を遠くに投げ、後方のスタッフ陣に向き直った。
「5年目にして、初めての有観客ライブ。本当に当たり前のことじゃなくて、沢山のスタッフの皆さんに支えられて、助けて頂きました。いつも、あーだこーだ考えながら、話し合いながら活動している……KANADE CREWの……みんな」
途中で奏みみの声が詰まる。堪えきれない幾つもの感情が、涙となって頬を伝う。それでも大切なことを言葉にするため、ライブ制作陣、harevutaiスタッフ、オンラインでの視聴者、そして目の前に居る現地のファンそれぞれに呼びかけて、「本当に、みんなのおかげで、ここに立っています。ありがとうございます!」と深々と勢いよくお辞儀をした。大きな祝福の拍手が、会場を包み込む。

顔を上げた奏みみはまだ少し鼻をすすりながら「でね、こんなに泣いてて『この子、ここで集大成なんですか?』みたいに思われちゃうかもしれないんですけど、そうじゃないからね?」と、おどけて笑う。そう、これで終わりではない。「全然、終わりなんかじゃない」これは、始まりなんだ。
胸元に当てた手をぎゅっと握り、高らかにそう宣言する奏みみ。すでに涙は引っ込み、真っ直ぐな瞳には熱い輝きが宿っていた。「まだまだ素敵な景色を見ていきたいし、みんなを色んな所に連れて行きたい!」
みんなと一緒なら、どこまでだって行ける。『Crazy Crew』で奏みみはそう歌った。私たちだってそうだ。奏みみと、彼女の音楽があれば、何があっても大丈夫だ。会場がひとつになる。それを確かめ合うように、奏みみは続ける。
「どこにいても、どんな状況でも、みみとあなたは、音楽で繋がっています」

万感の思いを込めた1stワンマンライブ。大きく息を吸う奏みみ。
MCを締めくくる最後の言葉は、とても彼女らしい一言だった。

「一緒に、音を奏でよう!」

ここだよ 世界のどこにいても
音で繋がってる
刻もう 同じ時とリズムを
君と交わす Hello

ライブの最後を飾るのは、『Hello-Hello』だ。
今までもこれからも、ずっと変わらず、音楽はそこにある。イヤホンをすれば、いつだって奏みみに会える。ライブがあれば待ち合わせをして、隣の人と手を叩き、肩を組んで一緒に歌を歌う。音楽があれば、私たちは、いつでもどこでも繋がっていける。

歓喜も絶望も メロディに乗せれば
歌になる だから声を合わせて
上手くなくていい不器用でもいい
一緒にほら 奏でよう今 さあ

観客の大合唱とハンドクラップが、奏みみの歌と重なり曲が終わる。
エンディングが流れる中、大きく声を上げる奏みみ。「こんなに幸せな時間を一緒に過ごすことができて、本当に嬉しいです!もっと声を聴かせてー!」その声に、誰も彼もが応えていく。

「みみを見つけてくれて、みみを応援してくれて、ここまで一緒に歩んでくれて、本当にありがとう。これからもまだまだ、素敵な時間を一緒に過ごしたいです!本当に本当にありがとうございました、奏みみでしたー!」
ぶんぶんと大きく手を振りながら飛び跳ねる奏みみ。会場からは止まない拍手と奏みみの名前を呼ぶ声。大団円の幕引きとなった。

■私だけの、キャットストリート


ステージが暗転し、『CATSTREET』のBGMに乗せてエンドロールが流れる。今回のクラウドファンディングに参加したファンの名前が紹介された。その後「特報」の字幕の後、5月1日に新アルバムリリースの告知がされると、会場は再び大きな拍手と歓声に包まれた。

会場に照明が戻り、係員からのライブ終了のアナウンスが行われる。その後、会場スタッフの計らいにより全員での記念写真を撮影し、奏みみの1stワンマンライブ『アンダーパスドリーマー』は幕を閉じた。

終演後は会場の各所でライブの熱冷めやらぬファン達が感想を言い合ったり、椅子に座ったまま余韻に浸っていたりしていた。私は後方のPA席のスタッフ陣に大きくお辞儀をし、ロビーへと出る。そこでも同じようにファン同士が語り合い、改めて記念撮影をしたり、現場で意気投合した者同士で二次会へと向かう姿があった。誰もが皆、晴れ晴れとした笑顔だった。

不思議な気持ちだった。奏みみの音楽がなければ、きっと出会っていなかったであろう人達。子猫時代にコツコツとカバー動画を出し続けた日々、誰もいない会議室で1人録音をしたあの日、震えながら初めての生放送を行ったあの日、歌うことを諦めず独立を決心したあの日。もしかしたら、沢山の寄り道や、回り道をしたのかもしれない。それでも、行き当たった先々で、奏みみを見つけてくれた人が居たはずだ。横道にそれ、迷いながら歩く中で、そっと手を差し伸べ、見守っていこうと心に決めた人が居たはずだ。

無駄なことなんて、一つもなかった。
目標に向かって最速で駆けて行く人の道は、真っ直ぐで美しい。それでも私は、奏みみの歩んできた道が好きだ。いつか来た道を振り返った時、そこにはきっと、誰の目にも止まるような、大きな道が出来ている。世界中の人が行き交う、オシャレと孤独と、沢山の音楽に溢れた大通り。人はそれを「キャットストリート」と呼ぶだろう。

■ライブを終えて


今回のライブは、アーティストとしての奏みみを存分に味わえるものだった。長い間奏みみを応援してきたファンは、彼女の物語の一つの区切りとして見ることも出来たし、そこまで深く知らなくとも、歌とダンスで夢中にさせられるクオリティが十二分にあった。技術的なトラブルも全く無く、これまでオンラインライブで培ってきたノウハウを、ライブの制作陣としっかり共有できていたのではないかと思う。

新曲の『Crazy Crew』のテーマも非常に良かった。これまでのオリジナル曲は、困難や苦境に立ち向かうものが多くあったが、今作は更にその先までのことを、とてもポジティブに歌っている。MCで奏みみが話した「これは、始まりなんだ」という宣言と見事に合致し、これからの活躍が本当に楽しみだ。5月早々にはアルバムリリース、そして7月にも何か仕込んでいるようで、まだまだ奏みみの活動から目が離せない。次は一体どんな景色を見られるのか、そんな風に胸を踊らせてくれる、素敵な1stワンマンライブだった。

文責:2023.4.26 どぅー

■おまけ

後日、2ndアルバム『アンダーパスドリーマー』が無事リリースされました。
『Crazy Crew』を含む新曲3つが収録された大満足な1枚となっています!

ライブの翌日にダイジェスト版が上がっていたので、ぜひ一度見てみてください。そしてフルのアーカイブを見よう!!!!!!!!!!!!

4月30日の『VtuberFesJapan2023』にも前後編で出演します。見よう!!!


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