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SVB破綻後のベンチャーデット動向ーーSiiibo証券代表 小村和輝

2023年のシリコンバレーバンク破綻は、ベンチャーデットに、そして日本にどのような影響があったのか。そして2024年以降、国内のベンチャーデットに変化や動きはあるのか。

今回は、DNXの投資先から、スタートアップに「社債」という調達手段を提供する Siiibo証券の代表 小村和輝さんとDNXパートナーの髙岡の対談をお届けいたします。ベンチャーデットについて学びたいというみなさん、ぜひご覧ください。

小村 和輝
Siiibo証券株式会社 代表取締役CEO
東京大学大学院工学系研究科修了(鳥海研究室)。 ドイツ証券株式会社にてトレーダーとして国内外の社債、CDS、仕組債等のクレジット商品全般の取り扱いを経験。 その後、ブラックロック・ジャパン株式会社にて、国内の運用会社・公的金融機関に向けたリスク分析及び投資プロセスのアドバイザリー業務に従事した後、株式会社Siiibo(現Siiibo証券株式会社)を設立、代表取締役CEO就任。一般社団法人Fintech協会理事。 「私募債等の商品審査及び販売態勢等のあり方に関するワーキング・グループ」委員を務めた。
https://siiibo.com/business/

髙岡 美緒
DNX Ventures パートナー
生後5ヶ月から大学卒業までアメリカ・イギリスで過ごし、ゴールドマン・サックス証券へ新卒として入社し、モルガン・スタンレー証券(現モルガンスタンレーMUFG証券)、マネックスグループ執行役員新事業企画室長及びマネックスベンチャーズ取締役にて戦略的M&A、新規事業開発、CVC立ち上げ・運営を担当。主な投資実績は、ユーザベース (2016年上場)、マネーフォワード(2017年上場)、ポケットコンシエルジュ(2019年アメリカンエクスプレスが買収)など。その後、アジア最大のフィンテックVCのArbor Venturesのパートナーに就任及びメディカルノート取締役CFO(ファイナンス、事業開発、管理部門、人事広報部門を管掌)を経て現職。
そのほか、金融革新同友会(FINOVATORS=金融イノベーションのエコシステム形成を願うプロボノ団体 )発起人となり、経済産業省「産業・金融・IT融合に関する研究会」委員、自民党 金融調査会 「フィンテックに関してのヒアリング」 講師、2016年サマーダボス会議を含む様々な国内外のイベントに登壇や審査員を務める
2016年・2017年においてFintech Asia 100 Leaders(アジアを代表するフィンテックリーダー100人)及びフォーブスジャパン「世界で活躍する日本女性55人」の一人に選出される
ケンブリッジ大学自然科学部物理学科卒業。株式会社セプテーニ・ホールディングス、株式会社カヤック、HENNGE株式会社、株式会社電通総研社外取締役。
https://www.dnx.vc/teamjp/mio-takaoka

DNXの運営するインキュベーションオフィスで、小村さんにベンチャーデットの勉強会を開催いただきました。その内容も合わせてご覧ください!



シリコンバレーバンク破綻は
ベンチャーデットにどのような影響を及ぼしたのか

髙岡:まずはじめに、ベンチャーデットのトレンド・変化について伺います。昨年のことになりますが、ベンチャーデット界隈でのビッグニュースといえばアメリカのシリコンバレーバンクの破綻でした。日本ではどの程度影響があったのでしょうか?

小村さん:結論から言うと、国内における影響は大きくありませんでした。そもそもSVBの破綻の原因は、スタートアップ融資の焦げ付きではなくSVBのビジネスモデル自体、または預金の裏側である資産ポートフォリオ構成、モーゲージ関連アセットやレバレッジ等にありました。

髙岡:ベンチャーデットに対するイメージや市場自体への影響はいかがでしたか?

小村さん:国内では、ベンチャーデットと国策との結びつきが強くなっています。その影響からこの1年で特に銀行の新規参入が増えており、パートナーシップをもとにファンド形式で参入する企業や、自行の資金を使って貸出を行ったり専門チームを立ち上げる事例も出てきました。

髙岡:シリコンバレーバンクの破産というのは全く影響なかったということですね。

行政のベンチャーデットへの関心が高まる

髙岡:むしろ日本の外部環境の変化によって、銀行に限らず参入者がすごい増えたような印象もありますね。

小村さん:多様なプレイヤーさんが増えるなか、銀行では長らく言われてきた「事業性評価融資」を推進する文脈で、「事業成長担保権」が議論にあがっています。単発の担保権の話から派生し、事業性評価融資を法的にバックアップするという流れになってきました。銀行以外のプレーヤーもこの恩恵に一定授かる形でもベンチャーデットが賑わってきています。

※事業性評価融資:データや保証・担保にとらわれず、事業の内容や成長可能性な どを適切に評価すること(日本政策金融公庫
※事業成長担保権:無形資産を含めた事業全体に対する担保制度(内閣府)

髙岡:これは政府主導なのでしょうか?

小村さん:そうですね。行政のベンチャーデットに対する関心は非常に高まっていると感じます。今まではベンチャー支援の政策というとエクイティが中心でしたが、今後はデットも対象に入ってくると思います。

髙岡:ありがとうございます。2023年のベンチャーの調達環境は、アメリカでは4分の1程度まで調達額が激減した一方、日本は2023年は8,500億程度、つまり2022年の過去最高と言われている9,664億から10%程度しか減っておらず、まだ活況という印象です。
一方でグロース市場は依然として低迷を続けていて、その影響によりレイターステージの投資家は2021年以降かなり減っている状況と理解しております。そんな中でデットファイナンスはかなり増えて1,855億円、つまりエクイティファイナンスの約25%に相当する規模でした。政府がデットファイナンスにも注目している影響があるものなのでしょうか。

小村さん:スタートアップ育成5カ年計画の大きな柱の一つに「ファイナンス」があり、その影響もあってデットも注目され始めています。日本でエクイティ調達の縮小はあまり見られず、業界構造は健全な方向へ変化しつつあります。エクイティ調達は集中と選択が顕著です。数十億円台後半の大きな資金調達も見られますが、中規模の調達のリリースを見る機会は減っていると感じます。調達に苦戦するレイター企業、一定の事業基盤を持つ企業が銀行のデットで調達するケースもあります。あくまで一般論ですが、デットの投資家は過度な成長をそこまで求めないのに対し、エクイティの投資家は大きな成長を求めます。特にミドルステージの企業は、銀行での調達の選択肢も少なく、数億円規模のエクイティ調達でランウェイを伸ばすなど、一番苦戦している印象ですね。

髙岡:需給ギャップがあるという状況ということですね?

小村さん:一部のアグレッシブな銀行では予算額を絞って、少額貸付を検討する動きもありますが、まだ実績は多くは生まれていない印象です。銀行ではやはりある程度の事業基盤や担保制がないと融資が難しいのではないか、というのが個人的な所感です。

融資の際の審査項目

髙岡:二極化が進む中、デットを検討する企業もたくさんいるかと思います。その際、審査において何を重視されているのでしょうか。

小村さん:デットの出し手が共通して見ているポイントは、長期的に非連続な成長・利益を得る可能性ではなく返済計画の蓋然性です。つまり、エクイティとデットの出し手は、それぞれ異なる成長性を企業に求める関係性にあります。増加しているデットの出し手が、急成長よりも着実な成長を求めることで、現在の過度な急成長前提のベンチャーエコシステムモデルが変わり得るかもしれません。

髙岡:デット調達を考える際に注意した方がいいことはありますか?

小村さん:エクイティと異なりデットは返済が前提となるため、エクイティと同様の認識で借りるのは危険だと思います。次の調達に頼って借りるのではなく、何が返済原資となるのか、着実な返済計画を想定した上で借りることが重要です。また、デットは返済満期が必ずやってきます。借り換えができないケースも想定し、借入先や償還タイミングを分散させる、他の手段も併用するなど、調達手段を多角化しておくと有効です。条件交渉の際にも、他社の条件を引き合いに出した方が進むこともありますし、1行に絞らず複数の金融機関とコミュニケーションを取るのが大事だと思います。

髙岡:エクイティ調達の際は、会社の資本を増やす行為なので自己資本比率を増やす調達ですが、デットが入ってくると債務超過になることもあり得ると思います。何か注意点はありますでしょうか。

小村さん:債務超過に対して、金融機関側からの見られ方・考え方は厳しいというのが現状です。債権者からすると資産価値がマイナスで、元本が毀損し易い状態は非常に貸しにくい。大手金融機関のベンチャーデットを検討する場合は債務超過は避けた方が無難です。最近はシンプルなコべナンツも見られますが、管理コストがかかる条件が付いている場合もあるので、検討が必要です。

髙岡:その辺どれくらい交渉できるものなのでしょうか?

小村さん:交渉できる可能性もあると思いますが、金融機関は銀行ごとにスタンスが異なるので、個別に確認をした方が良いと思います。

髙岡:エクイティステークホルダー(いわゆる株主)とデットの出し手はそれぞれ会社の見方が違うというお話がありました。調達を考えている時、事業計画を作る際はどのように考えたらいいのでしょうか?

小村さん:難しいご質問ですね。企業によって、複数の事業計画を準備されるケースと一つでいくケースがありますが、私は共通した事業計画を使って、あらゆるステークホルダーマネジメントで共通言語として適切に用いる方が、一貫性のある管理ができて良いと思います。複数作る場合でも、計画自体を複数用意するのではなく、施策がうまくいかなかった場合(リスクケースシナリオ)とうまくいった場合(ベストケースシナリオ)等シナリオ分けしておく程度がよろしいかと思います。実際に非連続成長を前提とした事業計画を拝見することは多々ありますが、計画の不自然さは伝わるものです。

髙岡:つまりは何か蓋然性がない、例えば「踏む計画」は、御社の中では黄色信号になってしまうということでしょうか?

小村さん:そうですね。その後のシナリオ分岐を拝見したうえで、事業基盤の規模により広告宣伝費を絞ることや、業務委託の比率から人員コストを縮小できるか、その意思決定ができ得る経営陣かどうか等は審査に影響します。

髙岡:実はエクイティの投資家も同じように見ていて、蓋然性のある計画が評価される点は、実はエクイティとデットのステークホルダーに違いはそこまでないのかもしれませんね。

小村さん:事業計画にコミットする意識はどちらにとっても重要だということですね。

ベンチャーデット、条件の変化と傾向

髙岡:ベンチャーデットの条件の変化について最近の傾向をお伺いしたいです。

小村さん:出し手が増えて競争環境は激しくなっています。特にレイターに近づくほど顕著で、例えばエクイティキッカーをつけない条件なども増えております。

髙岡:ストックオプションの話ですよね?

小村さん:そうです。元々の相場観では0から3割程でしたが、銀行系のプレイヤーでもその割合は減っており、0から一桁パーセントという事例も出てきております。一方、年限はやや短くなっていて、短期の方が出しやすいというプレイヤーさんが多い印象です。

髙岡:イメージとしては何年くらいでしょうか?

小村さん:よく見るのは1年ですね。少し専門的になりますが、年限は同程度の1年半や2年で、アモチゼーション(償還時に一括返済するのではなく期間按分して元本返済を行う)の割合が多くなっています。

髙岡:貸し手増に伴い供給が増え、金利への影響はあったりするのでしょうか?

小村さん:銀行が活況なレイター市場では、個人の投資家をつなぐ弊社のような直接金融のベンチャーデット業者はあまり競合しておりません。3%台〜5%を切るような金利水準も見られますが、相場観は変わってないように感じます。年利5〜12%のレンジで決まっていることが多く、短期ほど金利が高くなる傾向があります。

Siiibo証券の活用事例と優位性

髙岡:Siiibo証券では最近どのような事例が生まれていますか。

小村さん:この1年の間はベンチャーデットが頻繁に取り上げられ、おかげさまで弊社にもお問い合わせをいただく機会が増えました。一般的な社債投資のリスクの一つに流動性リスクが挙げられますがその流動性をセカンダリーマーケットによって作れたことは投資家様にとって大きなメリットです。投資家様に中途換金の選択肢を設けることで3年という長めの満期年限を設定でき、ベンチャーデットの中では比較的長期資金としてご利用いただけていると思います。

髙岡:銀行と比較するとSiiibo証券さんにはどういう優位性があるのでしょうか?

小村さん:冒頭でもお話しした通り、社債は直接金融なので出し手の方がリスクを理解・テイクできる投資家である点が大きく異なります。極端に言うと、適切に情報を得た上で貸す人がいればマーケットを作れるということです。ロールオーバーや返済タイミングで借り直したい場合にも、同様に貸し手がいれば借りることができるのです。また、資金の出し手が増えるにつれ随時発行して調達額を増やすことができます。長期の年限で発行することもできますね。

髙岡:よりフレキシブルなのですね。初回審査では、どんな資料の提出が必要になるのですか?

小村さん:月次試算表や財務諸表、事業計画や資金使途の提示と、監査法人による財務DDが必要になります。

髙岡:審査期間に関してはいかがでしょうか?

小村さん:初回の審査や開示資料の整備には少しお時間をいただいております。平均すると2ヶ月程です。2回目以降は審査の手間が大きく軽減され、発行までおおよそ1、2週間程のタイムスパンでご提案している実績もございます。

髙岡:社債市場は、アメリカがとても活発なのに対して、現状の日本の市場はその10分の1ぐらいの規模です。最後に、今後社債市場はどうなっていくと思いますか。

小村さん:日本では社債市場そのものがまだ小さく、その投資家の多くは銀行が主体です。米国では銀行のシェアはそこまで大きくなく、直接金融、つまり投資家からどれだけ資金を集められるかが資金調達力の鍵になって市場が形成されています。日本でも金利目線が少しずつ上がり、金利のある時代に入ってきています。投資家が投資できる円建ての商品が増えてくれば、債券投資に資金流入がなされ直接金融が発展してくるのではないかと、期待も込めて考えております。実際、今弊社が組成している商品にはコアなファンの方も一定いらっしゃるので、今後さらに面白い市場になっていくのではないかと思います。




Siiibo証券

スタートアップの新しい資金調達のかたちを提案するSiiibo証券のサービス、詳しくはぜひWebサイトでご覧ください!

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(文・國分 輝歩(SPROUNDコミュニティマネージャー) / 編集・上野なつみ(DNX Ventures))

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