見出し画像

乗ってはいけないファーストクラス

LH717便。羽田発フランクフルト行き。

ANAとの共同運航と記載されているが、これは大嘘である。
このフライトのオペレーションに ANAはいっさい関与していない。
なぜそう言えるのか。本稿を読めばわかっていただけよう。

搭乗してまもなく、ドリンクのメニューを渡された。
そこにはワインやビールのほかに Japanese Sake とある。
ドイツのエアラインに普通は日本酒などないが、羽田便の特別メニューなのだろう。
ただし、銘柄は書かれていない。そこまで期待してはいけない。

スイスに帰ったら、当分日本酒など飲めない。
日本への旅の終わりに Japanese Sake を飲んでおこうか、となるのは自然な感情であろう。
「Japanese Sakeをください」と CAに言うと、「きらしております」とあっさり言われた。
1A というのは、いの一番にサーブされる座席である。
つまり、そもそも積み込んでいないのか。

仕方がない。白ワインでも飲むか。
リースリング(ドイツ)
シャルドネ(チリ)
ソーヴィニヨン・ブラン(フランス)
の 3択だった。

「シャルドネを」
「少々お待ちください」
CAはいったん奥に引っ込んでから、戻ってきた。
「シャルドネはきらしております」
・・・・・・。
「ではソーヴィニヨン・ブランを」
CAはまた奥に引っ込んで戻ってきた。
「ソーヴィニヨン・ブランはきらしております」

「何ならあるんですか?」
「リースリングのみでございます」
「じゃあそれをください」

この時点で、私は異変に気づくべきだったのだろう。
しかし、「お食事は何になさいますか?」と訊かれたとき、
「Japanese Cuisine」(和食)
と思わず答えてしまった。
日本への旅の終わりに・・・以下ほぼ同文である。

ところで、機内食というやつはどうしてあんなに不味いのだろう。
ビジネスクラスどころかファーストクラスでさえ、機内で提供される食事はセブンイレブンのお弁当に遠く及ばないってどういうことなんだ。

ましてや、ドイツのエアラインがどのような ”和食” もどきを提供してくるか、冷静に考えれば想像できたはずだ。
はたして、それは来てしまった。
この写真からそのヤバさが伝わるだろうか。

ぱっと見、ていねいに作り込まれたように見えてしまうところが恐ろしい。
しかし、よーく見ると、なんとも言えないまがまがしさを醸し出しているのがおわかりになると思う。

箸もつけずに返却するのはさすがに気まずい。
恐る恐るひと口、ふた口食べて、静かに箸を置いた。
息を止めて水を飲んだ。
精一杯控えめに表現すると、気絶するほど不味い。
これだけの食材を使い、おそらくかなり手の込んだ加工を施して、何をどうこねくりまわしたらここまで鬼不味くできるのだろう?
チキンラーメンのが数倍うまいと思う。
きゅうりに塩をふってかじるほうがいい。

メインとデザートはキャンセルさせていただいた。
無論、和食を選んだ私が悪いのである。
「洋食をお持ちしましょうか?」
と言われたが、これ以上返品とキャンセルを繰り返す胆力はなかった。

既製のチョコレートで食事を代用することにして、映画でも観るか。
リモコンを取り出し、画面をスクロールする。
数ばかり多くて、ロクな映画がない。
タダ同然の駄作ばかり集めたとしか思えない。

あきらめかけた頃、ようやく観たい映画を見つけた。
『The Zone of Interest』(邦題:『関心領域』)
noterさんが薦めていた作品だ。これを観よう。

ところが、このドイツ語の映画に字幕がないのである。
ルフトハンザらしい頑固さだ。
それでも観ることにした。
私のドイツ語は 15年ほど前で止まっている。
ただでさえ難解な映画が、土星難解(輪をかけて難解)になった。
映像と音で鑑賞するホラー映画となったわけだが、必要な物資を積み込まず気絶食を乗せて飛んでいるこの機内こそホラーである。

さて、そろそろ言いたいことを言わせてもらおう。
ルフトハンザは堕ちるところまで堕ちたということだ。
「サービス砂漠」と呼ばれるドイツのフラッグキャリアとして、もともとあまり評判のよいエアラインではなかったが、しょっちゅうストライキに突入するエールフランスや差別丸出しの BAよりはマシという理由で、かつてはそれなりに重宝していた。

サービス品質については、CAのガタイと態度が過分にデカいことを除けば、それほど悪くなかったように思う。
しかし今回乗った LH717便のやる気のなさはどうだ。
メニューに載せている飲み物をハナっから用意する気なし。そんなエアラインがありえるだろうか。

私は機内サービスなどなくしてほしい派である。
私の理想のフライトは、機内食も免税品販売もなく、コールドスリープで眠らせてくれて起きたら目的地に着いているというものだ。
なので、お酒もワインも「きらしております」でいっこうにかまわないのだが、それらを積み込んですらいない怠慢には呆れた。そんないい加減な運営でちゃんと飛べるのですか?と不安にもなる。

機内食については、余計なことをするなと言いたい。
CAが機内食を家畜に与える「エサ」程度と認識している話はよく聞く。
その認識は間違っていないし正直な捉え方だと思う。
エサはエサらしく、もっとシンプルでいい。
ナントカのジュレとか、なんちゃらソースを添えてとか、そんなのは要らんから。
和食はやめよ。ルフトには荷が重すぎる。あれでは和食に対する冒涜だ。
どうしても和食を出したいなら、コンビニののり弁でも配ったほうがいい。

ちなみに、ルフト (Luft) とは、Air のドイツ語である。
ハンザ (Hansa) は、中世の商人組合を意味する。
よって、ルフトハンザは「エア商人組合」となる。
ドイツの商人というのをよく知らないが、商人なら商人らしく、よい商品を仕入れてもらいたいものだ。銘酒とか、シャルドネとか、のり弁とか。

そして最後に ANAよ。
軽々しく「共同運航」などと言わないほうがいい。
ルフトと同類だと思われたら ANA も終わるぞよ。
共同運航を謳うなら、調達から機内サービス、機内エンターテインメントまで、少しは面倒をみてやってはくれまいか。