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英語力、日本語力、ビジネス会話力

久しぶりに英語の話などを。

以前にスピーキングのコツについて書いた記事では、英語らしく話すとか、口癖の逆利用、子音を磨くなど、テクニック的なことに焦点を当てました。

今回は、もっと本質的なこと、英語を話すときの頭の使い方にフォーカスします。

英語で考えるか、日本語で考えるか?

英語らしい発音とか、いかにもそれっぽい定型句のことはいったん忘れて、純粋に言葉を話すことについて考えてみましょう。
英語を話すのが上手な人の特徴は、
✅ よどみなく話せる(言葉に詰まったり話の途中で考え込んだりしない)
✅ そのまま文字に起こしてもおかしくない英語
✅ 考えてから話す(ただし、考える時間は短い)

このように書くと、「英語で考える “英語脳” を鍛える」みたいなことを想像されるかもしれませんね。日本の英会話学校などがいかにも言いそうなことです。
私はこれを否定します。
日本人は日本語で考えるべきだと思っています。

私は、バイリンガルではありませんし、帰国子女でもなく、日本語を母語とする普通の日本人です。
英語で考えるより、日本語で考えるほうが得意です。
思考の質・スピードともに、日本語のほうが上です。
どうして英語で考える必要があるでしょうか。

日本語で考え、話すべきことをまずは日本語で整理し、それを英語に変換するほうが上手に話せます。
先に挙げた “英語を話すのが上手な人の特徴” は、このプロセスを基本とします。
娘が通うインターナショナルスクールの先生方は「母語が重要」と強調されます。一つの完成された言語体系をしっかり作ることが、考える力を高める基礎だからです。
母語で考えることは、話す内容の質を高めるだけでなく、よどみなく自信を持って話すことと、シンプルで正しい英語を話すことにもつながります。

この方法の唯一のチャレンジは、日本語を英語に変換する時間をいかに短縮するかにあります。

S + V + O だけで話してみたら?

日本の会社に勤務していた時代、通訳として海外出張に同行させられることもありましてね。
通訳を必要とする社員が海外出張なんかしないでくれとか、通訳が必要ならプロを雇えよとか、そういう話はさておき。
その経験で嫌だったのは、エラい人ほど小難しい日本語を使いたがること。
「そんな中国の故事成語みたいな言い回しを英語にできるかっ!」
って心が叫んでたよね。

そんな日本語を話してるからアンタは英語が話せないんだよ、と思ってた。
外国語が苦手な人というのは、まず日本語が不自由なんじゃないか。
教養があると思われたくて、古典などの名言を引っぱり出したくなる気持ちはわからなくもないけれど、そういう姿勢で生きているかぎり、一生外国語を話せるようにはならないんじゃないかな。
そもそも、シェイクスピアの名言集が脳内データベース化されているようなイギリス人に、日本や中国の名言を披露してもなあ。

ちょっと話がそれました。
英語を話す日本人は、シンプルな日本語を話すことができる人だと思います。
なぜなら、日本語で考え、日本語を素早く英語に変換するためには、できるだけ簡潔でスキニーな日本語を作文する必要があるからです。

英語には基本の 5文型があり、一見複雑そうに見えるどんな英文も 5文型のいずれかに単純化できます。
なかでもよく使われるのは、第 3文型(S + V + O)でしょう。
“主語+動詞+目的語” だけからなる、必要十分かつ無駄のない文です。
日本語もこのレベルにしてみるのです。
例えば、
「市場の状況等を総合的に勘案しながら、早急な解決策を検討すべく適切に議論を重ねてまいる予定であります」
といった、政治家の国会答弁のような文を通訳しろ、と言われたとします。
これを “主語+動詞+目的語” のみで表現しようとしたら、どんな文になるでしょうか。
「私たちは解決策を議論します」
で、ほぼ必要かつ十分ではないでしょうか。
「~勘案しながら」というほとんど無意味な修飾節と「早急な」「適切に」などの形容詞・副詞を削ぎ落とし、「私たちは」という主語を足しただけ。
この日本語を “We discuss solutions” という英語に変換するのにそれほど時間はかからないと思います。

「そんな中学英語でいいの?」
と思われましたか。
最初のステップとしてはこれでいいのです。
和英変換スピードアップとともに “as soon as possible” “in a proper manner” “taking ~ into consideration” などを足していけばいいのです。
つまり、最初から完全な英文を作ろうとするのではなく、最も簡潔な型から入り、少しずつ修飾語句を充実させていく、という段階的アプローチ。

政治家の国会答弁と、“主語+動詞+目的語” のみの奇妙な短文と、どちらが高度な日本語か。それはもちろん前者のほうです。でも、英語を流れるように話す流暢さと瞬発力を身につけるには、奇妙な短文力がものを言うのです。

端的に話す、とはどういうことか?

このように、最もシンプルな和文を作り、それを英文に変換するプロセスに慣れたら、次に習得すべきは端的に話すことです。
一般的に、日本人は端的に話すことが苦手だと思います。
シンプルに話すのと、端的に話すのは、似ているようで異なります。

例えば、プロジェクトの進捗報告会議にて。

A「先週の会議で、契約書のドラフトを先方に送ったとの報告を聞きました。その後、進捗はありましたか?」
B「先方からの受領確認がなかったので月曜日にメールしました。それでも返事がないため、昨日再度リマインドのメールを送りました。本日中に返答がない場合は、明日の会議で対応を協議したいと思います」

Bさんの回答は、シンプルだけど端的でない例です。
Aさんは「進捗はありましたか?」と尋ねているのだから、Bさんの第一声は、まず「あった」or「なかった」の二択に答えるべきなのです。
「あった」場合は、進捗の内容を説明することになります。
しかし、Bさんの回答は「なかった」という主旨ですから、”No update” だけでいいのです。
Aさんにとっては、先方にいつリマインドしたか云々の過程など、どうでもいい情報です。
「なぜ進捗がないのですか?」と Aさんが尋ねたときにだけ釈明すればいい話だし、「明日の会議で~」も「次のアクションは?」と訊かれた場合のみ答えればいいのです。(実際には、Aさんはそんなことに関心がない)

Bさんの回答は、「進捗はありましたか?」の行間を読み、進捗がない言い訳や対策を先回りして説明するものです。
これは、日本の会社では多くの人がやっていることかもしれませんが、日本の外では嫌がられる冗長話です。日本人とはシンプルな問答が成立しない、と感じている人もいます。
Aさんが知りたいのはプロジェクトの進捗であって、Bさんの日々の活動日誌ではないのです。
訊いてもいないことを長々と説明するのは、無駄話でしかありません。
こういった “独り言” の積み重ねが会議を無駄に長くしているのです。

英語の話と関係がないように思われるかもしれませんが。
英語を話す技能と端的に話す技能は、私の中ではつながっています。
どちらもビジネス用会話の基本だからです。必要最小限の情報を明瞭に要点だけ伝えるコミュニケーションスタイル。これは軍人に求められる行動様式と同じものだそうです。

こういうルールは会社と軍隊の中だけにしてもらいたい、とは思いますが。