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大学生の合コン観戦

ゆうです。
あたしの noteを読んでくれてる方はお察しだと思いますが、あたしはモテません。

大学というせまーい世界に棲息していて、交遊範囲も限られてて、ネット上の交流もオクテ。そんな社交性かなーり低め人間なので、モテなくて当然、と自分を納得させてます。

あたしの師匠(社会学教授)はおっしゃいます。
「社会学を志す徒がモテに無関心では困りますね」

あの・・・意味わかんないんですけど。

「上野千鶴子ってモテたんですか?」
わざと横柄に言ってみた。

師匠、苦笑いして、
「知りませんよ。ただ、モテる女性の研究はしたでしょうね」

そんな話をした数日後、師匠が飲み会を企画したんですよ。
ゼミの飲み会はたまにやってるけど、この飲み会はまったく違うものでした。(ひとりを除いて)初対面の女子3人と男子3人の飲み会。

おいおい。これって噂にきく昭和の「合コン」スタイルじゃないの?
女子力マックスのマミも呼ばれたのかよ・・・

おそらく師匠に強制参加させられた男子らは学部生らしく、ハタチそこそこに見えました。
師匠・・・これ罰ゲームかなにかですか?女子と男子両方に対しての。

男性陣の第一印象。
山崎さん(仮名):
色白・端整な顔立ち。無難なセンター分け。育ちよさげ。

富士さん(仮名):
童顔・アイドル顔。さらさら茶髪。明るくて利発そう。

敷島さん(仮名):
塩顔。眠そう。短髪。オシャレ。つかみどころなし。

師匠め。それなりの粒をそろえたね。

でも、女性陣があたしたちでいいのか?
マミは超モテ系だけど、だいぶお姉さんだよ?
あたしなんか端っから戦力外通告だし。
もうひとりの女子はあたしの知らない子だ。
若い。学部の子か。コケシっぽい顔にジミなセミロングの黒髪が乗ってる。

師匠は、最初の数分だけいて、じゃああとは若い人たちで、と言って去っていった。
あんたはお見合い仲人婆さんか?
「若い人たちで」ってのが嫌味に聞こえたの、あたしだけ?

口火を切ったのは、意外にもマミだった。
こういうの興味ない人だけど、お姉さんの余裕からでしょうか。
「〇〇教授になんて言って連れてこられたの?」
とっかかりがうまいね。さすが頭がいい人は会話がスムーズだわ。

「たまには女子学生と飲みなさいって言われました」
富士さんが間髪入れず答えた。知性派同士、マミとは気が合うかもね。

富士さん、うまくかわしたな、と思った。
師匠から何か特命を受けているに決まってるのに。
そういうところに彼の機転を感じる。

しばらくマミのリードで 3人の男子にしゃべらせタイムになった。
ほぼ第一印象どおりのレスポンスだ。
山崎さんは、真面目で無難な受け答え。
富士さんは、会話を盛り上げようとする切り返し。
敷島さんは、ええ、まあ、としか言わない。

あたしが傍聴に徹するのはまあいいとして。
静かにたたずんでいるコケシちゃんのことが気になった。
そのとき。
「法学部ですよね?」
富士さんがコケシちゃんに話を振った。
グッジョブ、富士さん。

「あ。はい」
「僕は経済学部ですけど、民法の講義に出ていましたので」

富士さん。さっそくジャブを入れましたね。
そしたら、山崎さんが
「私も法学部です」
と参戦してきた。
その若さで、自分のことを「私」と称するところが育ちのよさか。

しばらく法学部の単位とか教授の話になる。
あんまり興味を惹かれない話題だけど、山崎さんがマジボケして富士さんがツッコミ入れるパターンができてる。
たった今コンビ組んだばかりのはずなのに、よく連携できるもんだなー。
コケシちゃんは、笑うとドキッとするくらいかわいい。
顔の作りがジミめな女子って、笑ってるだけでガラッと印象が変わるよね。

それにしても、なんで彼らは敬語でしゃべってんのよ。
あたしとマミがいるから自ずとそうなっちゃうのかね。

会話が一瞬途切れたとき、それまで寡黙だった敷島さんが
「マミさんは何の専攻なの?」

うわ、タメ口きた。
こ、こいつ・・・
マミの身分をわかっていないのか?

マミ、まったく動じず
「比較文化論だよ。人類学と言語学の研究もしてる」
「やっぱ院生なんだ」

あたりまえだ。学部にこんな大人っぽいお姉さんおるかい。

「歳いっててゴメンね、ボク」

ぷぷぷ。マミも負けてない。

「いえ。学部でこんなにきれいな人見たことないんで」

なにーっ!
言うじゃないか。
あたし、敷島さんナメてたわ。

でもね・・・
相手が悪すぎるよ。

マミ「敷島さんはいくつ?」
敷島「21」
マミ「私は 28」
ゆう「あたしは」
敷島「知っています。30ですよね」

え。なんで知ってるのよ。
てゆか、なぜあたしには敬語?

「あたしのこと知ってんの?」
「ゆうさんのことは〇〇先生からよく話を聞きます。俺も院に進んで先生の弟子になりたいんっすよね」
 
く、くやしいけど・・・
悪い気がしない。
ただ、マミはやめとけ。
マミはやめてあたしにしとけって意味じゃないけど。

たった 6人の飲み会が二つの会話グループに分かれた。
山崎さんと富士さんにはコケシちゃん争奪戦をやらせておいて。
こっちは、敷島さんとマミとあたしでガッツリ呑むモードに入ってる。

マミがまた推しのジャニタレの話してるよ(笑)
ジャニーズってもうなくなったんじゃないの?
そんな話を敷島さんは楽しそうに聞いている。
引かないんだー。

それからマミが敷島さんをイジリだした。
「敷島さんは年上の女泣かしそうなタイプだよね」
「そうかな。マミさんは全オトコ泣かすタイプっしょ」
「マミはね、泣かす前に全オトコ退場させてんだよ」
「人聞きの悪いことを」
「ゆうさんはある意味、教授を泣かせていますよね」

どういう意味だよ。
で、なんであたしにだけ敬語なんだよ。

マミはジャニオタなだけあって、こういう弟キャラと合うのかも。

昔の合コンもこんな感じだったのかな。
カレシカノジョ探しするもよし。ただその場を楽しむもよし。
今どきの学生や社会人ももっとやればいいのに。

この飲み会の開始時、3人の男子がマミを見ていたことにあたしは気づいていた。
最初に視線を変えたのは富士さんだった。
マミのことを、この人はムリ、と察知してか、コケシちゃんに話しかけた。
そして、すかさず山崎さんが追随した。

敷島さんはコケシちゃんにまったく興味なし、ってふうだった。
きっと彼も、マミがムリめな女であることはわかっているんだろう。
でも、あからさまに上から目線で接してきたマミに怯んでいない。

この 3人の男子の言動を観察していて感じたこと。
基本的に、男は御しやすい女を選ぼうとする。
富士さんと山崎さんは、マミのリードから脱して、若くておとなしいコケシちゃんにそれを求めた。
一方、稀にそうでない男もいる。敷島さんがそれ。年上だろうが高嶺だろうがビビらない。身の程知らずかもしれないけど、打算がない。
女に対して最終的に勝利をつかむのはそんな男なんじゃないか。


この夜はほどほどでお開きにして、マミと駅に向かって歩きました。

「意外と楽しかったね、マミ」
「これヤラセだろ?あの恋愛バカ教授の」
「だろうね」
「まんまと研究対象にされたか」
「敷島さん、どう思った?」
「あいつはモテるな」
「へぇ。マミが認めるなんてめずらしいじゃん」
「あいつさ、ゆうちゃんに興味があるんだよ」
「はあ?マミでしょ」
「わかってないなー」
「マミのほうばっか見てたじゃん」
「一番気になる人のことは見ないんだよ」
「・・・? どして?」
「男ゴゴロ。お師匠さんにきいてみなよ(笑)」

マミのやつ。
あたしをからかってるんでしょ。
いや仮によ。仮に、マミの言うとおりだったとしても、あたしはあんなチャラ男に興味ないの。
そもそも!
あたしは、男性本位で発展してきた社会学に異を唱えたいんです。
だから、師匠の教えを鵜呑みにする気もありません。
上野先生ほどとんがってはいないけれど、男性だけからなる社会における交換物やトロフィーや成功者の象徴として “女” を位置づける風習を葬りたい。

マミは、文化人類学や比較文化論を勉強しながら、女である自分の存在意義について悩みぬいた結果、美容の追求やジャニーズの推し活に行き着いた。
あたしとは真逆っぽい生き方してるように見えるけど、マミは同志です。
男たちが求めるものとは関係なく、自分がそうしたいからそうする、という生き方が同じなんだと思います。

(後日談)
あとで師匠から聞いた話。
やはりこれは男子学生に対する授業の一環でした。ゲーム理論なども絡めた生存戦略を考える授業だそうです。
男子らは、以下のレポート提出を求められます。
1) 初見時、自分以外の5人の属性・役割・期待行動をどう分析したか?
2) そのうえで、この会における自分の目的と目標をどこに置いたか?
3) 会の途中、初見時の期待と異なる展開に気づけたか?それにどう対処したか?
4) 状況に応じて、当初の目的・目標を変更・修正できたか?
5) 最終的に自分の目的・目標は達成されたか?達成されなかったならそれはなぜか?
6) 5人を目的遂行における協力者・妨害者・調停者・牽制者・保護者に分類し、それぞれの役割について論ぜよ。
 
絶対あたし保護者ポジションだったよね。
保護者の役割ってなんだろう。
各参加者に安心感を与え、安全を確保しながら自由にやらせる的な?
って親か!