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大切なもの


2024年の夏。7月15日。こんなに暑いと昔を思い出す。今から5~6年前の25か26歳の頃。忘れもしない。あの時も7月で、そして15日だった。

26歳、俺はコールセンターのテレフォンオペレーターから家電量販のスマホ販売スタッフへ転職活動をしていた。というのもその頃はスマホのテクノロジーの進化が凄まじく(iphoneXくらいの頃)、スマホ知識を仕事を通じて得てみたかったし対面の仕事にも興味があった。

今はもう30を越えたオッサンだが26の俺は仕事の意欲に燃えてチャレンジ精神豊富な青年で、当時所属していたよくわからんコールセンターをすぐさま退職。直後にPCを開きネットで派遣登録を済ました。そして7月1日から晴れて豊島区◯◯◯電気◯◯店のスマホ販売スタッフとして働く運びとなった。

分からない方に言っておくが「スマホ販売スタッフ」というのは家電量販店の入口近くにあるスマホ売り場でスマホを販売している人のことである。

6月半ばで退職したため7月1日まで少し暇がある。日雇いバイトをしようか悩んだが貯金が少しあったため家でずっとゲームをして暇をつぶしていた。だがスマホ販売スタッフになれる楽しみも心に宿しつつあっという間に時間が過ぎた。

7月15日当日。◯袋東口へ行くと数人の男女が待っていた。この人達は入社日が同じスタッフだろう。〇◯〇電気は大企業なので大量にスタッフを雇う(辞めることも想定して先に多めに雇うのかもしれないが)。

俺「あ、◯◯です。よろしくお願い致します」 
A「◯◯です。よろしくお願いします」

適当な挨拶を交わす。スマホ販売スタッフというのは当然売上のノルマが存在し、同スタッフ間で競争もあるのだ。つまり今日からこの人たちとは共に職場で戦う仲間でありライバルなのだ。これから職場で毎日顔を見ることになるため関係を悪くすることも出来ない。とりあえず下手くそな営業スマイルを皆へ送る。

さて、派遣の営業担当とここにいる全員で◯◯◯電気へ移動するはずだが多忙のため同行出来なくなったらしい。仕方がないのでスタッフだけで◯◯◯電気へ向かうことに。

幸い◯◯◯電気◯◯店は東口から歩いて5分程度で滅茶苦茶近い。だから東口を出て左を見ると建物が見えている。皆でスタスタ歩いていると通りの店で店員が試飲サービスを行っていた。7月の東京は真夏真っ盛りで半袖でも暑い。とにかくジメジメしていて喉も乾いていた。

B「飲んでいきません?」

疑問文を投げかけながら答えを聞かず一人で試飲を提供する店員へ向かうB君。B君は見た目的に俺より若く爽やかイケメンだ。
俺はB君を追い、他の男女もついてきた。こんな酷暑なのだから水分補給をしたいのは総意だろう。
カップに半分ほど入ったジュースを一気に飲む。滅茶苦茶美味しい。冷たいものが喉を通る感覚が暑い夏には最高だ。

よし、喉も潤したことだし目的地へ向かおうとしたその時CさんがDさんと小さな声量で話をしている。雰囲気的に緊迫めいていたので俺は訊いてみた。

C「あの・・・これって・・・」
俺「?」

試飲の店を見た。「あ、なるほど!」と俺はつい声に出した。チューハイだったのだ。俺が飲んだ飲み物は6%のアルコールだった。出社前に、朝に、しかも初日に俺は酒を飲んでしまったのだ。

周りに反応を伺うが酒を飲んだのは俺とB君だけだった。
どうしよう。二人で慌てふためく。このまま職場まで行くか?バレなきゃいい?いやバレた時が一番マズい。

とりあえず派遣の営業担当へ電話をした。
大丈夫だ。なんとかなる。

いや、なんとかならなかった。

俺とB君は◯◯◯電気へ出社することなく初日で契約抹消。クビとなった。

ちなみに以下時間の順序
◯袋駅到着 9:20
同行スタッフ集結 9:25
◯◯◯電気へ向かう 9:27
通りの店で試飲 9:29
アルコール発覚 9:30
営業担当へ電話してクビ宣告 9:38

◯袋駅に到着してからわずか18分で丸一日のスケジュールは無に帰し、無職と化した俺とB君は◯袋駅◯口から徒歩2分。24時間営業「居酒屋 大都会」でやけ酒を交わしたのは今でも記憶に新しい。

B君はこの仕事の為に上京してきたらしいが何もかもが下らないから地元へ帰るとたこわさを食べながら豪語する。今回1分1秒も働いていないのに家を引っ越す準備に取り掛かるのだろうか。とんでもない金銭的損失である。
とはいえ、俺も酒が入っていたのかB君の発言に同調した。下らない理由でクビになったのは間違いないのだから。

「また何処かで会えたら」

B君へ最期の挨拶を交わし電車に乗る。
東京へ向かうリーマンとは逆方向の電車へと乗って。

正午前に自宅最寄り駅に着いた。
これからどうしよう。本当に地元(青森)へ帰ろうか。アスファルトをとぼとぼ歩きはじめる。家に着く5分前にスマホが鳴り電話に出る。クビを宣告された営業担当からだった。

「俺くん。来週から◯◯◯カメラ◯◯店ね」

なんと営業担当が各所に頭を下げて俺の次の現場の調整をしてくれていたのだ。
つまりクビにはなっていなかったということだ。

~あたたかい 人の優しさに僕は答えられているのだろうか~
~この旅が 終わる頃にはその答えも見えてくるだろう~

ロードオブメジャー / 大切なもの


7月下旬 ◯◯◯カメラ◯◯店にて
「今日からお世話になります俺です よろしくお願い致します」
深々と頭を下げて挨拶をする。

頭を上げると見慣れた男が一人立っていた。
B君だった。彼もまた、許されたのだ。

何が”また何処かで会えたら”だバカ。

俺はBと握手をした。
何かが始まる気がした。


※余談だが2,3年前、BとFPSゲームでプレイ中互いに口論になり絶縁した。

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