明日が消えてなくなるまで
呼吸を整える。
知らない誰かの知らない音楽を聴いていたらいつのまにか窓から朝日が刺していた。少しだけ悩んでから手のひらに光を当てる。異様なまでに美しい光をわたしはいつも恐れてしまう。暗い優しい夜がもっとずっと続けばいいのに。
明日が消えて亡くなるまで。
あなたを認識できなくなる日まで。
お湯みたいに柔らかい肌を思いだしたら呼吸を止めて泣きたくなる。インターネットのように冷たい指先を自分の指先でほぐす。なにを諦めてなにを守ればよかったのかわたしにはわからなくてずいぶんとたくさん諦めてしまった。ギターも、歌も、あなたも、信仰も、猫も、じゃがいもも、アイデアも、捨ててしまうべきではなかったのかもしれない。
明日が消えて亡くなるまで。
あなたを認識できなくなる日まで。
これから遺書を書くとしたら、あなたに何か遺せるだろうか。確かな言葉がないことはもういい加減気づいている。わたしを救ってくれるかもしれないのはわたしの心だけ。最後の夜までまじめな心だけ。
「おはよう。いい朝だね」
練習する。
また呼吸を整える。
明日が消えて亡くなるまで。
あなたを認識できなくなる日まで。
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