腐りかけの

かじってすぐ吐いた林檎の果肉を
僕の後ろにいた見たことない犬が咥えた  

「おいしいの?」僕は訊いた  

なんとなく変な味がしたのだ
腐っているわけではないと思うが
不安なので念のため吐き捨てた  

犬はシャリシャリと
音を立てて林檎を食べる
僕はそれを鰯のような両目で見ていた  

食べ終わると犬は僕の足元にきて
お尻をぐいぐい押しつけてきた
僕はしゃがんで頭を
ぐしゃぐしゃに撫でてやる
ハッハッと犬が呼吸をするたびに
腐りかけの林檎の匂いがした  

「大丈夫かな?」僕は訊いた  

犬は何も答えない
僕は必要なことは何もしない  

ただハッハッと呼吸をするだけ
ぐしゃぐしゃに撫でるだけ  

腐りかけの林檎の匂い
「林檎のオイニーが危ないかも」
「病院に行った方がいいかも」  

犬は何も答えない
僕は必要なことは何もしない  

「どこの家の犬かな」
「早く帰ったほうがいい」
「安全な場所に」  

犬は何も答えない
僕は必要なことは何もしない
腐りかけの林檎の匂い  

ただハッハッと呼吸をするだけ
ぐしゃぐしゃに撫でるだけ  


#詩

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