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青い血

左の手首を搔き毟るのは、決まって朝の4時を過ぎたあたりだ。窓の外が少しずつ白んで、小さな鳥がさえずる声が聴こえる。

いつも半分夢の中にいる。ごりごり地鳴りのような響きに恐る恐る目を開くと、血まみれの左手がそこにある。からだは小刻みに痙攣していて、呼吸は荒い。憎き右の5つの爪は、まだ左の手首を攻撃している。痛みと快楽と苛立ちで脳は混乱し尽くしている。シーツはところどころ赤や黒に染まり、濃い鉄の匂いがする。

「助けてくれ」

誰にも聴こえないように言う。誰も助けに来ないことは知っている。助けられるのはわたし自身だけだと知っている。爪を剥いでしまえばいいのだけど、残念ながらその覚悟はない。そんなことを考えている最中も止まらず掻き毟っている。ぐちゅぐちゅと血を掻き雑ぜる音が聴こえる。赤い血が出尽くしてしまうと、目に鮮やかな青い血が出るようになる。青い血を舐めると、どういうわけか精子の味がする。過去の苦い記憶に襲われて、当時と同じように緩やかに気を失ってしまう。誰も助けに来ないことは知っている。助けられるのは健全なるわたし自身だけだと知っている。青い血が喉奥を通り過ぎると、やっと少し涙が出る。


#詩

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