あのひ

あのひ
抱えていた
言葉たちは  

A

名前がわからないので
特徴を思いつくまま話した  

「小ぶりで、白い花がたくさんついてる」
「コスモス?」
「ちがう。もっと小さいな」
「なんだろう?」
「コスモスはおばあちゃんが好きだった」
「そう」
「そのへんによく生えてるんだけどね」
「そのへん?」
「そのへん」
「ここ、新宿だからね」  

新宿の南口
サザンテラス  

僕らは
今より少しだけ
愚かだった
あくまで、少しだけ
だけど  

B

おばあちゃんは
コスモス畑を
車の後部座席から
見るとき
何故かいつも
照れくさそうにしていた
口数は多くない  

「あぁ。これだ」  

眩しそうにコスモス畑を見つめる

運転席の父親の軽快なトーク
助手席の母親は少しぼんやりしてた

A

わん  
彼は喜んで犬を演じた  

「人よりも犬の方が好きです」  

共通の知人が
ぽそっと口走ったとき
彼はとても安心した
あたたかな布団のように
ありがたい祈りのように

ぽぴぴぽん
わん  

B

春になると
たくさんのことを
おもいだす
彼の視界は今年も
とても
狭い  

C

言葉は人を導くけど
これほど人を惑わすものもないでしょう

黄金の月が語る

やがて死が2人を別つとき
彼は神に感謝するのでしょうか
嘘ついてくれてありがとう?


あのひ
君の手に向けて
歌ったのは


#詩  

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