落下おじさんの生還
2階相当の高さの脚立から落下して入院していた父親が退院した。
「生還した」と本人は笑って言うが、本当にもう少し発見が遅かったら、もう少し打ちどころが違っていたら、今みたいに普通に会話することはできなかっただろう。
わたしは神様をあまり信じないけれど、ありがとうと思う。
発見してくれた人に感謝。
救急車を呼んでくれた人に感謝。
事故の一報を聞いて取り乱さずに病院まで来た母親に感謝。
全てを取り囲む虚空に感謝。
まだ痛いところはあるし筋力などの運動機能はかなり落ちているので、これから家でリハビリをしてなるべく事故前の状態に戻れるよう身体を鍛えていくらしい。
鍛える、というと少しニュアンスが違うかもしれない。
暮らしやすいように心身を整えていく。そんなイメージだろうか。
わたしは全てが元に戻る、ということにはあまり期待していない。あんなに大きな事故だったのだから、何もかも元通りになる方がおかしいと思う。でも、もしかしたら事故に遭う前よりいい未来が待っているのかもしれない。
言霊じゃないけれど、今の積み重ねで時間が過ぎていくのならば父親はとても前向きな気持ちでいてくれている、と思う。
「退院してからお父さんよく喋るね」とこっそり母親がわたしに言った。
たしかにそうなのかもれない。2カ月も入院していれば家に居れることが嬉しくてお喋りになるような気もするが、わたしはそんなに長く入院したことがないので分からない。まぁ、落ち込んでいるより良いことなのは間違いない。
退院日に帰宅即、アイコスとビールをキメていて笑ってしまった。
そりゃそうだよなぁ。
おかえりなさいませ。
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?