もういい

わたしの
呼吸が
貴方の体内を
するする
通りぬける  

声は届かない
声帯は震えるけれど
今のわたしは
空気より軽いから
音には成らない  

東の窓に腰 昼間になっ
かけて、貴 たら眠り、
方の帰りを 目覚めて部
ずっと待っ 屋が暗いと
ていたのだ 延々泣いた  

わたしの
不在にも存在にも
気づかない
貴方  

-  

貴方が
無理矢理
取りだした
わたしの一部が
まだ見つからない  

クローゼットの奥も
わたしの服や
読みかけだった本が
烏や野良猫に荒らされた
ゴミ置き場みたいに
滅茶苦茶に散らばってあるだけだ  

「それないとだ、だめです」  

朱色の髭を口の周りじゅう
たわわに生やした男は言った  

「あ、新たな、命、ふきこむ
ためのた、ただしい器が必要です
今のあ、あなたか、からっぽです」  

-わたしの一部?
-どんなものですか?
-形とか大きさとか  

「ど、どんなものてあなた」
男が喋ると髭がふさふさと揺れた
サンタクロースみたいだ  

「あなたの一部ですからね
形、ひとによってち、ちがうので」  

-  

だから
あなたに
聞くしかないと思って
ここでずっと
待っているのだけど  

もう
此処には
ない気がする  

ソファに寝転び
テレビを観て大笑いする
貴方のぴったり目の前に立つ
額や腕や膝に触れると
わずかに温かい  

ずっと笑ってる  

貴方が食べたんだ
わたしの魂ごと
貴方が食べたんだ  

だからもういい
これでいい


#詩

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