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靴がインターフェースになる。スマートシューズが描く未来。|no new folk studio

「IoT(Internet of Things)」という言葉が一般的になってきている中、今年開催されたCES 2020以降、5GやAIの導入によりその意味が”Intelligence of Things”になるとまで言われるようになりました。

モノ(Things)がインターネット(Internet)に接続する、という意味でのIoTは、もはや”普通”のことになりつつあるのかもしれません。

しかし、フィーチャーフォン(俗にいうガラケー)がインターネットに接続するようになった14年前、アシックスの靴がネットワークに接続しランニングのコーチングまでしてくれることを誰が予想したでしょうか。

今回はDMM.make AKIBA開設当初からの会員でスマートシューズ「ORPHE(オルフェ)」シリーズを開発するno new folk studio 代表取締役の菊川さんに、これまでの活動と未来について伺いました。

no new folk studioについて▼


靴を開発したきっかけはタップダンス。

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菊川 裕也(きくかわ・ゆうや)さん
株式会社 no new folk studio / 代表取締役

no new folk studio・菊川さん]
靴を開発することになったきっかけはタップダンスでした。もともとダンスや音楽が好きで、タップダンスを電子化する楽器をつくりたい、と思っていました。

はじめの頃は既存の靴に圧力センサーやLEDを取り付けた試作をつくっていました。会社を立ち上げる前のことです。

その後、ABBALabから出資を受けて2014年にno new folk studioを立ち上げました。ほぼ同時期にDMM.make AKIBAがオープンし、その頃から開発拠点として使っています。

人の動きや音に合わせてソール部分の色を変えることができるプロトタイプまで開発が進んでいました。その頃からすでにスマートフォンと接続できる仕様でした。

ちょうどIoTが盛んにメディアで取り上げられていた頃でしたが、色々なモノがインターネットにつながるようになることで、靴もインターフェースになっていくと確信していました。」

▼初期モデル「ORPHE ONE」▼  ※現在は販売しておりません。



注目された"光る靴"と本当の思い。


「会社設立から半年後くらいに行った初期モデルORPHE ONEのクラウドファンディングで1,200万円ほど集まりました。その頃は靴のことに詳しくなかったこともあり、浅草の靴職人と一緒に開発していました。

もっとビジネスに堅実なやり方もあったかもしれないですが、モメンタムがある方が上手くいくという考え方があったので、センサーだけではなく靴から開発していました。

2016年9月からは一般販売も開始しました。

この靴を通して水曜日のカンパネラさんやAKB48さんなどとご一緒できたのは嬉しかったですね。

最初からスマートシューズのプラットフォームをつくろうとしていましたが、プラットフォームだけをつくっても面白くないので、まずプロダクトとして"強さ"のあるものを作ろうと思って完成したのがこの"光る靴"でした。

かなり注目を集めましたが、この頃に気づいたのは"光る靴"をつくっているとエンターテインメント要素ばかりに注目されて"スマートシューズ"としての可能性に気づいてもらえなかったんです。」



陸上・為末選手との出会い。


「元陸上選手の為末 大選手との出会いが私たちにとって大きな出来事でした。

ある日、為末さんから『子どもの走り方を教育するためのスマートシューズを作ってよ』と、言われたんです。

着地パターンはケガの防止やランニングの効率のために重要ですが、感覚的なものなので子どもに教えるのは難しい、という課題がありました。

着地パターンに応じて音が変わったり、正しい着地をしたときにだけ光ったりしたら喜んで覚えるだろう、と提案されたんです。

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この出来事から動きのセンシングを直感的にレスポンスすることがプロダクトとして一番広がりがあるのだろうと感じたことが、現在展開しているORPHE TRACKやEVORIDE ORPHEに繋がっています。

為末さんとは私たちとビジョンも近く、現在はチーフ・スプリント・オフィサー(CSO)としてご一緒しています。」



ランニングをトラッキングする、ORPHE TRACK。

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「為末さんとの出会いも大きく影響し、ランニングデータをトラッキングすることを主軸にしたプロダクトとして、ORPHE TRACKを開発しました。

陸上競技のトラックと、データ追跡のトラッキング、楽曲のトラック、3つの意味を掛け合わせてこの名前を付けました。

オリンピックに出場するようなプロのランナーであればモーションキャプチャーなどでフォームを測定できますが、アマチュアやファンランナーには難しいことです。

心拍数は当たり前のように管理できる世の中なのに、ランニングフォームにはソリューションがない

そこで、モーションキャプチャーで得られるようなデータをどうしたら靴を履いているだけで取れるのかを研究し、現在のセンサーにたどり着きました。

加速度センサーやジャイロセンサーが入っていて、歩幅やスピード、着地時の足のひねり、着地の仕方を自動的に解析する仕組みを開発し、2019年にORPHE TRACKを発売しました。


その後、アシックスとスマートシューズの共同開発を、三菱UFJ信託銀行と情報信託プラットフォームとして実証実験を始めました。

この頃は歩行や動きに合わせてポイントが溜まるようなゲーミフィケーションを取り入れたアプリの開発もしていました。

センサーの開発部分はDMM.make AKIBAで知り合ったメンバーが入ってくれています。」



アシックスと開発した、EVORIDE ORPHE。

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「アシックスの皆さんとはORPHE TRACKの開発前から色々とディスカッションしていました。

結果的にランニングに特化した製品を開発することになりましたが、その際に提示されたチャレンジがセンサーの小型化でした。

ORPHE TRACKに搭載されているセンサーを1年かけて大きさを50%小型化、35gから20gまで軽量化することに成功しました。

ORPHE TRACKも十分に違和感なくランニングできる製品ですが、アシックスのランニングシューズの機能に多少影響を与えてしまっていました。センサーの小型化・軽量化に成功したことでEVORIDE ORPHEではほとんど影響がありません。

アシックスが長年培ってきたランニングへの知見と私たちのセンシング技術を掛け合わせた製品です。

Makuakeで行ったクラウドファンディングでは目標額の300万円を大きく超えて4,000万円以上を集めることができました。

発売までに色々と乗り越えなければならないことがたくさんありましたが、スタートアップである私たちのブランド"ORPHE"を製品名につけて大企業であるアシックスから発売できたことは本当にすごいことだと思っています。

これからも良きパートナーとしてご一緒していくつもりです。」



スマートシューズの可能性とこれから。

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「最近は厚底のランニングシューズが流行していますが、レース用シューズのような薄いソールの靴には現在のセンサーを入れることができません。

5Gも普及してきますし、センサーをもっと小型化してレースシューズに搭載できるようになれば、競技中にランナーのデータをリアルタイムに見られるようになるかもしれません

本来はランナーそれぞれに合ったシューズがあるので、今後はスマートシューズというカテゴリーの中でも選択肢を与えられるようにしていきたいです。取得したデータを使って最適なシューズやインソールを選べるようにしていくことも考えています。

ランナーに限らず生活者の靴に取り入れることで無意識的かつ日常的にデータを取ることができるので、多くの可能性を秘めています。

取得したデータを活かして、お年寄りが今までより10年長く歩けるようになったりすると意味があるんじゃないかと思います

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ランナーズハイという言葉がありますが、音楽を通じてランナーをいかにハイ状態にできるかにも興味があります。クラブで音楽に合わせてダンスをするように、運動と音楽は密接な関わりがあると思います。

私はいちファンランナーなので、より"ファン(fun)"なランニングを実現したいですね(笑)。

新しいものが大好きなので、靴という軸から新しい技術と組み合わせて何ができるのかをいつも考えています。もしかしたら将来的に全く異なる方向性のプロダクトが完成しているかもしれません。」

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さいごに。

DMM.make AKIBAではスタートアップから大企業まで様々な企業やクリエイターが活動しています。

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