ピックデュエルを競技環境に 余談「兄弟」

TCGの始祖であり、デュエルマスターズの兄でもあるカードゲーム、「Magic the gathering」には、ドラフトというゲームルールがあります。
これは、一人3パック分のパックを用意し(MTGは1パックに15枚近く入っている)そのパックの中身を複数人で回してデッキを作るというゲームです。

ピックデュエル同様、カードをピックしてデッキを作るルールですが、少々異なる点も見受けられます。パックを使用するということは、使用されるすべてのカードに明確な役割があるわけではないということ。そのため「ボム」と呼ばれる強力なカードを狙ったり、収録カード全てに点数をつけていたりと、多少の運要素を楽しむ側面もあります。

ドラフトの分析はピックデュエルにも応用できそうなので、ドラフトの分析例をもとに定石を考えてみます。


1.デッキの9割はビートダウン

ドラフトは基本的にはクリーチャー主体のゲームになります。より正確には、ビートダウンを基準とし、コンボやコントロールの要素は要所々々で組み込まれたデッキが台頭する、といった具合でしょうか。

MTGはライフ制のゲームのため、クリーチャーが最も確実な打点要因になります。通常のデッキにも、小型獣で早期に攻撃しつつ妨害に徹する「攪乱的アグロ」と呼ばれるアーキタイプが存在します。デュエルマスターズでは聞きなれないデッキタイプですが、こういった戦術が取れるからこそビートダウンが基本の戦術になるのでしょう。

ピックデュエルの場合、土台がデュエルマスターズであるため、攻撃することにはリスクが付きまといます。不用意に攻撃することは悪手とみなされやすいため、結果的にビートダウンよりもコントロール寄りのデッキの方が主流になります。しかし相手のトリガーによっては、ビートダウン寄りの戦法を取ることがあるのは事実です。

いずれにしても、強力なコンボや連鎖などはまず起きません。攻撃のタイミングや、打点をそろえる過程など、デュエルマスターズの基本的な部分が重要になるでしょう。

2.除去>クリーチャー>それ以外

ドラフトでは「破壊する」というテキストがあればとりあえず取れとすら言われています。おそらくこれは、ドラフトがパックを開けて行う関係上、除去を確保しにくいからでしょう。悪い言い方をすると所謂ハズレがあるからです。

また、除去はクリーチャーでは対応できない部分を補填することができます。パワーの高い強力なクリーチャーに対処するのは、通常のクリーチャーではほぼ不可能です。しかし除去であれば、小型からフィニッシャーまで幅広く対応することができます。最終的な選択肢を増やすために除去は確保すべきです。

ピックデュエルでは過去環境をモデルにしているため、除去だけではすべてを賄いきれません。初手札がMTGの7枚に対して5枚しかないことから、手札を確保、破壊するカードの重要度も上がります。また、身を守る手段としてS・トリガーも確保しなければいけません。MTGに比べて、ピック時に考慮するべき要素は倍以上あるといえるでしょう。

3.色は2色前後が基本

ドラフトには「空いている色を見つけろ」という言葉があります。競争率の低い色を狙えば、相手より強いカードを最終的に組み込むことができるからです。事実、使いたいカードをより使いやすくするために、色を絞ってカードを集めるのは合理的でもあります。しかしこれは、MTGは土地でしかマナを生み出せないことにも起因するのではないかと思います。

デュエルマスターズはすべてのカードがマナを生み出すことができます。多少色がずれたカードを詰め込んでも、枚数によっては問題にならないことも多いです。色を絞りすぎるとピックの選択肢も狭まってしまいますので、ピックでは色を絞るよりことも、デッキの色配分を見極めることが大切です。

4.3つの視点

デッキを組むうえで必要な考え方に、3つの視点というものがあります。具体的には次の3つです。

1.「自分視点」:自分のみ視点で、場面場面でのみ、渡されたパックごとでどうするか。
2.「8人視点」:8人の中としての視点で、まわりはどう考えるか、あるいはあなたをどう考えているか、理想的にはそれが卓にいる全員分。
3.「デッキ視点」:デッキとしての視点で、デッキが何を求めているか。

中村修平の「ドラフトの定石!」第2回より

これはまるまるピックデュエルにも応用できます。捲れたカードから何が魅力的か、相手は何を欲しがっているか、デッキに必要なものはどれか、推理してデッキを組んでいかなければいけません。ゲームを俯瞰で見ることは非常に大切です。

例を挙げてみましょう。捲れたカードが以下のものだったとします。
「アクア・ハルカス」「バジュラズ・ソウル」「ホーリー・スパーク」「不滅の精霊パーフェクト・ギャラクシー」「解体人形ジェニー」

ここで1つ目の視点、自分視点で見たとき、カード単体のパワーを参照するのが良いでしょう。素直に欲しいと感じたカードが自分視点で取るべきカードになります。そうなると魅力的なのは「バジュラズ・ソウル」か「パーフェクト・ギャラクシー」でしょう。

しかし、2つ目の視点、相手の視点に立って考えると、どのカードを取っても前述の2枚のうちどちらかを取れてしまいます。その場合、相手が単体性能の高いカードを取ったときに備えて「解体人形ジェニー」を取るという選択肢が生まれます。また、相手のデッキの内容によっては、デッキのトリガー率を下げるために「ホーリー・スパーク」を取っておくというのも有効です。

さらに3つ目の視点、デッキ視点で見たとき、初動が足りないと感じれば「アクア・ハルカス」や「解体人形ジェニー」を、詰め手段が少ないと感じたら「バジュラズ・ソウル」や「パーフェクト・ギャラクシー」を、防御札が薄いと感じたら「ホーリー・スパーク」を取る、というようにとてつもない分岐が生まれます。さらには、デッキ内の色バランスによっては、強いカードが欲しくても小型獣を取らざるを得ない、なんて状況にもなりえます。

このように、1枚カードを取るだけでも複雑な思考が必要になります。その基本となるのがこの3つの視点なのです。

5.マナカーブという前提的な概念

これは基礎的な部分になりますが、デッキはほぼすべてマナカーブという概念の基に成り立っています。マナカーブとは初動、中型、大型のカード枚数のバランスのことで、マナが小さくなるにつれてその枚数は増やすべきだという構築論です。ドラフトでは「2マナ生物のいないデッキは失敗デッキ」とも言われるほど、序盤のカードを重要視しています。

これはピック中盤から終盤にかけて強烈に意識しなければいけない部分です。最終的に優先するのは、個々のカードパワーよりもデッキとしての完成度です。マナカーブ的にどのカードが必要か、単純に強いカードよりもデッキ全体として必要なカードを取るというプレイングが必須です。

そのためにはきちんと状況を確認、把握することが大切です。マナ域はどうなっているか、クリーチャーや呪文の比率はどうか、色バランスはとれているか、そこから逆算してどのカードが必要なのか。自分のデッキの進捗を把握できれば、おのずと取るべきカードが分かってきます。この作業は本当に大切ですので、常に念頭に置いておきましょう。

6.サイドボードとヘイトドラフト

ドラフトでは取ったカード全てがデッキに入るわけではありません。取った後にデッキの編成を行い、各カードを採用するかどうかを見極めていきます。ここで弾かれてしまったカードがサイドボードとなります。

サイドボードになったカードは2本目以降にデッキの入れ替え候補になります。特定のコンボに対するメタや、色は合わないものの強力なカードなどが有力でしょう。しかし残念ながら、単純に弱いから外されてしまったカードも存在します。

どうしてこういったカードが出てくるのか、それはドラフトのパックを剥くという都合上の問題です。弱いカードでもデッキに入れなければいけない状況が多発するので、その中でもコンセプトに合わないカードや、とりわけ弱いものが弾かれてしまいます。

また他のプレイヤーの邪魔をするために、あえて自分のデッキとは合わないカードを取るヘイトドラフトというプレイングも関係しています。デッキに合わないカードですから、当然メインデッキには入れられません。しかし余剰分があるということは、その分だけ無駄にできる手数があるということでもあります。ドラフトが上手いプレイヤーほど、この無駄にできる手数を有効に活用してきます。

7.カードの価値

ここではあえてドラフトではなくピックを主軸にして考えてみます。

カードの価値はあらゆる場面で変化します。その要因の1つは他でもない、ピック環境そのものです。

ピックデュエルを競技環境として確立するためにも、最終的には固定プールの作成を目指していますが、ゲーム性が確保できればピック束の中身はいくらでも改変可能です。そうなれば人によってさまざまな環境のピック束が生まれるでしょう。その環境が違えば、たとえ同じカードであっても異なる価値を持つことになります。

過去の記事で「メッチャ映えタタキ」が強力であると書きましたが、それは「バジュラズ・ソウル」のような致命的な置物あってのことです。強力な置物が存在しない環境であれば、ただの小型除去に過ぎません。

また、相手のデッキの中身によってもカードの価値は変化します。普通相手のデッキなんてわかりませんが、ピックデュエルなら捲れたカードからデッキタイプまで予測することができます。

『ピック中に「お騒がせチューザ」を見た。出されても大丈夫なように、「アクア・サーファー」を入れよう。』
『どうやらハンデスが横行しているようだ。対策として墓地回収できる「リバース・チャージャー」を増やしてみよう。』

ピック中の情報をもとに、カードの価値が変動しているのが分かります。
さらに掘り下げると、デッキ的に満足でも、他の強力そうなプレイヤーや特定のカードに対抗するために、デッキをあえて変形させる例もあります。


さて、ドラフトの観点からピックデュエルを分析していきました。ここからさらに、ルール的に応用すると良さそうな部分をかいつまんでいきます。

  • すべてのカードをピック前に開示することで、より高い競技性を生む。

  • ピックするカードを公開しないことで、読み合いに奥行きを出す。

  • 余分にピックを行うことでデッキ構築のメタ読みや、「無駄にできる手数」を使用した勝負性を生む。

これらのルールを追加して、ピックデュエルを整備していきますが、今回はここまでにしたいと思います。

ドラフトもピックデュエルも、勝つために相当の知恵を振り絞って、泥臭い戦いをしなければいけないようです。でもここまで突き詰めているのは、単純にドラフトが楽しいから、ドラフトが好きだから。

僕が作るピックデュエル環境も、楽しんでくれる人、好きでいてくれる人がたくさんいればいいなと思いつつ、余談を終わりたいと思います。

参考:中村修平の「ドラフトの定石!」https://mtg-jp.com/reading/nakamuradraft/

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