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【名盤】スティーヴィー・ワンダー『Songs in the Key of Life』


はじめに

 スティーヴィー・ワンダーの最高傑作とされる、R&B屈指の名盤『Songs in the Key of Life』。このアルバムはレコードにして2LPと1EPの計3枚でリリースされた。
 曲目は以下の通り――。

LP1枚目
<A面>
1. Love's in Need of Love Today
2. Have a Talk with God
3. Village Ghetto Land
4. Contusion
5. Sir Duke
<B面>
1. I Wish
2. Knocks Me Off My Feet
3. Pastime Paradise
4. Summer Soft
5. Ordinary Pain

LP2枚目
<C面>
1. Isn't She Lovely
2. Joy Inside My Tears
3. Black Man
<D面>
1. - Ngiculela - Es Una Historia - I Am Singing
2. If It's Magic
3. As
4. Another Star

EP
1. Saturn
2. Ebony Eyes
3. All Day Sucker
4. Easy Goin' Evening

 ――曲数も多いが、時間もかなり長い。その分、聴きどころがたくさんあって面白い。まさに「一度は聴くべき名盤」の筆頭だ。

 今回はこちらのスティーヴィー・ワンダー『Songs in the Key of Life』を取り上げる。なお、私がこのアルバムを聴くときは、A面とB面、すなわちLP1枚目(Love's in Need of Love TodayからOrdinary Painまで)だけを通して聴くことが多いため、A面とB面については厚めに書こうと思う。

■A面

 アルバムの幕開けは「Love's in Need of Love Today」。重厚なコーラスが我々を出迎えたのち、スティーヴィー・ワンダーがこう歌う。

Good mornin' or evening, friends.
こんにちは、もしくはこんばんは、友よ。

スティーヴィー・ワンダー「Love's in Need of Love Today」より
(日本語訳は著者による)

 なんと素晴らしい始まり方だろうか。この時点で既に我々はスティーヴィー・ワンダーの作り出す音楽の宇宙に引き込まれている。

 ゆったりとしたリズムが続く。スティーヴィー・ワンダーのソウルフルな歌声が極上のメロディーを歌い、コーラスがそれを彩る。これを聴けば、愛の素晴らしさを感じざるを得ないことだろう。アルバムの1曲目としてこれ以上の曲はない。

 2曲目「Have a Talk with God」。キーボードの音色が重厚に重なって、聴いていて楽しい。いかにもスティーヴィー・ワンダーらしい1曲だ。3曲目「Village Ghetto Land」はストリングスとボーカルだけのシンプルなアレンジ。束の間の小休憩といった小品だ。

 そして、ここからの4曲目「Contusion」から5曲目「Sir Duke」の並びが素晴らしい。「Contusion」はボーカルの無いファンクナンバー。ギターが流麗に走りながら、疾走感のあるリズムについ体を揺らしてしまう。ここで否応なく高まった緊張感が次の「Sir Duke」で解放される構成は見事としか言いようがない。

「Sir Duke」はこのアルバムの一つのハイライトであろう。ブラスセクションとボーカルが一体となり、ジャズの偉大さ、ひいては音楽の素晴らしさを感じさせてくれる曲である。この素晴らしい音楽を聴けば、高揚感が身を包み、誰の心にも幸福が訪れるはずだ。

 A面は「Sir Duke」にて大いに盛り上がったところで終わりひと段落。この構成が実に洒落ている。

■B面

 B面は「I Wish」から始まる。跳ねるようなリズムが特徴的。「Sir Duke」と同様にブラスセクションがスティーヴィー・ワンダーの歌声に花を添えている。途中で「ユー・ナスティー・ボーイ!」と思わず一緒に言ってしまうまでがセットだ。

 2曲目は「Knocks Me Off My Feet」。これがひたすらに美しい。
 最初に聞いた時はあまり良さが分からなかったものだが、今ならその良さが分かる。言うなれば、愛の豊かさ、人生の素晴らしさ、そして音楽の偉大さを感じさせる曲であり、それはこのアルバムに一貫するテーマでもある。この曲を通して存分に味わっていただきたい。愛と人生と音楽が何たるかを。

 3曲目は「Pastime Paradise」。イメージするのは、緑が鬱蒼と生い茂った野生的なジャングルである。実際の歌詞は見ていないが、何にせよ癖になるリズムが曲を盛り上げる佳曲である。言わばしばしの小休止といったところか。

 そしてそこから繋がるようにして4曲目「Summer Soft」。こちらも「Knocks Me Off My Feet」同様、ただひたすらに美しい。ため息が出てしまうほどである。徐々に盛り上がっていく構成も素晴らしい。

 ところで私は、このアルバムは美しいメロディーの宝庫だと思っている。それは「Knocks Me Off My Feet」や「Summer Soft」を聴けば分かる。繊細なメロディーは聴き手を優しく広大な宇宙へと誘うのである。

 そしてB面最後、すなわちLP1枚目最後の曲は「Ordinary Pain」。はじめは比較的静かだが、後半になると曲調ががらりと変わる。コーラスが「Ordinary pain, ordinary pain」と繰り返し、やや激しい雰囲気をまとう。さしずめLP1枚目の終わりを盛り上げてくれるかのようだ。そしてそれはLP2枚目の架け橋にもなる。

■C面

 何と言っても、C面は1曲目「Isn't She Lovely」が印象的である。後半のハーモニカソロや愛らしい会話の声は正直言って要らないと思うのだが、それはそれとしても素晴らしい曲だ。これぞまさに、人生の素晴らしさを感じさせる名曲である。

 2曲目「Joy Inside My Tears」。だだっ広い音楽の宇宙に一人漂うかのような壮大なサウンドに包まれる。スティーヴィー・ワンダーという巨人に私はただひれ伏すばかりである。

 3曲目にしてC面最後は「Black Man」。今度は一転してノリノリのファンクである。これも後半のコールアンドレスポンスは要らないような気がするものの、前半だけ聴けばファンキーでクールな曲である。人種差別の反対を訴える歌詞も特徴的だ。なお黄色人種に生まれた者としては、イエロー・マンを入れてくれているのがありがたい。

■D面

 「Black Man」の後にはまずお口直しと言ったところか。D面の始まりは「- Ngiculela - Es Una Historia - I Am Singing」。ソウルフルに歌いあげるスティーヴィー・ワンダーの歌声にグッとくるものがある。ここでも音楽の偉大さが如実に表れているように感じる。

 2曲目の「If It's Magic」を挟んで、3曲目「As」と4曲目「Another Star」がD面の終わりを最高に盛り上げる。「As」はアルバムを終わりへと導く十分な1曲だが、白眉は次の「Another Star」。この「Another Star」はこのアルバムの一つのハイライトである。

 一応、この「Another Star」は私のお気に入りの曲でもあり、ラテン系のノリで非常にカッコいい1曲だ。ピアノのイントロだけでも一気に盛り上がり、その後はひたすらダンサブルなサウンドが続く。「ラララ~」と一緒に歌いだしたくなるようだ。ここまで来るとアルバムの終わりが見えてくる。

 しかし、ここでアルバムを終わらせないのがスティーヴィー・ワンダー。音楽の宇宙はまだまだ広がりを見せる。

■EP

 前曲「Another Star」の熱狂も束の間、ラストスパートは壮大な「Saturn」にて始まる。その歌声は、地球を飛び出して宇宙へと我々を導き、どこまでも行けるような気持ちさえ抱かせる。スティーヴィー・ワンダーが作り出す音楽の宇宙はどこまで広がるのか。

 2曲目「Ebony Eyes」が始まる。すると途端に地上に戻ってきたかと思いきや、子供たちの遊ぶ声が聞こえてくる。今まで途方もないほど巨大な世界を構築してきたところで、突然子供たちに焦点が当たる。ポップなメロディーが実に聴きやすい1曲だ。

 3曲目「All Day Sucker」と来て、アルバムは穏やかな「Easy Goin' Evening」で幕を閉じる。

おわりに

 以上がスティーヴィー・ワンダー『Songs in the Key of Life』だ。

 総じて、人生の素晴らしさを感じさせる偉大なアルバムと言える。私のような、スティーヴィー・ワンダーの足元にも及ばない者があれこれ言ってよいものか甚だ疑問ではあるが、声を大にして言いたい。音楽が好きな人はもちろん、そうでない人も、これを聴けば誰の心にも幸福が訪れるはずだ。

 もし音楽に世界遺産があるのなら、その一つはこのアルバムに与えたい。この『Songs in the Key of Life』は音楽という芸術様式の一つの到達点であり、人類の宝のようなアルバムだ。

 このアルバムが後世まで聴き継がれていくことを切に願いつつ、筆を置くことにする。


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