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既往歴がたくさん並んでる患者さんを持った時に気をつけること

臨床現場で出会う患者さんは、単一疾患だけではなく、既往歴にたくさん病名が並んでいることが多いと思います。

なんなら同時に2,3個併発していることも多々あります。

そんな時に、全部エビデンス通りに行うと大変なことになりますよ、というお話です。

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まずは論文紹介

「多重併存疾患を有する高齢者の診療ガイドラインとケアの質」(毎度直訳)というタイトルの論文を紹介します。

アブストラクトを直訳すると

【背景】
臨床診療ガイドライン(CPG)は、多くの慢性疾患に対する医療の質を向上させるために開発されてきた。成果報酬型の取り組みは、CPGの推奨事項を反映する可能性のある介入に対する医師のアドヒアランスを評価するものである。

【目的】
複数の併存疾患を持つ高齢者個人のケアに対するCPGの適用性を評価する。

【データソース】
全国健康面接調査および全国的に代表的なメディケア受給者のサンプル(この集団で最も多い慢性疾患を特定するため)、 National Guideline Clearinghouse(慢性疾患ごとにエビデンスに基づいたCPGを検索するため)。
*National Guideline ClearinghouseというのはHealthcare Research and Quality for Agencyが運営する証拠に基づく臨床診療ガイドラインの公開リソースWebサイト、だそうです。

【研究選択】
最も一般的な15の慢性疾患のうち、高血圧症、慢性心不全、安定型狭心症、心房細動、高コレステロール血症、糖尿病、変形性関節症、慢性閉塞性肺疾患、骨粗鬆症など、通常プライマリケアで管理されている疾患を選択した。

【データの抽出】
複数の併存疾患を持つ高齢者患者、治療目標、推奨事項間の相互作用、患者と介護者の負担、患者の希望、余命、生活の質について、それぞれのCPGがどのように対応しているかを2人の研究者が独立して評価した。差異はコンセンサスによって解決された。慢性閉塞性肺疾患、2 型糖尿病、骨粗鬆症、高血圧、変形性関節症を有する 79 歳の女性を想定し、関連する CPG からの推奨事項を集約した。

【データの統合】ほとんどのCPGでは、複数の合併症を持つ高齢患者に対する推奨事項の変更や適用性については議論されていなかった。また、ほとんどのCPGでは、負担、短期的・長期的な目標、基礎となる科学的証拠の質についての考察もなく、患者の希望を治療計画に組み入れるための指針も示されていなかった。関連するCPGに従った場合、仮定の患者は12種類の薬(月406ドル)と複雑な非薬物療法を事前に処方されることになる。薬物と疾患との間に有害な相互作用が生じる可能性がある。

【結論】
本レビューでは、いくつかの合併症を持つ高齢者に現在のCPGを近づけていくことは、望ましくない効果をもたらす可能性があることを示唆している。ケアの質やパフォーマンスに対する報酬の基準を既存のCPGに基づかせることは、複雑な併存疾患を持つ高齢者に提供されるケアの不適切な判断につながる可能性があり、この集団のケアの誤った側面を強調し、ケアの質を低下させるような変質的なインセンティブを生み出す可能性がある。複雑な併存疾患を持つ高齢者が必要とするケアの質を測る尺度を開発することは、高齢者のケアを改善するために不可欠である。

Boyd CM, Darer J, Boult C, Fried LP, Boult L, Wu AW. Clinical Practice Guidelines and Quality of Care for Older Patients With Multiple Comorbid Diseases: Implications for Pay for Performance. JAMA. 2005;294(6):716–724. doi:10.1001/jama.294.6.716

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非薬物療法、その内容とは

気になったのが、「複雑な非薬物療法を事前に処方されることになる」という点です。おそらくですが理学療法などがここか??と思ったからです。

なので、本文に入ってみました。

では、早速「複雑な非薬物療法を事前に処方されることになる」という点。

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なんだかすごいことになっていますね!理学療法もやはり入っています。では直訳行きましょう。

Box. 高血圧、糖尿病、変形性関節症、骨粗鬆症、およびCOPDを有する79歳の女性を対象とした臨床実践ガイドラインに基づく推奨事項
患者の課題
関節保護
省エネルギー
エクササイズ
重度の足部疾患がある場合は非荷重、骨多孔症の場合は荷重
有酸素運動 30 分(ほとんどの日)
筋肉強化
ROM
慢性閉塞性肺疾患(COPD)を悪化させる可能性のある環境への暴露を避ける
適切な靴を履く
アルコールの摂取を制限する
正常体重の維持(BMI 18.5~24.9)

臨床医の課題
ワクチンの投与
 肺炎
 インフルエンザ
診療所の受診時に血圧をチェックし、時には自宅でもチェックする
血糖値の自己管理を評価する
神経障害がある場合は、すべての臨床医の診察で足の検査を行う。それ以外の場合は、足の保護感覚、構造、生体力学、血管の状態、皮膚の完全性を毎年チェックする
ラボラトリーテスト
 マイクロアルブミン尿がない場合は年1回
 クレアチニン値と電解質が年1~2回以上
 コレステロール値の年間推移
 肝機能は年2回
 糖化ヘモグロビン濃度は、コントロールレベルに応じて、年2回から四半期ごと
照会
 理学療法
 眼科検査
 肺リハビリテーション
 2年に1度の二重エネルギーX線吸収測定検査
患者教育
 リスクの高い足の状態、フットケア、フットウェア
 変形性股関節症
 COPD投薬・デリバリーシステム研修
 糖尿病

理学療法入ったバンザイ、なんて言ってる場合ではありません。
慢性疾患のある人がガイドライン通り非薬物療法を行うと大変なことになる、というのはなんとなく伝わったかなと思います。

論文内でも

Although CPGs pro- vide detailed guidance for managing single diseases, they fail to address the needs of older patients with complex co- morbid illness. While some recom- mend interventions for specific pairs of diseases, CPGs rarely address treat- ment of patients with 3 or more chronic diseases
直訳
本レビューでは、複数の慢性疾患を有する高齢者のケアの質を評価するための適切で根拠に基づいた基盤をCPGが提供していないことを示す証拠が示されている。CPGは単一疾患を管理するための詳細なガイダンスを提供しているが、複雑な共病的疾患を持つ高齢者のニーズには対応していない。特定の対の疾患に対する介入を推奨するものもあるが、3つ以上の慢性疾患を持つ患者の治療に対処することはほとんどない。

と、他の論文を引用して書かれています。ではこの論文のオチを見てみましょう。

For the present, widely used CPGs of- fer little guidance to clinicians caring for older patients with several chronic dis- eases. The use of CPGs as the basis for pay-for-performance initiatives that fo- cus on specific treatments for single dis- eases may be particularly unsuited to the care of older individuals with multiple chronic diseases. Quality improvement and pay-for-performance initiatives within the Medicare system should be de- signed to improve the quality of care for older patients with multiple chronic dis- eases; a critical first step is research to de- fine measures of the quality of care needed by this population, including care coordination, education, empower- ment for self-management, and shared decision making based on the indi- vidual circumstances of older patients.
直訳
現在のところ広く使用されているCPGは、いくつかの慢性疾患を持つ高齢の患者をケアする臨床医にとってほとんど指針となるものではない。単一の疾患に対する特定の治療法に焦点を当てたペイ・フォー・パフォーマンス・イニシアチブ(提供される医療サービスの質に応じて診療報酬が決まる仕組みで、一部の欧米先進諸国の医療保険制度で採用)の基礎としての CPG の使用は、複数の慢性疾患を持つ高齢者のケアには特に適していない可能性がある。メディケアシステム内での質の向上とペイ・フォー・パフォーマンス・イニシアチブは、複数の慢性疾患を持つ高齢者のケアの質を向上させるように設計されるべきである。重要な第一歩は、ケア調整、教育、自己管理のためのエンパワーメント、高齢者の個別の状況に基づいた共有の意思決定など、この集団が必要とするケアの質の尺度を定義する研究である。

と、なっています。

患者さんの状態把握に必要なのは

リハビリテーション従事者として、非薬物療法として理学療法以外に患者さんへ教育として上記のことをお願いする気持ちには個人的にはなりませんし、「患者は12種類の薬(月406ドル)」という点も医療従事者としては心配になります。

6つ以上の薬を長期間服用することによって副作用のほうが勝ってしまった、というレビューもよく聞きます。ポリファーマシー、ですね。

この論文を読んで感じたこととしては、超高齢社会の中で医療従事者として知っておくこととして、いわゆるエビデンスだけでは太刀打ちできない、ということです(くれぐれも、軽視しているわけではありません)。

状態の把握に必要なのは医学的な知識と同じか、それ以上に患者さん自身をみる視点、です。

患者さんはいろいろな訴えをしてきます。そこから得られる情報量は本当に多いです。まずは素直に患者さんの声を聞くことです。

変に「医療従事者として医学的に解釈しよう!」と思いすぎないことが本当に大切です。

患者さんの疾患は1つじゃないと思ったほうがいい

すごく若い患者さんしか来ない、というところを除き、リハビリ現場には単一疾患の患者さんはほとんどいません、と言い切ってもいいです。

重複疾患と重複する個人因子を私達リハビリセラピストは捉えなくてはなりません。

「シングルファクター(単一因子)」だけではなく「マルチファクター(複合因子)」を捉えられるセラピストを目指していきます。


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