概要~シェア空間の設計手法~猪熊純

シェアとはなにか

端的にゆうと、戦後の復興や高度経済成長の流れが生みだした核家族化という生活スタイルが近年では一般的になった。核家族化に伴って住宅の着工件数が最大化し、都心と郊外を鉄道でつなぐことは公共交通の利用機会を増やすという動きは私鉄やデベロッパーの投資を増やす仕組みとも言える。
地域ぐるみで行われていた冠婚葬祭は衰退し、核家族の居場所は図書館やホールといった公共施設とショッピングモールのような民間施設に回収された。生産の場としての都市、消費の場としての郊外、それを支える施設とインフラという構造は、すべて成長を前提とした社会の部品のようなものであると言える。

しかし今日、人口減少やグローバル化によって、国全体が成長し続けることを前提とした理想の型は崩れつつある。人口が増えない自治体は公共施設やインフラを維持する税収が不足し、景気や人材流動によって終身雇用を保障できなくなった企業は、コミュニティとしての側面が薄くなった。住宅は平均世帯人数3人を下回り、核家族が必ずしも基本型ではなくなりつつある。今、社会は最小単位である個人に還元されつつある。

猪熊らが扱うのは、こうした社会の状況を解決したり、そこから新たな価値を作り出すようなシェアである。地縁や血縁のようなコミュニティではなく、核家族や企業といった近代的な組織単位でもなく、個人に還元された社会に、新たに多様な繋がりを生み出すためのシェアである。

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