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インド工科大学で半年間働いてみた。

インドに行ったら人生観は変わるのだろうか?



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「インドのスピード感まじでやべえ、、、」

インドに行くとよく持ち出される、「インドに行ったら人生観変わる」。この慣用句が示唆するところは

"カレーばっかり食べてる"とか、
"街角を行き交う動物たち"とか、
"貧しいスラムの生活"とか、
”とにかく陽気なインド人”とかとか、、、

なんとなく後発国、新興国としてのカオスなインドで人目を気にせず生きる彼らの生活を身をもって味わうことで、自己の人生を再吟味する契機を享受してくれるもの。というのがネット上や巷に溢れている認識だと感じてしまっている。実際にインド行った人の体験記とかググってみるとそんな懐古主義的な記事が多い。自分の人生を見つめ直すきっかけを与えてくれるのだとか。

僕も実際に行く前はなんとなくそんな印象をもっていた。でも、実際に行ってみて、半年間現地の学生と学生寮で半年間過ごしてみて、抱いた印象は全然違かった。


実際には僕はこんなことを感じた。
”インドは、とにかく早い。”人々の生活も、社会も早い。現地に行ってゆったりと自己の人生を再吟味する余裕などあまりありそうもない。それに、インド人は人目を気にせず生きているというのも本当だろうか。それに対しても誤った認識だと思う。彼らはあくまで個人領域において人目を気にしないのであって、社会領域においてはめちゃくちゃ競争社会。そして、抱いた危機感。

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そもそも、僕はインドに何しに行っていたのかというと、とあるインターンプログラムの一環で、インドの学生が日系企業に就職するためのエージェント的なお仕事をしていた。特に、現地で彼らの志向だったり、何を持ってキャリアを選択しているのか、何を考えて大学生活を過ごしているのか、どんな風に社会を捉えているのか、等々をヒアリングするのが僕の業務になっていて、彼らの中にあるスタンダードを理解しようと努めていた。

そんなわけで、実際に何考えてんの?ってことになんとなく近づくことができた。そんな経験からも上記のような印象を抱いている。

All Is Well

インドがめちゃくちゃ競争社会であることはインドのこの超有名映画からも読み取れる。

きっとうまく行く〜Aal Izz Well〜

きっとうまく行く

この映画のストーリーを簡単に説明すると、舞台はインドの中の超優秀理系大学。そこで学生は毎日しのぎを削り、良い成績を納め、良い企業に就職することを目指す。競争社会。そんな中で主人公を含む三人のお馬鹿トリオが鬼学長をも巻き込む騒動を巻き起こしながら、それぞれの心情の変化を写していく。作品自体は全編を通して笑いあり、涙ありの楽しい空気感で進むコメディ映画、風刺映画といった感じ。

この映画のレビューには「自分らしく生きることの大切さを知った」とか、「All Is Wellマインド大事」みたいなことも挙げられるが、しかしその根底に描かれるのは若者の自殺問題や行き過ぎた競争社会などインドの社会問題がある。作中でも卒業単位が足りないとわかった生徒がプレッシャーに耐えられず自殺してしまう。
実際、僕がインドで学生寮に住んでいた時も、隣の学生寮に住んでいた生徒が学業面でのプレッシャーに耐えられず、自殺した。とてもショッキングな出来事だった。

インドの文化、社会に詳しい大東文化大学教授の篠田隆教授はインドの社会に関して、

「良い大学に入って、良い会社に勤め、高い給料をもらうことが重視される。学校教育の序列化が進み、著名大学を出ないと名の知れた民間企業は相手にしない。だから教育産業がビッグビジネスになっているのです」

と語っている。(出典)
彼らがそのように考えるようになった背景には悪しき風習であるカースト制度と、それを乗り越える手段としてのエンジニアになるという道があったからだ。その辺の背景については長くなってしまうので「ITエンジニアはカースト制から抜け出すカギ、IT大国インドの教育事情」とか「インドのカースト社会をぶち壊すIT産業という一筋の光」とかこのあたりを読んでもらえるとわかりやすくまとめられているかと思う。

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ここまで読むと、インドに行って、社会をみて、生活を見て、そこで自分の人生を振り返っている余裕なんてなさそうなんだねってことくらい誰にでもわかる。倫理的な人生観なんて変わらないっす。そうじゃない人は視点がフラットじゃない。端からそういう目的を持って旅に出てきてるだけだろう。それはどこでもできる。箱根だって良い。
視点はフラットに、大事なのは一次情報に触れること。

それから、僕が抱いた危機感

インド経済成長

インドに行ってとにかく驚いたのは発展のスピード。具体的には建設ラッシュに代表される経済成長。それから国民へのITの浸透

インドに降り立ったばかりの時、UBERで車を呼んで(今はインド中UBER走ってる)、市街地を走った時の光景は本当にびっくりした。世界中でもなかなか見ることはできない光景なんじゃないかな。”緑豊かな自然”、とか”世界一のビーチ”とか正直どこの国にも1つや2つある。けど、こんなに"鉄鋼むき出し都市"、"都市の内臓見えちゃってます"みたいな光景、日本なら、世界でも、どこで見れるんだろうか。

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思い描いていたインドと違いすぎて車窓から街の風景を無心で連写した。日本の高度経済成長期もこんな感じだったのだろうかなんて思いながら。
今こんな光景が見られるのはインドと中国、それからナイジェリアとかベトナムくらいなのかな。少なくとも日本やその他成熟国でこんな勢いある光景を見れることはこれから先もないだろう。とすると、本当にこのタイミングでしか見ることのできない光景。鉄骨がクレーンに運ばれ、ぶつかる音が街の心臓が鼓動しているかのように響いていく。その音は深く、忙しない。

車に乗っていた目的はインドで生活するのに必要なものの買い出し。ところで、インドでショッピングにいくって言ったらこんなイメージ?

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確かにこういう露店はいまだに多くある。けど、今回の到着場所はそんな露店街のすぐ近くにあるクソでかいモール。

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しかも、街に一個でかいのがあるとかじゃなくて、僕が滞在している期間中にこれよりデカイのがまた1つできた。それにできたてのIKEAまである。

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今あげたのはインド南部の都市・ハイデラバードの例。ここ以上の大都市ボンベイの街の様子はこんな感じ。

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イギリス植民地時代の色が強く、外国資本が集中して投下されたこともあって発展が早い。並び聳え立つビル群がマンハッタンを連想させるほどに。

今、インドは目に見えて経済成長中。比喩じゃなくて、実態として形が目に見えるほどに成長中。国の勢いを身をもって体感できる。

こんな建設ラッシュに2018年の2月から住友商事が日系企業として初めて参画した。2021年にグルガオンに巨大な集合住宅を建設するほか、第二期以降でも事業に参画すると見られているが正直動き出しは遅かったと思う。
その他インフラ事業に関していえばムンバイ-アーメダバード間を結ぶ高速鉄道建設を受注したが、まだ着工できたのか、し始めたのかくらいの状況で日本のようにことが進まない状況に振り回されている。日印両政府が、予定していた2023年の開業を5年程度遅らせる方向で調整していることが、明らかになった。(https://mainichi.jp/articles/20200207/k00/00m/020/411000c)

インドのシリコンバレー「バンガロール」

経済成長を支えている中心に、インド屈指のIT都市、バンガロールがある。
まず、バンガロールに大規模な戦略開発拠点を置く著名IT企業をババっといくつか紹介する。

[ソフトウェア・インターネット・IT機械分野]
マイクロソフト/google/オラクル/SAP/アドビシステムズ/HP/Dell/EMC/ネットアップ 等々
[半導体]
テキサス・インメルツ/インテル/クアルコム/AMD/エヌビディア/アーム 等々
[ITサービス・コンサル部門]
IBM/アクセンチュア/キャップジェミニ 等々
[通信・ネットワーク機器]
シスコシステムズ/ジュニパーネットワークス/ノキア/エリクソン/ファーウェイ 等々
[電気・産業機械]
フィリップス/GE/シーメンス/サムスン/LG/SONY 等々
[自動車関連]
メルセデス・ベンツ/メーカーボッシュ/ハネウェル 等々
[小売]
ウォルマート/ターゲット/テスコ 等々

その多くが本国以外では最大規模の開発拠点を構えている。IBMやアクセンチュアはインド全体で10万人を超えるスタッフがいる。
現在のバンガロールはかつてのオフショア拠点としての使われ方ではなく、最先端研究を行う戦略開発拠点へと変化しつつある。ウォルマートでも「どんな商品を一緒に購入する傾向があるのか」「親子連れの購買行動の特徴とは」「入店後、どのような動線を辿るのか」と行ったデータ分析はバンガロールで分析されているのである。
アマゾンのジェフ・ベゾスCEOはインド事業の拡大に向け55億米ドルの投資を行うことを宣言している。ハイデラバードの新グローバル事業拠点は同社が米国以外で所有する初の拠点となり、世界最大規模である。ここも単なるオフショア拠点ではないだろう。

世界のトップ企業の大規模拠点が活気付く一方で、バンガロール発のスタートアップの波も大きい。2016年には4700~4900社で、アメリカ、イギリスに次ぐ世界第3位にまで増え、2020年には6500社を超え、イギリスを抜いて世界第2位となった。2010年の時点では480社ほどであり、そこから10年間で14倍ほどに膨れ上がった訳である。これにはアメリカIT企業はバンガロールの有望なスタートアップを探しだし、積極的に買収していることが背景にある。日本でも孫正義率いるソフトバンクもインドに対してイケイケモードだった。(最近はOYOルームの海外での伸び悩みやweworkの失敗で少し慎重気味)2017年にモバイル決済アプリの「Paytm」に14億ドル、2018年にアガーウォール氏が弱冠19歳で立ち上げた格安ホテルサービス会社「Oyo」に10億ドル、2019年にはインドNo1の配車アプリ「Ola」の新事業の電気自動車開発に2億5000万ドルを投資した。

(ちなみに、孫正義は海外投資に比べ、国内投資は圧倒的に小規模である。彼の目に、日本の将来は明るくはないのだろうか。)

これほどまでに有望なインドIT企業のほとんどはインド人エンジニアによって支えられている。2020年現在、ITエンジニア数の多い国トップは米国で477.6万人となっているが、次いで中国が227.2万人、インド212万人と続き、日本は109万人の4位となっている。順位こそ1つしか変わらないがその数は2倍である。量だけでなく、質も十分に高い。グーグルCEOのサンダー・ピチャイ、マイクロソフトCEOのサティア・ナディラはいずれもインド国内の大学の出身であり、その他GAFAをはじめとする大企業の重役にインド系が多いこともこれらを裏付けている。特にIITを称するインド工科大学は僕が日系企業の人事と話していても、とりわけ優秀だと口を揃える。

そのほか、英語によるディベート力やスピーチ力、多様性ある社会への適応能力があることも日本の国際競争力に比べ優位だ。

まぁ、根拠をあげれば枚挙に遑がない。ここで何が言いたかったかといえば、経済の成長速度は日本の比ではなく、経済水準が日本を超えてしまうのはそう遠くは無いだろうということだ。本稿で初頭に述べたような後発インドの典型的イメージは変わってきたであろうか?

それから、もうひとつインドのIT化の浸透について。

インドのIT化

早速ですが、インドにおける携帯電話の普及率はどれほどだと思いますか?
30%?いや、10%?、いやいや50%くらい?

そのどれもが間違いで実は驚異の86.9%(2018年)

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(*ちなみに日本では100%を超えている。)

僕はインドに行ってみて、想像以上に街の人がみんな携帯電話使っている光景に驚いた。日本で、ホームレスの人が携帯いじってるシーンなんて見ない。でも、彼らは家がなくても携帯は持ってる。

それからキャッシュレスの波もすごい。インドの年間の決済金額に対するキャッシュレス決済の比率は、2016年の時点で35.1%。日本は19.8%なので、インドははるかに高い比率となってる。実際に僕が住んでいた学校の食堂もみんなPaytm(paypayへの技術提供元)で決済するし、屋根もない露店だってキャッシュレスは当たり前。

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僕がいたのは2019年のインドだから上記のキャッシュレス化の波が数字以上に多く感じた。

インドのIT化が早い理由には2つのインドならでは面白いカラクリがある。

リバースイノベーション

従来、新商品は先進国で企画・開発を進められ、完成した製品を各国の事情に合わせ後発国にも事業展開していくのが常識だった。しかし、リバースイノベーションでは文字通りその流れが逆なのである。リバースイノベーションでは、途上国で最初に創出・採用された技術や手法を、先進国へと展開される。

例えばGEヘルスケアが生み出した「携帯型の心電図計」はインドで生まれた代表的なリバースイノベーションの商品。インドの「電気の通っていない地域でも図れる心電図が欲しい」という要望に応え、商品設計を1からやり直し、ポータブルな心電図を発明した。インド発の心電図は今や売り上げの半分を欧米が占めるほどに先進国に広まった。

インフラ未整備や言語の問題であったり「制約の多さ」こそがリバースイノベーションを生み出している。製品の付け焼き刃的、表面的な改善ではこれらの複雑な制約の壁を乗り越えることができない。とすると、本質的で革新的な刷新が求められる。これがリバースイノベーションがインドで起こる理由だ。「必要は発明の母」とはなんとも言い得て妙だ。
それからもうひとつのカラクリがリープフロッグ現象。

リープフロッグ現象

インドの経済発展は先進国の歩んできた道を辿っているわけではない。先進国から輸入した新技術を取り入れる際に、これまで経てきた発展段階をいくつも超えて一気に最先端の状態に移行した。

インドを例にして考える。
電話の獲得は、①電話線が街にひかれる→②各家庭に固定電話が置かれる→➂個人が携帯電話を所有し始めるという風に段階的発展をたどると以前は考えられていた。インドの場合、①、②の段階を飛ばし、いきなり➂の段階に到達する。

そもそもインドの農村に行くと電気が通っていなかったりする。そんな中、一から電話線を引き出すコストをかけるより先に➂の段階に移行してしまう。そのほうが安いしパフォーマンスも高い。何も作られていないが故に新しいものを受け入れやすい。何も作られていなかったが故に、企業間の利権争いとか既存の法規制に縛られることもないので導入ハードルも低い。 (日本でuberが歓迎されないのとかいい例)

さらにこの流れは派生する。
インドにはATMや金融機関の数が人口当たりにして少ない。すると、①現金を引き出す文化→②キャッシュレス文化という段階もいきなり②に到達する。
EV車でも、医療分野でも同様の流れが起きている。ポータブル診療がもう普及してくる。あっという間に最先端に到達するし、そのスピードは日本よりも早い。

インド、本当に早い。

インドに行ったら人生観は変わるのか?

ここまで読んでいただけると、カレーばっかり食ってるインド人という印象は少しくらい変わったであろうか。あと、今は、カレー食うにしても右手でカレー持って左手でスマホ持ってる笑

カオスさで行けば昔よりもカオスさが増しているのかもしれない。貧富の差が拡大し、貧困差が激しくなった。舗装されていな道に動物迂回しながらもそこに向かう店はキャッシュレス決済で屋根はない。家はなくともスマホ持ち、 uberでトゥクトゥクを利用する街の人々。

インドに行ったら人生観は変わるのか?

冒頭で出したこの問い。インドに行って、自分の目で足で感じて、現地の人の話を聞いて回って、確実に意識は変わった。でも人生観はどう変わりうるんだろうか?わからない。だからこの答えは否だと思う。変わった人は、変えることが目的にあるようでないと変わらない。少なくとも今のインドでは。

そんなことより、僕は危機感を植えつけられた。厳しい競争を経て、余裕で日本の経済水準を超える未来がありありと想像できた。だから、帰国してから生活の中でITのことも勉強する時間が増えた。あれ、もしかしてこういうことが人生観が変わったってこと?

物事をフラットな視点で見るということは難しい。でも、できる限りフラットに見る努力はしなければならない。だから勉強する必要があるし、柔軟である必要がある。以上、日本ではまだまだ古いイメージが強く残っちゃってるハイテク国家インドについて語ってみました。

最後に

インド、まじで面白い国だと思う。めちゃくちゃ話しかけてくるし、めちゃくちゃ牛いるし、めちゃくちゃスパイス好きだし笑

ヴァラナシで見た光景も忘れらんないなぁ〜。みんな服のまま朝5時から川に入っていくんだもん。ヒンドゥー教ってマジわかんね〜って思ったし、こりゃ宗教が発端で人が殺しあってしまうほどの信念なんだろうなって。わかりあえたら宗教の違いで戦争とか起きないもんね。あと、夜の儀式も終始わかんなかった。

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あと、スラムで見た風景も忘れらんないなぁ〜。俺、スラムにいる子供たちの笑顔に逆に元気もらえたもん。彼らを支援することって、こっちのエゴの押し付けではないよねなんて考えさせられたり。

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まあ、ほんまに刺激の多い国。他にも紹介したいことはたくさんあるや笑
インド好きの人、今度語りましょう笑

長々と読んでくれてありがとうございました! 


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