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なぜぼくたちはREALITYをつくったのか〜あるいは新規事業の舞台裏〜(後編)

前編ではシンギュラリティビジョンに影響を受けてVR事業を立ち上げたところまで書きました。
後編ではようやく本題のWFLEとREALITYについて書いていきたいと思います。

Vtuberとの出会い、VRChatの隆盛

2017年にとあるYouTube動画に出会います。

「2次元キャラなのにほんとにYouTuberやってるし、圧倒的にかわいいし、なんなんこれ完璧じゃん・・」と素直に感動したんですが、とはいえ当時は新しい切り口の動画コンテンツだなぁ、程度の認識にとどまっていました。

その後2017年秋、当社の投資先の1社であるVRChatが爆発的に伸び始めているということに気づきます。

(ソーシャル系VRサービスの同時接続数)

久方ぶりにVRChatにログインしてみるとケモミミ美少女やアイアンマン、九尾の妖狐なんかがわちゃわちゃ楽しんでいてぼくを取り囲みます。そしてクラブに足を運んでみたらDJがパフォーマンスして多くの人が踊っていて、隅っこの方でイチャイチャしている美少女カップルに気づいていないフリをしながらビールを飲みおしゃべりする客がいたり(わかる)と、そこはまさに現実社会だったのでした。

(その夜そのクラブでいちばん注目を集めていたダンサー(かわいい))

アバターによる仮想世界は20年以上前からありいくつか参加したこともありますが、VRと組み合わさったことで初めてそこが本当に現実だと体感できたのです。

今後VRやARを体験できるハードがもっと小型化し安価になり普及したら、この「現実感」を味わう人が爆発的に増える。その時代にユーザーはみな今のSNSのようにちいさいプロフィール画像とニックネームだけで自分を表し交流するだろうか?

そんなわけはない、カラダが、アバターが必要だろ・・・・。

(ということで3Dモデルを買って作ってみた初のVRchat用アバター)

Vtuberのカンブリア爆発

2017年12月、ミライアカリちゃんやシロちゃん、輝夜月ちゃん、そして衝撃のねこますさんデビューなどが重なり一気にVtuberが注目を集めはじめました。そんな折、ホロライブ運営のカバーさんに遊びに行かせてもらい、ときのそらちゃんの生放送を見学させてもらう機会に恵まれます。(スタジオ内ではなく、スタッフさんのエリアにいました)

(当時のときのそらちゃん。衣装や顔がいまとちょっと違う)

YouTube越しにファンの声に耳を傾け、笑ったり戸惑ったりまじめに応えたりするそらちゃん。今日はクリスマスだから特別だよといいながらサンタ衣装にチェンジするそらちゃん。何をしてもとにかくかわいいそらちゃん。

(そこに天使がいた)

かわいいそらちゃんを見ながら、一気にいろんなアイディアが脳内を飛び交います。

これはなんだ?!見た目はアニメやゲームのキャラクターだけど、今スクリーンに写っている女の子は確かに僕の言葉を聞いて、そして答えてくれる。名前を呼んでくれる。

この子は生きていて、たしかに今ここにいて、夢を掴み取ろうと毎日努力している!

これまで歌手や俳優になるためには歌唱力や演技力に加えて本人のビジュアルが確実に重視されていたけど、その部分をCGで置き換えられるなら、世の中に存在する才能の数は数十倍、数百倍に膨らむのでは・・?!

いや、歌手や俳優みたいに特別な才能だってなくても構わない。
このバーチャルYoutuberと呼ばれる人たちは、今後多くの人類がアバターを持って電子現実で活動していく時代を先取りして僕たちに見せてくれている、ロールモデルなのでは。。

かつてWebサイトは専門知識を持つ一握りの人しか作れなかったけどブログやSNSの登場で誰もが情報の発信者になったのと同じように、今は特殊な技術や設備が必要なバーチャルYouTuberも、今後誰もが簡単にアバターを持つことができるようになれば、ネットとアバターを使って誰もが「なりたい自分で生きていく」ことができる時代が来るのでは・・?

そういう時代が来るのなら、誰かがそれを作ってくれるのを待つのではなく、自分たちで作りたい。

(社内向けキックオフ資料より)

Vtuber事業の立ち上げ

その晩、一人脳内ブレストを行い、来たるべきアバター時代を見据え誰もがスマホだけでなりたい自分になってアバターでコミュニケーションできるライブ配信サービス、という事業構想メモを書き上げました。(グリー代表の田中さんからもVtuber事業についてのサービスアイディアがチャットでバンバン飛んできてたので、それもちゃんと盛り込みます)

(当時の構想メモから一部抜粋)

そして翌日、2017年最後の経営会議(グリーでは毎週、役員が集まる経営会議があります)でそらちゃんの話や事業構想について経営陣とディスカッションを行いました。

「いいじゃん」「これはうちっぽい事業だね」「やろうやろう」ということであっさりやることが決まりました。
時として勢いと軽率さは大切です。

そこから年末年始の休みの間に事業計画やアクションプランをまとめて、2018年明けて早々に(勝手に選抜した)メンバーを集めてキックオフを行います。
アニメやゲームのライセンスビジネスを担当してきたベテランのOさんをビジネス系責任者に、GREE VR Studioの責任者を努めていたEさんを開発系責任者にお願いし、GREE VR Studioの主要メンバーや当時内定者インターンだった学生なんかも含めて7−8人の準備チームを組成し、技術検証や他企業との協業、投資やM&Aも含めて事業立ち上げの準備に取り掛かります。

(新規事業の立ち上げってバンドぽい)

今振り返れば、こういう時にそれまでやってたプロジェクトから離れ、新しいミッションに燃えて即座にパフォーマンスを出し始める人が多いのがうちの会社のすごいところだなぁと思うし、集まってくれた初期メンバーには本当に感謝するばかりです。
とくにGREE VR Studioのメンバーは、VRも思いつきと無茶振りから始まった事業なのに今度はVtuber事業にピボットしてREALITYの基盤となるコアテクノロジーを作ったりしてて、本当にすごい。

(余談)大きな会社で新規事業を立ち上げるということ

この立ち上げをやっている時に意識していたのは、自分たちの強みを活かす、ということです。

大企業での新規事業というと他部署調整が大変とか社内プロセスが面倒とかでうまくいかないみたいな話がよく聞かれるし、そういうのに嫌気がさして起業するというのもよく見るんですが、冷静に自分の置かれた環境を客観視すると、
・会社の現預金が800億円くらいあって(当時たしかそんくらい)、
・自分が取締役で、多分そのうち100億200億くらいは合理的な目的なら使わせてもらえそうで、
・自分の組織に数百名のゲーム・VRの開発部門を持っていて、
・ということは優秀な3DアーティストもVR技術者もサウンドクリエイターもいて、
・なのでいざなにかやるとなったら精鋭チームをパッと揃えられて、
・通信キャリア、ゲーム、アニメ、音楽、TV局などネット・エンタメ系の主要各社と協業できる関係性もある
って、めちゃめちゃ恵まれているなということです。

(最初からドリームチームでバンド組めたりする)

上記のうちの1つを手に入れることですらとっても大変なので、こういう強みを自覚して活かすやり方をしないともったいないなーと。。

ただネット産業の面白いところは、こうした強みをうまく使ったからといって勝てるわけではない、ってことなんですけどね。

Wright Flyer Live Entertainmentの設立と100億投資宣言の舞台裏

数人のチームでサービス企画や技術開発・自社Vtuber立ち上げ準備を進めていく中で、この事業を専業子会社にして運営しようということになりました。

(社内承認用資料はこのスライドから始まります)

また、気づいたらグリーグループにおいてそれまでやってきたゲーム事業と広告メディア事業に加えてこの事業をコア事業として3本の柱にしようぜってことになってました。
まだ何も出してない事業なのにそれでいいんかいなとは正直思いました。

(2018年6月期第3四半期決算説明資料より。第3の柱はまだ存在しない)

でもまあこんだけ気合入ってるし、子会社設立に合わせて社員採用や他社さんとの協業をさらに加速するためにも、ぼくたちは本気で腰を据えてこの事業に取り組んでいくのだ、という事がわかるように対外PRしようと考えます。

これがスタートアップなら自分たちに有利な状況になるまでできるだけ誰にも何も言わずにステルスで進めるのが良いと思いますが、ぼくたちは大きな企業でなおかつ他社さんとも連携して事業を立ち上げようとしていたのでどうせすぐにバレるし、業界全体が盛り上がってる感を出した方が参入企業も増えて活性化していいかなと思ったのです。

そこで
・Vtuber専業の子会社を設立し参入する
・総額〇〇億円を投資する予定
という骨子で発表しようと考えました。
そこで「総額〇〇億円」がいくらくらいかなと手元でざっくり試算してみたのですが、どのくらいざっくりかというと、当時の社内資料を発掘したらこんな感じでした↓

(ToDo: じゃねえよ)

確かそれが3年で総額60億か70億くらいだったので、経営会議で「総額60−70億くらい投資しますって言おうかと思うんですが」と話したら、田中さんからも財務担当役員からも「中途半端はよくない。四捨五入して100億にしよう」と言われたので、あっハイ、ということで100億になりました。

で、こうなったというわけです↓

(もちろん100億円投資すると発表するからには、それを回収できる事業計画も内部的には作りました)

REALITYの開発からリリースまで

そんなこんなで、4月に参入を発表した後に急ピッチでもろもろ準備して、
・5月にREALITY開発チームが組成され、一気に開発を開始
・6月にはVtuber専用スタジオREALITY Studio Tokyoをオープン、KMNZやすーぱーそに子のデビュー
・7月には地上波初のVtuberオンリー番組Virtual Buzz Talk放映開始
・8月にREALITYリリース&いろんな提携案件を発表
という感じで一気に駆け抜けました。

なお8月のREALITYリリース当日に記者発表会を行ったのですが、実を言うと、発表すべき案件の仕込みが多すぎて、バラバラと発表すると大変だし意味も伝わりにくいから1つの戦略発表会にまとめちゃおうというのがそもそもの発端だったりします。

また記者発表会のプレゼンを作りながら、「なんかソフトバンクあたりの発表ならここらででっかく0円とか書かれたスライドが出てくる気がするな」とふと思ったので、「手数料0%、制作費0円、売上2倍」というスライドを書いてみたらしっくりきたのですよね。そこで急遽ソロバンはじいて関係各所と調整した上でこのキャンペーンをやることにしました。

これ、いきあたりばったりに聞こえるかもしれませんが、後から振り返ると正しかったなぁと思います。

Amazonは経営会議に何らかの新規サービスの提案を持っていくときはまずプレスリリース原稿を書いてきてそれをみんなで読むところからスタートするといいますが、同じですね。
最終的に消費者の目に触れた時にどのように見えるのか、何が価値なのか、というのはプレスリリースや記者発表会のプレゼンを作ればわかるので、それを実現するように事業を作っていけばいいわけです。

逆に最終的な見栄えを考えずに内部的な論理で作っていくとよくわからないものができあがります。
最初にプレスリリースを書くのおすすめです。

最後に

そんなわけで最後は駆け足になりましたが、こんなことを考えながらWFLEとREALITYを立ち上げてきたんだよという話でした。

まだまだ会社としてもサービスとしても始まったばかりだし未熟ですが、僕たちがいたことでシンギュラリティの到来早まったよねー日本まじキテるわー未来だわー と言ってもらえるように、引き続きみなさまと一緒に頑張っていきたいとおもいます!

いっしょに働く仲間も絶賛募集中なので、興味ある方はぜひ!うちの社員はほんとうに魅力的で優秀でVtuberオタクでさいこうですよ!


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