「日本のAI活用: データを武器に新たな社会を築くチャンスとリスク」塩崎彰久衆議院議員
衆議院議員の塩崎彰久と申します。2023年のNSCC東京で講演を行うことになり、この機会をいただき大変光栄に思います。現在私は自民党のAIの進化と実装に関するプロジェクトチームの事務局長を務めています。プロジェクトチームで進めてきた取り組みが形になっていく過程を見ることは非常に価値ある体験でした。
このプロジェクトの成果の一つとして、提言を発表してから50日でG7でそれが国際公約となるという経験がありました。その中で我々が作成したAIホワイトペーパーが初めての政策提言であり、表紙も含めてすべてAIによって作成されました。
私たちの提言では、生成AIの登場によって大きく変わってきているAIと政策のあり方を強調しました。この新たな技術は経済だけでなく、働き方、社会の構造、そして社会全体に大きな変革をもたらすでしょう。そこで、既存のAIの進化をただ伸ばすのではなく、新しい国家戦略を作成し直すべきだと我々は提言しました。
その10日後、OpenAIのサム・アルトマンさんが日本を訪れました。彼は私たちのAIホワイトペーパーを詳細に読み込んでいて、日本人が世界で最も頻繁にチャットGPTを使用していると教えてくれました。彼は日本の対応に感銘を受けており、日本がこの新しい技術のリーダーとなるチャンスがあると語りました。
そして1か月後、私たちは岸田総理にAIホワイトペーパーを提出しました。イタリアがGPTを禁止し、イーロン・マスク氏がAIの研究を止めるよう訴えている中、日本がAIの主導権を握るチャンスがあると我々は強調しました。
その後の5月19日には、広島G7の一環として、「広島AIプロセス」が提唱されました。これはG7各国が新しいAIをどのように民主的に、責任をもって使っていくかについてのルール作りのプラットフォームとなるものです。
今後は、この広島プロセスを通じて各国が力を合わせて議論し、新たなルールを作っていくことになります。そして政府内でも、今年の重要政策の一部として、どのようにAIを取り入れるかについての議論が現在進行中です。
さて、私たちがAIホワイトペーパーで取り組んだ具体的な議論について少し説明させていただきます。
私たちがAIホワイトペーパーを作成している際、最も頻繁に受けた質問は「なぜ日本全体で力を合わせて国産のAIを作らないのか?」でした。この質問の背景には、競争力を持つためには日本独自の強力なAI技術が必要だという思いがありました。しかし、私たちは別の結論に達しました。その結論とは、「もう一つの“戦艦ヤマト”を作らない」というものでした。
この意見は、AIの進化の方向性に関する不確実性を認識してのものでした。AIの進化は速く、その進行方向はまだ誰も明確には理解できていません。このような不確実性の高い状況で国の予算と将来を賭けることは、責任を果たせないと感じました。
これからのAIの進化について、いくつかのシナリオが考えられます。一つは、一つの企業が圧倒的なシェアを獲得するモデルです。たとえば、OpenAIのGPTが全体を支配するという形です。しかし、それ以外にも異なるモデルが存在します。新しい技術が出現した際に、二つの極端なモデルが世界を二分する可能性もあります。スマートフォンのOSで見られる、AppleのiOSとオープンソースのAndroidのようにです。
さらには、いろんな国ごとに新しいモデルが出てくるという他局モデルも考えられます。どのモデルが現実になるかは現時点では誰にも分からない状況です。それでも私たちは、この多様なシナリオの中で日本がどのような戦略を取るべきかを決定しなければならないと考えました。
その結論は、まずは徹底的に既存のAIを活用しましょう、というものでした。先行している海外のAIを基盤にし、パートナーシップを組む形で、国内でも基盤モデルを用いてさまざまな応用研究開発を加速させることが重要だと考えました。その上で、将来的には国産のAI開発の余地も生まれてくるかもしれません。
では、この未確定な未来の中で日本はどのように戦っていくべきなのか。私たちは、対等な条件で直接競争するのではなく、自分たちの長所を活用し、戦略的に戦うべきだと考えました。例えば、大規模な計算資源が必要なAIモデルではなく、それほど大きな計算資源が必要ない分野で勝負すべきだと考えています。
そのためにも、私たちは日本政府として、産業技術総合研究所(産総研)の計算資源を増やし、皆さんが自由に利用できるような政策を進めることを検討しています。
日本独自のデータは我々にとっての強みであり、その活用は無限の可能性を秘めています。国立図書館には著作権が切れた38万点以上のデータがデジタル化されており、これらを利用すればAIモデルを日本語に最適化することが可能です。また、各企業が保有する固有のデータも新たな価値を生み出す源泉となります。ビッグデータが金銭的価値を持つ時代が到来しており、これらのデータを活用して新しいビジネスモデルを生み出すことが求められています。
日本特有の社会課題に対するAIの活用も重要なテーマです。例えば、高齢化問題に対してはAIを活用して孤独な高齢者の話し相手になるなどの提案があります。また、労働力不足の問題に対しては、働き方改革を進め効率化を図ることも可能です。外国人労働者の受け入れに関する政治的な抵抗がある中、AIを用いた自動翻訳を活用し言葉の壁を越えることで、我々は新たな社会を作り出せるでしょう。
しかし、AIの活用にはリスクも存在します。AIが悪用されたり、民主主義プロセスに影響を与えたりする可能性もあるため、これらに対応するための戦略が必要です。現在、政府内部でAI戦略チームが立ち上げられ、AIに対するガバナンス、リスク対応、適切な規制についての議論が進められています。
我々はAIを活用することで大きなチャンスを得ることができます。そして政府もその推進を全力で支持しています。これが今日伝えたいメッセージです。