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進化したAIをどうビジネスに活用する?

(伊藤穣一):
こんにちは、伊藤穣一です。先日Appleからビジョンプロが発表されましたね。一時は下火になっていたメタバースが再び熱を帯びているような感じがします。しかし、AppleはMacやiPhoneの大画面利用による空間コンピューティングを目指しているため、VRやメタバースに関心が無いという意見もありますね。奥井さん、今後VRとメタバースが生き残れると思いますか?

(奥井奈々):
私はVRについては1992年頃から関わってきて、その間に何度もトレンドが上下してきました。そのたびに「これで本当に皆が取り組むのか?」という疑問が浮かび上がります。それについての答えはまだ出ていないと感じています。Appleの最新製品について考えると、彼らがメタバースという言葉を一度も使用しないのが印象的で、これと対比するようにFacebookは自社をメタにリネームしたという事実があります。

Appleの製品は高価ですね、3500ドルという価格は、他のプレーヤーとは違うアプローチを示しています。面白いことに、Appleは最低限のスペックでも高価になってしまうと考えている一方で、Surface Bookなど他の製品は「誰もが購入できる価格で、可能な限りのスペック」を目指していると感じています。

(奥井奈々):
そして、メタバースについても考えてみると、メタバースの定義は様々ですが、共通していえることはそれがゲームや共有空間などのアプリケーションであるということです。Facebookはそれがメインで、一方Appleはそれをただの一つのアプリケーションと位置づけているように感じます。

Appleの目指すところは、デスクトップやMacで行っていること、つまりエンターテイメントや映画なども含むリアルな世界を、大きなスクリーンで表現することではないかと思います。それに対し、Facebookはゲーム機の中に自分が入り込むような感じで、その狙いも異なっています。

それでも、Appleがこの分野に参入したことは、メタバース関係者にとってはポジティブな動きだと思います。ただし、FacebookとAppleは、同じ目指す方向には向かっているとは言え、戦略的には大きく異なるように感じます。

(伊藤穣一):
それでは、Facebookがメタバース空間を目指しているのであれば、Appleが真逆を目指しているとは具体的にどういうことなのでしょうか?

(奥井奈々):
Facebookはゲームやソーシャルツールとしてのメタバースを目指しています。それに対して、Appleは全く新しいコンピューターのあり方、つまりバーチャルリアリティよりもリアルワールドにコンピューターが浮遊しているような感じを提供したいと考えています。また、AppleのVision Proが面白いと感じた点は、Macの画面を視線だけで動かせるという点です。例えば、子育て中のママであれば、赤ちゃんを抱きながらでも視線だけで作業ができるというのは素晴らしいと思います。

(奥井奈々):
ゲームプラットフォームのサンドボックスのACEOのゴルチェさんは、Vision Proはメタバースと競合するものではなく、新しいデバイスとして私たちの既成概念を打破する可能性があると言っていました。

(奥井奈々):
今月のテーマはAIのツールが仮想空間やアバターの設計を簡単にし、メタバースへの参入障壁を下げ、人口流入を加速させることについてですが、伊藤さんはどう思いますか?

(伊藤穣一):
確かにAIは仮想空間の作成コストを下げる大きな役割を果たしています。特にゲーム開発用のプラットフォームが登場し、Appleも市場に参入していることで、より多くの人々がメタバースに参加するようになりました。

(奥井奈々):
その通りですね。また、私たちはサンドボックスにも投資しています。日本代表として元ライフネット生命の岩瀬大輔さんが就任したというニュースも聞きました。彼は私が就職活動時に読んだ本の著者で、当時の新卒者たちは皆彼の本を読んでいました。

(伊藤穣一):
私自身も岩瀬さんとは長い関係があります。彼の前の会社でアドバイザーを務めていたり、彼がニモカブランズの代表になったときには役員になったりと、結構関わりが深いです。また、彼がサンドボックスに関与してからも、彼らのチームとは度々会い、話をしています。

(奥井奈々):
それはとても興味深いですね。岩瀬さんは元々ネットの力で生命保険業界を変え、今ではサンドボックスで新たな挑戦をしているようです。岩瀬さんをゲストに呼びたいと思いますが、伊藤さんはどう思いますか?

(伊藤穣一):
私も岩瀬さんを呼ぶことに賛成です。彼の話は非常に面白いと思います。

(奥井奈々):
それは楽しみですね。さて、今月は「AIとビジネスの可能性」についてお話しています。リスナーからも多くのメッセージが寄せられていて、その中にはAIの可能性について色々な意見や感想が書かれています。

あるリスナーは、メンバーの多様性がAIによる革新を推進すると感じているようです。また別のリスナーは、AIを現場の新メンバーとして扱い、一緒に成長していくことが重要だと述べています。

(伊藤穣一):
その意見は非常に面白いですね。AIを育てるという観点は、子育てとも共通点があると感じます。

(奥井奈々):
伊藤さんは、この視点についてどう思いますか?

(伊藤穣一):
AIの医療への適用について話しますね。例えば、AIが骨折などの画像診断を行う場合、その結果を医師に提示するという方法があります。しかし、このアプローチは、医師が「なぜ私がこれを見つけられなかったのだろう」と感じる場合があります。そこで、我々はインターフェースをスペルチェックのように考えてみると、医師が診断の前に「ここはどうでしょうか?」とAIに聞くことができるのです。これはAIが上から目線で接するのではなく、むしろサポートする側からのアプローチとなります。これは、AIがタマゴッチのように育てるという視点と共通するもので、こういう形でAIを学習させるのは、面白いと思います。

(奥井奈々):
なるほど、AIの役割をサポートからデシジョンメイキングまで広げることで、AIの利用が更に加速する可能性があると感じます。例えば、ファンドの役員の代わりにAIを用いるなど、すでにそのような実験が行われていることも聞きます。しかし、政治家のデシジョンメイキングをAIが行うことについてはどう思いますか?

(伊藤穣一):
私は、AIが意思決定を行うことには懐疑的です。意思決定には倫理的な観点が必要で、例えば高齢者を優先するか子供を優先するかなどの問題は、答えが一つではないですから。また、政治家がすべての人々を代表する立場から意思決定を行うべきだと考えています。

(奥井奈々):
それは興味深い観点ですね。あなたの意見では、AIがすべての人々の意見をまとめ、それを代表して意思決定を行うという形は許容されるのでしょうか?

(伊藤穣一):
それは可能性としてはありますね。ただし、AIが結論を出すのではなく、意思決定の過程をサポートする形が良いと思います。例えば、合理的な判断が可能な問題に対しては、AIの意思決定を許容すること

(伊藤穣一):みんなAIについて混乱していますね。特に、どのように進めば良いのかが混乱の元となっています。ヨーロッパは進みすぎて強すぎるかもしれませんし、アメリカは少し遅れているように見えます。しかし、どうなるかはまだ誰にも分かりません。そのインパクトも分からず、技術の未来も不確定です。特に、一度設定したルールを変更できない日本は厳しい状況にあると思います。ですが、現状のポジションは良いので、着陸することが重要です。多様なAIの進展を見つつ、そのスピードを管理していくべきだと思います。

私たちは学びながら実験を続けるべきで、それが最も重要だと思います。白咲さんとのスピーチでは、時間が足りずに話せなかった部分がありました。それは国内のAIに対するガバナンス、リスク対応、規制の在り方についての話です。

私たちは、巨大なリスクと日常的なバイアスや公正性の問題を区別しなければなりません。巨大なリスクは、国際的な対応が必要です。遺伝子工学や核兵器に対する国際条約のようなものが必要です。しかし、日常的なバイアスやディスインフォメーションは、過去の問題から学ぶべきです。しかし、倫理や法律は遅れており、理解できる人を育て、AIを使って実験し、その結果を一般の人々に理解してもらうことが重要です。

フェアネスの問題は昔から存在し、その解決には時間と労力が必要です。AIの発展は、これらの問題をさらに複雑にします。それに対応するためには、ディスカッションを通じて社会全体で問題を理解し、解決策を探す必要があります。

さらに、ディスインフォメーションが広がり、それがリアルに見えるようになっています。これは選挙において特に問題となります。これらの問題をどのように対処すべきかは、現在活発に議論されています。

(奥井奈々):人々は自分が知りたい情報、見たい情報しか見ませんよね。トランプ支持者が彼が発信する明らかなフェイクニュースを信じるなんてこともあります。ここで問題になるのは、個々の人がどのように警戒したり、対策を講じたりするべきか、ということです。フェアな情報やフェイクニュースに対する予防策を、一人ひとりが考えなければなりません。AIの進化により、ビジュアルとしてもフェイクニュースを流すことが容易になってしまいました。そのため、私たちはどのように対策を講じ、注意を払うべきなのでしょうか?

(伊藤穣一):スパムや詐欺メールなどについては、最近では直感的に見分けられるようになってきました。しかし、まだ直感が働かず、詐欺に陥ってしまう人もいます。これに対処するためには、リテラシーを上げることが必要です。そのためのツールやスパムフィルターなどもあります。フェイクニュースについても、本物と似ている「フィンガープリント」を見分けることが可能です。しかし、それを信じたい人は信じてしまうため、被害は避けられません。そのため、私たちはツールを作る人たちに、このようなものを見分ける機能が必要だと要望を出すべきです。それには、ユーザー自身が「これが見分けられる機能が欲しい」と声を上げることが必要です。

(奥井奈々):次に、リスナーからAIとビジネスに関する質問があります。最初の質問は、「AIが経営し、AIが仕事をする会社があればいい」というものです。この質問者の方は、AIが経営すれば人件費が削減でき、面倒な人間関係を気にすることもなくなると考えているようです。しかし、AIが経営するということが実際に可能だと思いますか?

(リスナー):AIが経営する会社、つまりAIがプロジェクトの全体を管理するというのは実現可能だと思います。しかし、上場企業が行うような、多くの株主や社会の期待を組み込んだ経営は、AIには難しいと思います。これは、経営とはただ最適化を図るだけではなく、人間的な判断が必要だからです。そのため、私は通常の会社の経営をAIが行うことはないと考えています。しかし、会社に似たようなプロジェクトが自動化され、それが今まで会社が行っていたような事業を引き継ぐということはあり得ると思います。これについては人により意見は分かれると思いますが、私の考えとしては、人間が判断を行い、その判断を効率的にこなすためにAIをサポートツールとして使うべきだと思います。

だからこそ、本来会社は社会を考えて行動すべきなのに、金銭的な最適化だけを考える会社が多いとすれば、その点についてはAIの方が上手にできると思います。しかしながら、会社とは倫理的な判断もできるべき存在であり、それはAIには難しい部分です。だから私は、会社経営は人間が行うべきだと思います。もっとも恐ろしいのは、人間がAIの指示に従うようになることです。たとえば、ウーバーのアプリはAIのように動作し、運転手たちは自由度がないと言われています。だからこそ、AIが上に立ち、その下に人間がついていくような構造は、私たちが求めている幸せとは違うと思います。

私の願いとしては、AIが具体的なコードを書いたり、会社名の候補を出したりするだけではなく、「何をすれば、自分たちのビジョンが実現し、世界が幸せになるのか」というような視点からの提案もできるようになってほしいと思っています。

(伊藤穣一):人間社会では、可能性があるにも関わらず行動しないことがたくさんありますよね。それらにプッシュすることが重要だと思います。

(奥井奈南):確かにそうですね。私自身も新しいテクノロジーが大好きで、毎日ChatGPTやMitJourneyに触れています。しかしこれが私の仕事に結びつくかどうかはまだ分からないところもあります。そのため、スティーブジョブズの言葉、「connecting the dots」のように、触れ続けることが良いのか疑問があります。

(伊藤穣一):私は絶対に触れ続けるべきだと思います。ただし、ただ触れるだけではなく、何をしているのかも重要です。自分の成長やつながりに繋がるような使い方が必要だと思います。

(奥井奈南):それは同感ですね。私のおばあちゃんがChatGPTを使っていて、その質問がとても可愛らしかったんですよ。彼女は本気でAIとやり取りをしていました。それが防止に役立つと思って、もっと多くのお年寄りにもChatGPTを使ってほしいと思いました。

(伊藤穣一):それは素晴らしいですね。最後に、ヒット商品を生むためのジョブ理論というものが話題になっていますが、消費者のニーズを掘り起こすツールとして生成AIは厳しいと思いますか?

(奥井奈南):GPTは特定のAIで、パターンを認識したり、顧客のニーズを見るために使えなくはないかもしれませんが、最も適切なツールではないかもしれません。ただし、Amazonのレビューを自然言語認識して解析し、それをAIで出力するといった使い方は可能だと思います。

(伊藤穣一):それは理解しました。しかし、新しいアイディアを生み出すという観点からは、生成AIはなかなか難しいのかなと思います。

(奥井奈南):確かに、例えばiPhoneのような新商品を生み出すのは難しいでしょう。しかし、Amazonのレビューを見て必要な商品を作り出すということは可能だと思います。

(伊藤穣一):そのようなマーケティング手法を積極的に使うべきだと思いますか?

(奥井奈南):現在のChatGPTは一部しか活用されていないと思います。それは、プロダクト開発の人々が新しいアイデアを生み出す際に、GPTがクリエイティビティを刺激し、様々な面白いアイデアを出してくれると思うからです。ただし、全てをGPTに任せることはできません。

(伊藤穣一):私たちはGPTを用いてクリエイティビティを活性化させるべきですね。中長期的には、GPTが自動的に顧客を観察し、新しいプロダクトのアイディアを出してくれるようなシステムが生まれてくると思います。それが例えばイーロン・マスクのように面白い考えをもたらすかはまだ分からないけど、可能性はあると思います。

(奥井奈南):そうですね、それは楽しみです。

(伊藤穣一):AIの時代に入り、日本独特のスピリットが世界中で注目されている気がしています。そこでグローバルに受け入れられる「日本人らしさ」って何だと思いますか?それを世界に広めたいと考えています。皆さんが思うポジティブな「日本人らしさ」を教えてください。

(伊藤穣一):そうですね、私も一生懸命考えています。皆さんの意見が楽しみです。それでは、今日は以上となります。ありがとうございました。


伊藤 穰一:日本のベンチャーキャピタリスト、実業家。 元マサチューセッツ工科大学教授・元MITメディアラボ所長、元ハーバード・ロースクール客員教授。千葉工業大学変革センターセンター長。

奥井奈南:1993年淡路島出身。2018年にNewsPicks番組オーディションで選抜され、ビジネス番組を中心に番組キャスター、Podcastパーソナリティ、企業やブランドのスポークスパーソンとしても活動。一児の母。

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