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保険証の不正利用と闘う:デジタル時代の新しい課題と解決策 【高橋洋一】

問題の続発しているマイナンバーカードについて、岸田さんも何とかしたいと言っています。特に混乱が見られるのは紐付けという部分で、さらに問題を増幅しているのが保健所です。具体的には、保健所の情報がマイナンバーと紐づけられ、保険証を廃止してすべてをマイナンバーに移行するという議論が並行して進行しています。

初めて提唱された公金口座のマイナンバーへのリンクは、全ての人に対して必要なものではありません。なので、厳しい言葉を使うなら、公金口座へのリンクは不要であり、マイナンバー取得も不要な人は多いです。この問題の最終的な解決策は、予想されるトラブルに対して単純に公金口座のリンクを行わず、マイナンバーを取得しないことです。そして、公金口座のリンクについては、実際の支払いが行われるまでに問題が生じるわけではないため、それほど深刻な話ではないと思います。

一方で、深刻な問題となっているのは保険証のマイナンバーへの移行です。以前は、既存の保険証とマイナンバー両方を保持するという方式でしたが、その方針を改め、すべてをマイナンバーに移行するという提案になったところ、反対意見が増えています。

この保険証をマイナンバーに移行する理由について政府からの説明が不十分です。現在の保健所発行の保険証は、顔写真がなく、通名でも発行が可能です。地上波で「通名OK」を公言すると、これをやめてほしいとの声が大きくなります。これは、通名で保健所を利用し、色々な活動を行っている人が多いからです。

各自治体のホームページを確認しても、外国人が通名で保健所利用可能な場所は数多く存在します。しかし、マイナンバーに移行すると、このような通名利用が不可能になり、実名制となるため、本名での利用となります。

また、顔写真が付いたマイナンバーカードに移行することで、保健所の保険証の不正な貸し借りを防ぐことができます。例えば、外国人同士が保険証を貸し借りして、扶養家族も連れて来て、他人の保険証で医療活動を行うことがあります。その結果、本人の負担が高額医療費になるか、保険組合が負担するという状況が生まれています。

このような問題を指摘しようとすると、困難な反応が返ってくることも多いです。これはテレビ局や地上波で取り上げられにくい問題であり、それを指摘しようとすると、攻撃的な反応が返ってくることがあるからです。

しかし、この問題を指摘し、議論することで、保険証の問題を解決することが目指されています。ただし、議論が複雑化しています。最初に述べたように、全てをマイナンバー保険証に移行し、従来の保険証を廃止する提案に対しては、新しいシステムに対応できない人も出てきます。そのような人々が「なぜ私にこんな負担を強いるのか」と問うのは、当然の反応と言えます。

全てを一律に進行させようとすると、必ずと言っていいほど不正利用者が存在します。彼らは、善良な人々を利用し、彼らの行動を隠れ蓑にしているのです。それが、なかなか厄介な問題です。

どのようにこれを対処するかは大変な問題ではありますが、私自身は、不正利用者を特定する意欲はある一方で、全くできない人々へは手厚い援助を与えるべきだと考えています。

具体的な手段としては、一つにはインターネットを活用する方法があります。私が言う「全くできない人々」とは、例えば「紐付け間違い」を起こしてしまった人々のことです。健康保険組合が誤って人々を紐づけてしまうことがあり、そういった人々が不正利用者によって利用されてしまうのです。この問題は、7000件程度存在しており、保険金の総額が一億万円だとすると、その中の7000件というのは、宝くじで10万円が当たるようなものです。

そのため、誤った紐付けがされてしまった人々には、自分でインターネットを用いて情報を確認するようにすることが必要です。それを支援するために、検索システムを構築し、間違った情報を発見した人々に対しては1万円の報酬を提供します。こうすると、それが効果的なインセンティブとなり、必死になって取り組む人々が出てくるでしょう。

その結果、全く情報を返せない人々が浮き彫りになりますが、彼らの不満も一定程度は吸収できると思います。また、誤りがあった場合には、適切に謝罪し、それに対する金銭的な補償も行います。そうすれば、問題を終わらせることができます。

それでもまだ文句を言う人々に対しては、具体的な対策を立てることが必要です。そういった人々を特定し、必要な対策を取ることがポイントです。

また、最悪の場合、プロジェクトを一年延期するという選択肢もあります。少々時間をかけてでも、問題を解決することが重要だと思います。そのためには、様々な視点から柔軟に考えることが必要です。

私がこのような視点を持つ理由は、昔、税務署長を務めていた経験から来ています。その頃、地方自治体の職員が納税者の書類を税務署で作成していました。しかし、ヒューマンエラーは避けられません。その時、私は地方の税務署の職員を叱り、納税者を厳しく対処するような行動はやめさせました。

その結果、少々税金が少なくなったとしても、それはある種のラッキーとして、その問題を終わらせることができました。その経験から、私はこう考えます。ある一定の誤解やミスは、政府のミスとして謝罪することで、納得させることが可能だと。

ただし、不正利用者に対しては厳しく対処することが重要です。それが、この大きなプロジェクトを進行させるための必要経費であり、合理的な取り組みだと考えています。こうして、真剣に取り組む人々を助け、一方で不正利用者を排除することが、私が提案する解決策です。


【髙橋洋一】
日本の経済評論家、数量政策学評論家、元大蔵・財務官僚。学位は博士。嘉悦大学大学院ビジネス創造研究科教授、官僚国家日本を変える元官僚の会幹事長、株式会社政策工房代表取締役会長、NPO法人万年野党アドバイザリーボード。評論分野はマクロ経済学、財政政策、金融政策。

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