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ステーブルコイン基盤設立に向けた挑戦| 三菱UFJ信託銀行の齊藤氏

伊藤穣一:今日は伊藤穣一です。

奥井奈南:今日は、奥井です。日本初のステーブルコインを進めている三菱UFJ信託銀行の斎藤達也さんにお越しいただいております。よろしくお願いします。

齊藤達哉:よろしくお願いします。私たちのプロジェクトでは、不動産や飛行機などの資産をデジタル化し、有価証券として発行するというセキュリティトークンの取り扱いを行っています。また、NFT(非代替性トークン)やユーティリティトークンも発行できます。そして、今日の話の主題でもあるステーブルコインについても扱っています。

ステーブルコインには多くの種類がありますが、その一部は法律で「電子決済手段」という名前が与えられています。ステーブルコインの特徴は、一つのコインが一定の価値(例えば一ドル)に固定されている点です。日本では、2022年に法律が制定され、2023年からステーブルコインの使用が開始されました。

また、ステーブルコインはブロックチェーン上で取引が行われるため、一瞬で取引ができます。これは、スマートコントラクトという技術を用いて可能になっています。これにより、既存のインフラを経由せずに直接取引が行えます。

しかし、日本で取引が許可されていないステーブルコインもあります。例えば、テザーやUSDCなどです。これらのステーブルコインは、日本の取引所ではなく海外の取引所を通じてしか取引できませんでした。しかし、新しい法律の施行により、これらのステーブルコインも日本で取り扱えるようになります。

なお、ステーブルコインは、価値が大きく変動しないため、リスクヘッジとしての役割も果たしています。これにより、価値が大きく変動する仮想通貨のリスクを抑えつつ、ブロックチェーンの利便性を享受できるのです。

齊藤達哉:私たちがステーブルコインを発行することにした経緯は、2021年の夏頃から始まります。当時、金融庁と話し合いを始め、自称ステーブルコインと名乗るものが増えていました。これらは一ドル等に価値を連動させていると言いますが、実際には価値が急激に下落する事例が見られました。そういったリスクがある一方で、ステーブルコインの利便性も高いので、これらを規制する必要があると認識しました。この問題は日本だけでなく国際的にも認識されています。

ステーブルコインはブロックチェーンを利用するため、信頼性が非常に大切です。これに対応するため、私たちは信託を活用しています。信託により、発行体が破産してもステーブルコインの価値は守られるという安全性を保証します。この信託を利用して、パーミッションなしにステーブルコインを発行できるようにしました。

奥井奈南:パーミッションレスとパーミッション型とは何ですか?

齊藤達哉:パーミッションレスとパーミッション型とは、ブロックチェーンの種類を示します。パーミッションレスブロックチェーンは誰でもアクセスできるインフラで、国境を越えた取引が可能です。それに対して、パーミッション型ブロックチェーンは特定の人や組織のみがアクセス可能なもので、プライベート型やコンソーシアム型などがあります。これらの区別により、ステーブルコインもパーミッションレス型とパーミッション型に分けられます。

私たちは主にパーミッション型のブロックチェーンを利用して、不動産などの取引を行っています。しかし、パーミッションレス型のステーブルコインも必要です。なぜなら、それなしではweb3.0のエコシステムと接続できず、日本が世界から取り残されてしまう可能性があるからです

斎藤達也:世界では様々なステーブルコインが発行されていますが、日本人がこのエコシステムから取り残されてしまうと、Web 3.0の世界に参加することが難しくなります。だからこそ、私たちはパーミッションレス型のステーブルコインの発行にも取り組んでいるのです。ただ、誰がこの活動を推進するかという問題がありました。私たちは一つにまとめる必要があると考えました。金融庁や自民党など、規制をする立場の方々やWeb3関連の人々がどう考えるべきかという議論が、結果としてこのプロジェクトに繋がっています。

齊藤達哉:そして、去年の11月30日に私たちが事務局として組織したのが、ステーブルコインのプロジェクトです。現在、約160社以上が参加しています。この中には、様々な企業、金融機関、法律事務所などが含まれています。ここで、日本でパーミッション型のステーブルコインをどのようにすべきかという議論を進め、それを公にすることができました。これにより、海外でできることが日本でも可能になりました。これが非常に大きな進歩だと思います。

伊藤穣一:これまで海外で発行されているステーブルコインがそのまま日本で使用できなかったのが、少し先に進んだということですね。

齊藤達哉:そうですね。今まで規制があったため、海外で発行されているステーブルコインを日本で使用することはできませんでした。しかし、この新しい規定により、日本でも規制を満たしたステーブルコインを発行することができるようになりました。これにより、どのタイプのステーブルコインなのか、それがどの程度の利用価値を持つのかということが理解しやすくなります。

伊藤穣一:それはつまり、ステーブルコインを持っていると現金と等価に交換できる、ということですね。

齊藤達哉:そうですね、その保証があります。そのために、多くの銀行がこのプロジェクトに参加しています。銀行がステーブルコインの発行体となり、その銀行がステーブルコインを現金に換金する、という仕組みです。なので、このプロジェクト自体が直接ステーブルコインを発行するのではなく、プラットフォームとして銀行などの金融機関に基盤を提供し、それらの金融機関が具体的にステーブルコインを発行します。

伊藤穣一:これがなぜ重要かというと、例えば市町村のPTAがシステムを作りたい場合、ルールとして5人のうち3人がサインすると決済できる、といったものを設けることが可能です。それが、この団体が信頼されていると認識されるなら、銀行口座がなくても現金を受け取ったり払ったりすることができます。しかし、本人確認を厳密にしすぎると、5人が共有するこの「財布」は認められない可能性があります。

齊藤達哉:だから、中間業者の人々がこれが正当な組織であると認めることが重要なんです。そうなると、この団体は会社や他の組織の銀行口座と同等の扱いが可能になります。これができていなければ、ステーブルコインは作ることも使うこともできない。だから、こうした進歩はとても大きな意義を持つのです。

伊藤穣一:なるほど、それはつまり銀行口座がなくてもステーブルコインを作り、使うことができるようになると。

齊藤達哉:そうです、それが可能になります。銀行口座がなくても、ステーブルコインを通じて資金を受け取ることができます。これを支え、応援している銀行達は大いなる意欲を持っていると思います。海外でも一部でこのような取り組みを見かけますが、ここまで本気で取り組んでいるのは少ないですね。
その中でも、我々のプロジェクトの中には三菱にはリーダーシップを発揮する人がいます。それに加えて、亀澤さんやその他のトップマネジメントの理解もあります。それらの要素が前提としてあって、どのように説明し、どのように実行に移していくかが重要なんです。

話の中心はマインドやフィンテックの系統についてです。私がこのデジタル領域に関与し始めたのは、特に計画したわけではなく、いろいろな偶然が重なった結果です。2016年くらいに「フィンテック」という言葉が流行語になり、その当時私はIT企画にいたんです。その頃、IBMのワトソンを使って色々なことをやっていました。ブロックチェーンも、もちろん存在していました。

しかし、フィンテックについて専門誌を作らなければ、金融機関にありがちな局所最適化に陥る可能性があると思ったんです。それで、フィンテック推進室を設立するという企画を立ち上げ、そこから現在のキャリアが始まりました。その中で私は新しい技術を用いてビジネスモデルを変えることを担当しました。このような活動は、DX(デジタルトランスフォーメーション)の本質だと思っています。

単純にデジタルチャネル化することも良いですが、私は本質的にビジネスモデルの変革が重要だと考えています。そうした観点から見ると、信託の領域、ブロックチェーンの領域、データの領域は非常に相性が良いと思います。しかし、反対の視点から見れば、これらの領域はすでに飽和してしまっているとも言えます。

長い間、信託という形で信用をレコードキープし、誰が所有者かを判定していましたが、それをブロックチェーンで行うという話が出てきました。それは、従来の機関が持っていた役割が薄れていく可能性を示しています。データの分野でも、情報銀行のビジネスモデルや特定の領域でのプログラムによるビジネスモデルが始まりました。このような流れが2017年から2018年ごろに見え始めました。

奥井奈南:ところで、スタートアップについてはどうなんですか?

齊藤達哉:そうですね、実は大手企業で社会起業的な動きをしている人々と同じように、私もその道を諦めました。社内で一番詳しくなる必要があると思ったんです。トップの人々が私に「あなたたちは何を計画しているのか」と尋ねてくるわけですから、答えられなければいけません。

そうなると、「誰が一番詳しいのか」という問いが出てきます。その時点で一番詳しい人であるならば、自分の意見が最も重要になる可能性があります。そのため、ブロックチェーンやデータについては、私が一番詳しくなる必要があったと考えています。その努力のおかげで、新たな仕事を得ることができました。

しかし、今回の事例を見て感じたことは、銀行内で一番詳しい人が作った最も優れたプロダクトを、35歳の若い社長に任せ、他のメガバンクに投資させるという動きがあったことです。この事例は、難易度が高いと感じました。しかし、坂本龍馬のような動きをしなければ、全体としては進歩しないと思います。

齊藤達哉:信託銀行でイノベーションを起こす試みが進んでいるそうですね。信託だけではなく、他のメガバンクや地方銀行、証券会社なども含めて、全体で変革を進めていかなければならないと思っています。

伊藤穣一:インフラ改革に興味があるようですね。個人的にはインフラが全てのルールを規定していることが魅力的です。ブロックチェーンの世界では、民間からイノベーションを起こすことが可能なので、それが非常に面白いと思っています。

齊藤達哉:確かに、ステーブルコインの普及は重要なステップですね。それが社会全体に利益をもたらす可能性があります。

金融機関が自らツールとして導入し、自分たちで発行することが重要ですね。そのためには、銀行が発行体として機能し、さまざまなコインを信託という形で発行できるようにする必要があります。

齊藤達哉:私たちは、法律を順守しながらステーブルコインを発行する責任を感じています。円建てだけでなく、ドル建てなど海外で使えるステーブルコインを実現できるようにしなければなりません。

伊藤穣一:確かに、法律の規定に従うためには、基盤となる技術が求められますね。私たちはそのための技術開発を進めています。

齊藤達哉:そうですね、ステーブルコインが存在することで、投機目的を排除した安定した通貨が生まれ、それが社会全体に恩恵をもたらす可能性があります。これは大きなステップと言えるでしょう。

全員:ありがとうございました。

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