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【感想】高畑勲、『かぐや姫の物語』をつくる。~ジブリ第7スタジオ、933日の伝説~

かぐや姫の物語を観てからえらく感動してしまって製作の裏側を描いた本などを買っているが、今回ついにこの映像ドキュメンタリーも鑑賞した。いやあすごかった。何度も涙が浮かんだ。

全編通して思ったのは高畑さんの仕事のありかたが素敵だなあということだった。コンテンツをつくることに対して一切の妥協がない。彼と仕事をすることは迷いと差し戻しの連続で正直非常に厳しいと思う。だけど彼は自分自身に一番厳しい。誰よりも自分を疑って何度も何度も試行錯誤する。高畑さんは口調がきつい人のイメージがあったけど全然そんなことはなくゆるふわなキャラクターでふわふわとした人なのが意外だった。

彼はきっちり仲間へのリスペクトを忘れていない。とあるインタビューで高畑さんは人を誉めないと鈴木さんが言っていたがまったくそんなことはないと思った。彼は心から他者をリスペクトしている。その人がもつ可能性を信じている。言葉に出ずとも彼の雰囲気からその姿勢はすごく感じた。製作にかかわった人達が試写会を経て本当に心の底から嬉しそうに「この作品にかかわれてよかった」と言っていたのが何よりの証拠だろう。

なにより高畑さんも嬉しそうなのだ。ドキュメンタリーの中では何度も「すごい」といって他者のアウトプットにこどものように感動して笑顔になる姿が何度も登場する。

いろんな人のものづくりや仕事のありかたに触れてきたが、いい意味でも悪い意味でも、自分のものごとに対するかかわり方は、高畑さんに通じる部分があるのだと思った。最上志向故についてこれないと思われることやドライだと思われることは何度もあった。一方で同じ思いを共有できた人には自分にとって「いいものをつくれた」と思ってもらえてきたように思う。いい方面も悪い方面も時には教師として、時には反面教師として、彼の仕事ぶりについては人生の中で何度もふり返り触れていきたいと思う。

印象的だったエピソードをつづっていく。

朝倉あき

かぐや姫の声をつとめた彼女は本作が初の主演。いわゆる大抜擢だ。彼女は高畑さんのファンでもある。途中泣きそうな顔を見せて苦悩する姿が印象的だった。高畑さんは容赦しない。一方でよかったときには20代前半の彼女の仕事ぶりに心の底からよかったという態度を見せる。年齢も経験も関係なく等しくプロとして接していることを感じさせられるシーン。

地井武男

地井さんの演技には圧倒された。ためいきをつくように「すごい」と高畑さんは声を漏らす。地井さんは経験を積んでいるがゆえに様々な引出しに翻弄してしまい苦しんでいた。絶妙なニュアンスを録音担当の浅梨さんと高畑さんい何度も指摘されてはやり直す。映画公開を前に亡くなってしまったことが本当に悔やまれる。完成品を観せてあげたかった。

二階堂和美

個人的には彼女とのやりとりが1番感動した。まず出会いが新聞でたまたま見つけて、CDを聴いたことからはじまっている。高畑さんは音楽的な造詣がとても深い人。二階堂さんの音楽から感じさせられる人間性と歌声、作家性にピンと来るものを感じオファーを出す。

初めての対面のとき、2人のありかたがシンクロしているのが印象的だった。命に対する哲学が近い2人なのかもしれない。二階堂さんは僧侶の資格ももっている異色の人。キャラクターは天真爛漫でありながら、何かスピリチュアルなものが見えていそうな人、さらに紡ぎだすアウトプットは圧倒的。

完成した曲を聴いた高畑さんが本当に嬉しそうで、心の底から感動している姿が印象的だった。何度も何度も聴いて、彼女を選んでよかった。この曲でよかった。と何度もかみしめる。

久石譲

奇しくも制作延期で共同作業が実現した久石さん。久石さんは高畑さんの作品への参加ははじめて。「一生に一度いっしょに仕事がしたい」えらい言葉だ。久石さんがそう思うのも自然で、久石さんを見つけてはじめに抜擢したのは高畑さんだからである。久石さんにとっては恩人なのである。高畑さんは昔から経歴や実績にとらわれる才能をまっすぐ見通すことができる人だったことを象徴するエピソード。

捨丸とのシーンの作曲についての流れは正にプロとプロの仕事。高畑さんは何度もひっくり返す。久石さんはそれに答える。二人とも作品を必死に理解して、1番最適なものはなにかを必死にもがいて探求していた。方針をひっくり返すことになったとき「会いにいかないと悪いですね」と言っていた姿から狂気と言われる人でも誠意を見せることはきっちりする人なんだな、と思わされた。

西村義明

彼なくしてできなかったと言わしめたこの作品。気鋭の若手プロデューサーだ。実力もあまりない状態からとにかく高畑さんにくらいつくことを続けた執念の人。この時代の人生をほとんど全て高畑さんに捧げた人。彼の人間性を見ると彼だからできた、はあるなと本当に思う。全く物怖じしない姿勢で高畑さんにも物申すし、記者会見でもその場で1番の最年少だと思われるがある種挑戦的な態度と口調。根っこにある人としての自信がすごい。

彼が後に立ち上げたスタジオポノックの映画は観たことがないからいつか観るのが楽しみだ。高畑さんとあれだけ側で仕事ぶりを観た彼は高畑さんの魂の若き後継者だと思う。

高畑さんは今年の4月に82歳で亡くなった。本当にありがとう。高畑さん。その人生をかけた仕事ぶりと世に与えた影響に感謝。かぐや姫の物語に出会えてよかったよ。ありがとう。本当にありがとう。


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