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163 子どもだけ


はじめに

埼玉県のさいたま市議会で市民の意識とかけ離れた、日本で唯一の条例が可決されようとしていました。そんなさなか、あまりに内容が現実に即していないものであることから、県民の多くが反対の意思を示し、条例が取り下げられるという事態が起きています。
その条例こそが、小学3年生以下の子どものみで外出・留守番させることを禁じる「埼玉県虐待禁止条例」改正案であります。
この条例の改正案を県議会に提案したのは、自民党県議団で、自ら決め議会にかけた条例の改正案に対して、さらに自ら10月10日に改正案の撤回を決めるという異例の事態になっています。
こんな珍事を最近目にしたことはなく、興味をもちましたので今日の教育コラムでは少し取り上げてみたいと思います。

改正案の中身

ごく簡単に言うと、現在運用している埼玉県虐待禁止条例に対して「子どもの放置の禁止」を加えようというものがこの条例の改正案です。
この改正を進めたのが、自民党県議団ですが来年4月施行を目指して10月4日にこの改正案は議会に提案されました。そして、たった7日間でこの条例改正案は、取り下げられました。いかにこの改正案が愚策であったかということがわかる速さです。
例えば、小学3年生以下の子どもを家などに残したまま保護者が外出することを虐待として禁じていますが、このような状態は日常的に起きうる状態で、虐待には当たりません。
また、4〜6年生についても努力義務としていますから、いつになったら子どもは自分だけで過ごす時間を楽しめるのでしょうか。これを放置というのであれば、私など子ども時代は日々の生活のなかで放置されなかったことは無いとさえ言えます。
また、こうした家に一人でいる状態を見たら県民は、通報をしなければいけないとさえ記載されています。提出された改正案には、どのような行為が虐待に当たるのかも書かれておらず、何が放置に当たるのかという質問に対して自民党県議団は次のように答えています。
「子どもだけで公園で遊ぶ行為は放置にあたり虐待」「高校生のきょうだいに子どもを預けることは放置にあたり虐待」であると答弁しています。

家庭教育に対して権力が介入していい度合い

今回の問題について、埼玉県の自民党県議団の責任者は、説明不足という点を強調し、改正案の中身について振り返ることはしていません。私は、子供の自立を促したり、子ども同士の遊びを通した社会性の向上を目指す、家庭教育の考え方にまで公権力が口を出すようになった事例として、今回の一件は大変な脅威を感じています。
また、安心して公園で遊べるような社会の形成や治安の維持を進めることが政治家の重要な仕事であるにもかかわらず、本来の地方自治や国の仕事を放棄し、各個人や家庭の責任の下で子どもの安全や安心を守らせようとするこの考え方は政治の衰退すら意味する重要な問題だと考えます。

親離れ子離れ

野生動物の親離れ子離れには、人間の常識を超えた厳しさを持ち合わせています。有名なお話にキツネのお話があります。キツネの母親は、ある日突然に子どもたちを巣穴から追い出します。
準備もしていないのに突然です。そこから子ギツネたちは、必死に戻ろうとしたり母キツネについていこうとしますが、母親は子どもたちをしかりつけるように威嚇します。
子どもたちはあきらめるようにして母の下を離れていきます。そして、自ら餌場を見つけ、寝床をつくり自立していくのです。

反論

つまり、子どもは親から離れて過ごすことが重要な学びを生み出す機会を設けるのです。だから、昔から少しは怪我をするかもしれないが、「何時までに帰ってきなよ。」であるとか、「どこで遊ぶか言ってから出かけなさい。」などと約束をして外に送り出して、心配しながら帰りを待って、何をしてきたかを聞きながら、我が子の成長を感じるといったことを私たちは繰り返してきたのではないでしょうか。
子どもも親も息苦しい条例の改正がいかに、生活に即していないかをたぶんこの改正案を提出した議員には想像がつかなったのでしょう。私たちは、民主主義という政治の形態をとっていますが、今回の改正案の取り下げは、民主主義がまだこの国では正常に働いているという側面を示したよい例でもあります。
不満や不安や疑問は、たとえどのような公権力に対してでも堂々と正しい手続きを踏んで述べていくべきです。埼玉県民の方々の勇気ある行動は、同様の条例を全国に広げていくことをとめた価値ある行動であったようにも思います。
今回のニュースは、大変重大なテーマを私たちに示しました。それが、「公権力と市民生活の乖離」という問題です。皆さんはどのようにこの問題をとれますか。小論文のテストに出たとしたら、皆さんは子どもたちだけで公園で遊ぶことを放置、虐待と考えますか?また、どのような論建てで反論をしますか?よかったら考えてみてください。

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