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【インタビュー】しみけん さん(その2) AV男優として生きる道 ーオンリーワンを貫き通す

-----プロフィール-----

日本のトップAV男優であり、出演作品数は1万本を超える。
雑誌やテレビなど様々なメディアへの出演の他、YouTube配信や、女性用風俗店の経営など多岐に渡り活躍している。著書に『光り輝くクズでありたい』など。

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性教育は寝た子を起こす?

___前編に引き続き、よろしくお願いします。子供と性の関わりに関しては性教育の位置付けが議論の的になります。重要性が徐々に浸透する一方で、「無垢な子どもに性教育をしたら健全な発達を妨げる」という意識も根強いようです。しみけんさんは性教育についてどうお考えですか。

 日本人の傾向なのかは分かりませんが、イメージでものを見てしまう人は多いです。イメージでレッテルを貼って、個々の人格を見ない。実際のところ、性教育が進んでいる国で起こったことを知らない人が多いと思います。例えばオランダなどは性教育が進んでいる国の一つですが、そこで何が起こったかというと、初体験の年齢が引き上がったんです。自分の身体を大切にするという意識が広まった結果ですね。イメージだけで「性教育が性に奔放な子どもを作る」と一概に決めつけるのではなくて、実際やってみて何が起こったのかをきちんと知る必要があると思います。そのために自分は地道に発信を行なっているのですが、やはり親世代が性教育を受けることは重要ですね。教えられていないことは子供に教えられませんから。

 あともう一つ、女性がNOと言いやすい環境づくりもとても大事です。僕がいつも言うのは「ゴムをつけてと言えないセックスは不幸の始まり」ということです。セックスもコミュニケーションですから、信頼関係を築けない行為は不幸の始まりになります。でもどうしても男女間で物理的な力の差があって怖いとか、そういうことになってしまいがちです。そういう女性にNOと言える勇気を与えてあげられる社会を実現したいですね。いくら僕らが「AVはフィクションです」「優しくしましょう」と伝えたところで聞かない人はどうしてもいるし、地道な活動を積み重ねるしかないですね。

___きちんとした性教育を受けていないと自分の身の周りにいる人の意見が絶対になってしまいます。そこで周りの人の誤った性知識に影響されてしまうのはとても危険だなと思いました。

 「性教育は無垢な子どもを起こしてしまう」「性教育によって、性に対する興味が過剰に呼び起こされてしまう」。そもそも性教育をしなければ性に興味を持たないんじゃないかという発想から、こういう意見がよく取り上げられます。でも僕はちょっと違うと思っていて、親や先生が見ていないところで子どもたちは「自分たちがどこから生まれたのか」疑問を抱くのです。ちゃんと性教育を受けていない状態でその疑問を抱くのが実は1番危なくて、それこそネットを見たら間違った情報が氾濫していますから、誤った知識を正しいと思い込んでしまう。「寝た子を起こすな」じゃなくて「ちゃんと教えてから寝かせる」というのが正しい在り方だ、というのが個人的な意見です。

 さらに言うと、学校が教えるだけではなく、家庭で同性の親が教えるというのが大事です。最初の質問は大体親にするので、そこできちんとした対応ができなくてはならない。親が戸惑ってはだめです。僕も性教育を学ぶために勉強会に行ったりするのですが、そこで練習させられるのが、「ペニス」「セックス」「膣」などの言葉を大声で口に出すことなんです。普段から言い慣れていないと、そういう言葉はすっと口から出て来ませんからね。「どうやって子供が産まれるの?」と聞かれたときに、こういう言葉を使って生物学的に正しい説明をすることができるのか、そのための心の準備が重要だと思います。

___なかなか性についてオープンに話せないことの一つの理由として、自分の性を開示したときに相手が不快に思う可能性というのがあると思います。きちんと必要なことを喋るということと、相手の捉え方に配慮することの両立は難しいなと思いました。

 それは仰る通りで、TPOを弁えるというのは一つありますね。今この場*で突然、性的なことを大声で話し出したらそれは周りに迷惑です。とはいえ、相手がどこで不快に感じるかというラインを見極めるのは難しい。聞いた話ですが、ある会社では「セクハラ」への配慮が強すぎて好きな人に告白できない、社内恋愛が発生しないという事態になったそうです。そのときに「一回誘ってNOと言われたらそれは引き下がるべき。最初の一回は許す」とルールを作ったというんですね。一回誘ってNOと言われたことは繰り返してはならないけれど、好意を伝える機会は確保してあげる、なかなかバランスの取れたルールだなと感心しました。

*取材場所のカフェ

AVへの偏見ー自分を疑うことの大切さ

___AVという世界は、世の中から否定されがちな側面があります。例えば「自分の意思でAVに出演している」と出演者本人が言ったとしても、「それは社会的弱者がAVに行く以外の選択肢を奪われているのだから実質的には強制だ」ということで、本人の意思が蔑ろにされてしまう。こういう世間からの眼差しは、現場で働く方も気にされることが多いのですか。

 気にする人もいるけれど、時代を経るごとに認識はアップデートされている印象です。ただ、もちろん今でもなお性産業に対する偏見が強い人というのはいます。僕が伝えたいのは、「自分の考え方は何かの偏見に基づいているのかもしれない」という疑いを持って欲しいということです。心のどこかに自分自身に対する疑いの目を持っていることで、徐々に気づくこともあると思う。

 例えば、僕はしばらく前に結婚したんですが、その時「おめでとう!家族のためにも仕事頑張らなきゃね」という声よりも「いつまでAV続けるの?」という声の方が多かったのは不思議でした。あと「私はAVに偏見ありませんよ!」という声をかけられることもあります。その言葉は優しさなのかもしれませんが、そもそも偏見を持たない人は「偏見ないから」なんて言わないと思うんですよね。だって学校の先生に対して「先生という仕事に偏見ありませんから」なんて言わないじゃないですか。だから内心「あなた偏見持ってますよね!?」とツッコみたくなります(笑)。

___偏見について少し葛藤があります。自分としてはAV男優というお仕事に偏見を持っていないつもりですが、もし自分の子供がAV男優になりたいと言い出したら賛成できるだろうか、と考えるとすっきりした答えが出ませんでした。実は自分も偏見を持っているのかもしれない。そう考えるともやもやした気持ちになります。

 いやいや、それは自分の中にある違和感に自覚的だから偏見ではないと思いますよ。僕には娘がいるんですが、彼女からAV女優になりたいと言われたら賛成できるかわからない。AV業界の中の人間でさえそうなのですから、そこを気に病む必要はないと思います。大切なのは結論ではなくて、そこに至る過程できちんと自分に疑いの目を向けることだと思います。


他人からの評価ーオンリーワンを貫け

___しみけんさん自身がAVの世界に入るときに、周囲の人からどう見られるのかという葛藤はなかったのですか。

 それが実はなくて、むしろ変な目でみられたいという気持ちだったんですね。というのも、ずっと親の敷いたレールで生きてきたので、そこから飛び出したいという気持ちがありました。どこか反抗したいという気持ちがあって、みんなが嫌だとか気持ち悪いと思う世界に飛び込んでやろうと思っていたんです。

 その後も仕事内容自体に葛藤はなかったのですが、一方でAV業界にいる大人たちをみて、こういう年の取り方はしたくないなと思う人はいっぱいいたんですね。お金を持ち逃げするとか、薬物をやっているとか。不真面目でだらしない人がたくさんいたので、最初はこんな業界すぐ辞めてやろうと思っていました。ところが24、5歳くらいのタイミングで急に変なプロ意識が芽生えてきちゃって、今はこんな感じになってますけどね。

___仕事にやりがいやプロ意識を持ち始めたきっかけというのは何だったのですか。

 それは、女優さんや監督のお言葉ですね。「しみけんさんと一緒に仕事ができてよかった」とか「しみけんさんのおかげで自信がついた」みたいに言われることが少しずつ増えた。それに加えて、仕事を続ける中で、多くの人が何かしら性について悩んでいるのだと知ったことも大きかったです。こんなに皆が興味を持っている世界なのに、誰も答えを出せていないということに気づいたんですね。もしかしたら自分なら答えを出せるかもしれない。そう考えるとやりがいが少しずつ芽生えていきました。

___次が最後の質問です。自由にやりたいことができるのは、それを応援してくれる人の存在が大きいように思います。一方で、AV業界のように、社会的な偏見が強くて全ての人から評価されるわけではないことを「やりたい」と思っている人も数多くいます。本当はやりたいことなのに他人に応援されないのはすごく辛いことです。このように、他人からの評価を気にして「やりたい」ことができない若い世代の人は数多くいるのではないかと思います。しみけんさんから、何かアドバイスをいただけると幸いです。

 人間は理解できないことをやろうとする人のことを否定してしまうものです。だからこそ、1人でも心の底から自分を信じてくれる人を見つけると気持ちは楽ですよね。僕の場合はマツコデラックスさんなんだけれど、昔からの付き合いで、心の支えになってくれました。
 
 僕が最初に飛び込んだのはゲイの世界だったんですよ。女優さんと仕事をすると思っていたら、来る人来る人男ばっかりだから焦っちゃって(笑)。それで悶々としていたらマツコさんから「早く転属願い出してちゃんとAV男優になりなさいよ。あなたはAV男優じゃなかったら犯罪者みたいなものなんだから、腹括りなさい」と言われて。結果今に至るわけですが、そうやって節目節目で後押ししてくれる人が1人いてくれた方がいいと思います。とはいえ、ヒーローって大体孤独だから、批判が来たら勝ちというか、アンチがついたら「よっしゃ」と思うくらいの気持ちの方が楽だと思うな。僕が好きなローランドさんの言葉で「地球の中だと重力があるけれど、突き抜けて宇宙に行ったらそこは無重力だ」というのがあります。中途半端に自分のやりたいことをやったらそれはわがままだけれど、突き抜けたらそれはオンリーワンになる。だから自分を信じてやり続けることが大事です。


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