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大麻取締法改正 経過の振り返り④「薬物の適正使用」

 「大麻等の薬物対策のあり方検討会」も中盤、第4回です。今回は薬物・麻薬の医療利用がテーマで、聖マリアンナ医科大学の教授がゲストで出席しています。「麻薬」というと違法で危険なものとイメージしがちですが、今回は医療に用いられる薬としての麻薬の話です。
 資料提出と説明は麻薬対策課→麻薬製造業者→マリアンナ大、の順です。

【検討会第4回 令和3年3月31日】
 まずは麻薬対策課の説明です。

  • 麻薬等の薬物の中には適正に使用されることにより医療上有用なものがあり、「医療用麻薬」「医療品である覚せい剤原料」と呼ぶ。例としてモルヒネがあり、現在大麻の利用はできない。

  • 医師が医療用麻薬を施用するには麻薬施用者免許が必要であり、その他非常に厳しい規制がある。麻向法での規制以外にも、薬機法で医師・薬局・患者を登録しての流通管理などがあり、条件付きでの承認となっている。投薬期間に制限がある医薬品もある。

  • 医療用麻薬の使用量の各国比較を見ると、使用料が一番多いのはアメリカ、続いてドイツ、カナダ、イギリスで、日本は62位。世界保健機構の基準でみると、アメリカは使いすぎ、日本は使わなさすぎと言える。

  • アメリカでは「オピオイドクライシス」としてオキシコドンの乱用、依存症が増え問題となっている。

  • 向精神薬の使用量を見ると、日本は2位。向精神薬は医療用麻薬と比較してかなり緩い規制となっており、業者数も非常に多い。リタリン、コンサータの不正譲渡事件を受け、流通管理を強化している。

 続いて麻薬製造業の委員からの説明です。

  • 医療用麻薬の製造業者は現在4社、海外から輸入した麻薬を製剤する麻薬製剤業者は11社。麻薬の輸入、輸出、製造、製剤、譲渡、譲受、所持、それぞれについて免許により禁止を解除されている。

  • 流通管理として、製造から施用まで一方通行で、原則返品はできないこととなっている。そのほか、保管方法や個別の製品番号付与など厳格に管理されており、日本では外国と比べても医療用麻薬の乱用はほとんど出てきていない。

  • 内閣府の「がん対策に関する世論調査」によると、医療用麻薬について、いったん使用するとやめられなくなるのではないか、寿命を縮めるのではないかというような意見もある。「ダメ。ゼッタイ。」運動で麻薬自体に拒絶反応が啓発されているが、適切に使えば必要なものだということを啓発しなければならない。

  • 依存はがん患者でない人には起こりやすいと言われているが、適正使用されていれば臨床現場で問題にはなっていない。がんが治っても飲み続けている一部の人では精神的依存が問題になるが、がん患者に痛みをとる目的で投与する場合は依存が問題になることはない。

 ここまでの説明について質疑応答がなされます。

  • 精神科医療の現場ではオピオイド乱用・依存はかなり低く抑えられている一方、緩和医療の現場ではちらほらがんサバイバーの人の不適切使用が生じている。ただ、深刻と呼べる水準ではなく、患者が向精神薬や覚せい剤原料を過剰に恐れてしまっていることのほうが気になる。乱用防止教育が効きすぎてしまっていると感じる。

  • 今まで麻薬指定されたものの中で医療用に転換されたものが実際あったのか。海外では「スケジュール化」して規制物質を医療用に利用する流れがあるが、そのようなシステムを考える可能性はあるか。 > 手持ちの情報がなく不明。スケジュール化についてはご意見をいただきたい。

  • 向精神薬の消費量が多いということだが、向精神薬について「ダメ。ゼッタイ。」運動は今後展開される必要があるか。 > 「ダメ。ゼッタイ。」はすべての薬物を対象にした取組みで、向精神薬より昨今増えている大麻をターゲットにするべきと思う。向精神薬は医師から適正に処方していただき使用の抑制に努めていく。

  • 向精神薬の不正譲渡事件があり、規制が厳しくなったという話があったが、現在はどうか。 > 現在は発生していない。 > 日本の問題は、乱用される医薬品が正当な処方としてなされている点にある。時間をかけて患者の話を聞けず薬に頼らざるを得ない、という医療の在り方の構造的な問題がある。

  • 日本は医療用麻薬の使用量が少ないということだが、世界保健機構の水準にあげると流通量がものすごく増えることになる。そうなると現在の流通の在り方は機能しなくなるのではないか。 > 規制緩和されたとしても、医療用麻薬を処方するのは医師であるので、現場での使用量が増えるかというとそうではない。流通が迅速になるだけである。

  • 「ダメ。ゼッタイ。」は薬物乱用についての用語であり、医療用麻薬の適正使用は推進すべきもの。

  • 日本ではオピオイド鎮痛薬として麻薬処方箋が必要ないトラマドールがかなり使われている。こういった医療用麻薬の規制のないものがどんどん使われることによりオピオイドクライシスに近づいていくのではないか。 > 向精神薬について今後どのような規制が必要かは検討する必要がある。

 続いて、今回のゲスト、聖マリアンナ医科大学准教授・てんかんセンター副センター長の太組一郎氏から「大麻由来医薬品のてんかん治療への活用」として資料提出と説明です。

  • てんかんは子供だけの病気ではなく、50歳以降に発症率が上がる。有病率は0.6~1.2%で、これは日本で約100万人となり、非常にメジャーな疾患である。てんかんは脳の病気で、慢性、反復の発作がある病気。全身性のけいれんだけではない、難しい病気である。

  • てんかんの治療は原則薬だが、慢性疾患であるのでずっと薬を飲み続けなければならない。ただ、薬を飲んでも36%は発作が止まらない。その全員に外科手術をするというのはナンセンスで、大多数の人は発作を抱えて生きることとなり、中には発作で重篤な状態になったり、発作の継続で認知機能、知能指数が悪くなる。

  • エピディオレックスは、てんかん発作のコントロールが難しいドラベ症候群やレノックスガトー症候群に対する薬で、日本では大麻取締法の規制で使うことができない。どの薬でも発作が止まらなかった人が、エピディオレックスにより11%が止まる。これは非常に有用である。

  • 国会議員を通じて日本でも治験の道が開かれたが、大麻免許の取得が必要で、なかなか進んでいない。現在厚生労働科学研究として、国内での適切な大麻成分由来の医薬品の選定や、てんかん以外にCBD製剤が適応となる疾患についての議論、治験の手法の作成などを行っている。

 続いて質疑応答です。

  • 現在大麻由来のCBDだと大麻取締法で規制されるが、大麻由来のTHCもCBDも麻向法で規制し、麻薬研究者免許で治験を行えるようにするのが現実的ではないか。

  • 現在の薬ではてんかん発作を抑えられる割合が半分までいかないというのは意外だった。CBDが難治性てんかんに効果を持つということが海外でずいぶん言われているが、作用機序はどうなっているのか。 > 発作抑制率については実際の臨床では半分も抑えきれていない。作用機序については、内因性のCBDレセプターを介さない作用機序があるのではないかと考えている。

  • 難治性の子供のてんかんを診ている小児神経専門医の意見、患者会・家族会の要望書を見て、この薬剤に期待を寄せている方たちがたくさんいるということを実感している。

  • 大麻取締法を改正して、治験後承認申請に至るまで何年ぐらいを想定しているか。 > 治験が3年くらいで終わるとすれば、その間に法改正について相談していくことになる。

  • エピディオレックスについて、日本では違法薬物使用者に対する差別偏見が強いため、大麻(由来)という言葉を使わなくてもいいのではないか。

  • 大麻という言葉を使わないと、同じ物質であるのにもかかわらず、薬物依存症の人への差別偏見はそのままになってしまう。

  • 将来の様々な医療応用を考えたときに、多少THCが含まれている方がよいという研究や、THCの医療活用を示唆する研究がある。早く薬が使えるようにCBDに絞るのはいいが、THCの可能性を切り落としていいのかは慎重に考えなければいけない。

  • 今の大麻取締法は部位規制で、種子と成熟した茎は使用してよいことになっている。国内ではそれらで作られたCBD製品が食品として流通しているが、CBDオイルという形で、成分規制なのか部位規制なのかよくわからない状態となっている。CBD製品の状況は、次回お示しする。

  • エピディオレックスにはTHCは含まれていないのか。 > THCは0.3%以下となっている。

 以上です。今回の法改正で大きな変更となったCBD製剤の施用の合法化ですが、この回で議論がされていました。おおむねここでの議論のとおりに改正され、難治性てんかんの治療に新たな選択肢が増えたわけで、大変よかったと思います。
 また、部位規制から成分規制へ、という改正も議論に沿っていますが、THCの有用性については認められなかったようですね(エピディオレックスに含まれるTHCは0.3%以下、産業用大麻の基準も0.3%、一方で市中で販売されるCBD製品に含まれるTHCは一番高い油脂でも0.001%。)。

 さて次回、第5回は、広報・啓発活動や大麻栽培者についてがテーマになるようです。


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